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神野美伽、36年歌い続けてきた理由

中西正男芸能記者
プロとしての矜持を語る神野美伽

 デビュー当時から卓越した歌唱力で注目され、NHK紅白歌合戦にも出場してきた神野美伽さん(54)。激動の人生を歩んだ笠置シヅ子さんの人生を描く音楽劇「『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』~ハイヒールとつけまつげ~」(23日~12月1日、大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール)に主演し、笠置さんを演じます。デビューから36年が経ちましたが、なぜ神野さんは歌い続けるのか。その理由をストレートに語りました。

同じタイプの人間

 今回の公演のお話をいただいて最初に思ったのは「え、私でいいの?」ということでした。こんなに大きなお仕事をさせてもらうのに、私がやってエエんかなと。

 でも、笠置さん関連の映像や本など、今世の中に残っているものを全て見ていくうちに「もし同じ時代を生きていたならば、同じグループ、同じタイプの人間だったんだろうな」とどんどん思うようになっていきました。

 笠置さんのバックボーンには、いつも“時代”というものがあった。特に大きかったのは戦争です。

 まず生きること自体が大変な状況だし、生活もあらゆる形で抑圧される。音楽にしても、敵国の音楽はダメ、扇情的なものはダメだとか、ものすごく押さえつけられていた時代だった。

 だからこそ、そこをかいくぐる。反抗する。そして、聞く人も今とは比較にならないほどそういうものに飢えていた。音楽と時代が重なって、全てが合致したところに笠置さんがいらっしゃったんだなと。

 時代の移り変わり。そして、ご自身の人生でもこれでもかと辛いことがあった。そういったことを全部含めて、笠置さんが歌う意味になっていたんだろうなと思うんです。

 今、甘い時代に生きている、歌っている私がおこがましい物言いになってしまいますけど、私自身もし笠置さんと同じ境遇にいたら、同じ生き方をすると思います。人が何と言おうと恋に落ちた人の子どもを産む。育てる。そして歌っていく。いくら考えても、私にはその考えしかない。

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巡りあうべくして

 実は、今公演のお話をいただいたのはもう5年くらい前なんです。ちょうどその頃から「なんで、自分は歌ってるんやろ?」とか「自分が歌う意味は?」ということをいろいろ考えるようにもなってきていたんです。

 ただ、笠置さんの人生を自分が演じることになって、今一度、笠置さんを通じてそこを見つめなおすと、いろいろなものが見えてきました。

 歌う能力、歌う機会。そういったものを神さまが与えてくださったんだったら、それをしっかりとやらないといけない。そんな思いが胸にストンと落ちた気がしました。巡りあうべくして巡りあったお仕事なんだなと強く思っています。

 今回劇中で19曲歌うんです。普通のコンサートばりに歌っているんですけど(笑)、そこに踊りもあるし、もちろん芝居もある。かなりハードな舞台です。ただ、もし仮にもっと体力的にはあった20代、30代の時に今回のお仕事をいただいたとしても、今のような満足感はなかっただろうなと。

 36年歌い続けて、その中でいろいろなことも考え、自分の気持ちが今の形になっているタイミングでやらせてもらえていることに、また感謝をしています。

プロとしての矜持

 ただ、若い頃に比べたら、年齢による変化も実感はしています。そこと戦っている日々でもあるんですけど、毎日ちょっとのことでも体のケアを積み重ねていく。続けていく。それしかないんやろうなとも思っています。

 なので、舞台に上がったら、その時点で仕事の8割はできてるんですよね。そこまでに準備をしてますから。

 皆さんのお仕事もそうだと思いますけど、会議の前にいろいろな準備をして行かれたり、こうやって取材のお仕事だったら、事前に笠置さんや私のことも調べてくださったり。そういう準備を入念にすることで、もう本番の前に、かなりの部分、終わっているんです。特に私は準備をしないで仕事にのぞむなんて、性分的にできませんし。

 仮に、直立不動で1曲だけ歌うお仕事であったとしても、そこまでにストレッチだとか体を動かす準備をこれでもかとやります。「ストイックですね」と言われたりもするんですけど、これはお仕事をさせてもらう以上、当たり前のことやと思うんです。

 もし、私がもうお仕事をしないならば、絶対にそれはやりませんけどね(笑)。ソファーでゴロゴロしてる方が、そら、楽ですもん。でも、プロとしてお仕事を頂戴する以上、やらないという選択肢はないですもん。

 今回の公演も、お客さまが8000円というチケット代を払って来てくださる。消費税も上がって、お金を使うことをいろいろなところで気にされている中、もしご夫婦でお越しになるとしたら16000円ですよ。それだけのお金を払ってくださる中、私たちはベストを尽くすしかない。

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 今公演の音楽パートの人が集まった最初の稽古の時にも、そこはズバッと言わせてもらったんです。

 「本番までの時間は限られている。きついかもしれんけど『これは言わないと』と思ったことはストレートに言わしてもらいます」と。

 今日は出来が悪かったから7000円とか、6000円とか。そういうことはないんだから、常にきちんとやるしかない。それを限られた準備期間でやる。となると、ストレートに伝えるしかないんです。やっているうちに、後から分かっていったのでは遅い。

 ま、人によったら「イヤなオバハンやな…」と思われたかもしれませんけど(笑)、メンバーより少し長く生きてる分、そこはちゃんとお話をさせてもらいましたし、みんなしっかりとそこを踏まえて本番にあたってくれると信じています。

 プロとは?ですか。これはね、両輪だと思うんです。まず片方は、今言ったみたいに最善・最大の準備を常にするということ。

 そして、もう片方はステージに上がったら誰よりも無邪気に仕事を楽しむこと。この両方がないとプロとしてはダメやと私は思います。

 実際、私がお会いして素晴らしいなと思う人たちは、別にステージに立つ人間だけでなく、会社の社長さんでもそうですけど、両方お持ちなんですよね。立体的にふくよかさをお持ちと言いますか。これが両輪なんやろうなと。

歌い続ける理由

 今回もそうですけど、一つ一つ腹をくくって仕事をやった後は、必ず“見たことのない自分”が出てくるんです。自分が変わるんです。

 今公演でどう変わるのか。今は分からないんですけど、だからこそ、それが楽しみ。まだ知らない自分と会える。それがこの仕事をやる、そして、やり続けたい理由なんです。

 プライベートでも、今年になって新しく始めたこともありますしね。「よく今から始めようと思ったな」と笑われるんですけど(笑)、バレエなんです。

 去年12月に両方の足を病気で手術したんです。なので、今年の元日は立ち上がることがやっとという状況でした。

 そこで理学療法士さんのサポートを受けて体をもう一回見つめなおす中で、実は家の近所にバレエスクールがあったことに気づきまして。まさか自分がバレエのレッスンに通うとは思ってなかったんですけど、ふと行って見ようと思ったんです。

 今は手術する前よりも、明らかに体が楽に、強くなりましたし、元気になりました。そもそも、今回の公演があったから、その前に手術をしようとも思いましたし、いろいろなものが繋がっているんやなと幾重にも思いました。

 まずは公演が終わる12月1日。どんな自分に会えるのか。これが楽しみです(笑)。

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(撮影・中西正男)

■神野美伽(しんの・みか)

1965年8月30日生まれ。大阪府貝塚市出身。84年、デビュー。85年に出した「男船」がヒット。87年には「浪花そだち」で、2003年には「浮雲ふたり」でNHK紅白歌合戦に出場する。韓国やアメリカなど海外での活動も精力的に行っており、コンサートには海外からの観客も多数訪れる。昭和の戦前戦後を通して人気を博した歌手・笠置シヅ子の激動の人生を描く音楽劇「『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』~ハイヒールとつけまつげ~」(23日~12月1日、COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール)に主演。共演は山内圭哉、星田英利、鈴木杏樹ら。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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