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絶賛の嵐!『ゴジラ-1.0』は空想科学的にも興味深い、映画史に残る傑作だ!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。

マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

さて、今回の研究レポートは……。

11月3日に公開された『ゴジラ-1.0』が大絶賛されている!

筆者も観せてもらったが、モーレツに面白かった。

ゴジラ映画史はもちろん、間違いなく日本の映画史に刻まれる傑作だ。

本作のゴジラは、どこまでも登場人物の目線で描かれ、それゆえに本当に怖い。

舞台は、敗戦直後の日本。

戦争中の自分の行為に縛られ、「自分に生きる権利があるのか」と苦しんできた主人公が、ようやく前途に温かな光を感じたとき、ゴジラがやってくる!

小さな希望が大きな絶望に! まさにマイナス1.0……!

劇中、戦争がもたらした苦しみ、悲しみがこれでもかと綴られる。心を揺さぶられる反戦映画である。

その一方で、終戦まで生き残った重巡洋艦や駆逐艦や、国土防衛のために試作されていた局地戦闘機が、ゴジラと戦うことになる。それらの激しい戦闘には、どうしても胸が熱くなる。

『ゴジラ-1.0』は、はっきり反戦映画でありながら、同時に胸躍るエンタテインメント映画なのだ。

登場する重巡も駆逐艦も局地戦闘機もツボを押さえたラインナップであり、山崎貴監督のしたたかな目配りには、もう舌を巻くしかない。

◆それは深海からやってきた!

ゴジラが出現する前、主人公の敷島は、異様な光景を見た。

多くの深海魚が口から「うきぶくろ」を出して、海面にプカプカ浮いているのだ。

それがゴジラ出現の予兆で、その後もこのオソロシイ現象は何度も繰り返される。

深海とは「水深200m以深」の海を指す。

水圧は海面が1気圧で、10m潜るごとに1気圧ずつ高くなるから、水深200mで21気圧だ。

当然、うきぶくろの中の空気も21気圧だが、ゴジラ出現の影響で海面に移動させられたら、体積は21倍になる。口から飛び出してしまうわけだ。

この不気味な現象が象徴するように、この映画のゴジラは、徹底して「深海の怪獣」である。

その生態から、肺呼吸をしている爬虫類と思われるが、同じく肺呼吸をする哺乳類のマッコウクジラも深海3000mまで潜るから、ゴジラが深海に生息していても不思議ではない。

映画では、対ゴジラ作戦も、そういったゴジラの生態を考慮して展開されることになるが、これについてはもう少し日が経ってから、考察させていただきたい。

◆ゴジラの破壊力はどれほどか?

本稿では、陸上でのゴジラの脅威について考えてみたい。

上陸したゴジラは、ズシン、ズシンと地響きを上げて歩き回る。

その「ズシン」の後に、「ガラガラ」というコンクリートやアスファルトが砕ける音が続くのが、恐ろしいほどリアルである。

また、山崎監督によれば、ゴジラの咆哮は、ある野球場を借りて大音響で声を流し、それを録音したものを使っているという。

廃墟と化した東京に響き渡る咆哮のためにそこまで……と驚くが、そういった音の効果も、今回のゴジラの怖さを際立たせている。

そして、ゴジラはスピードもかなりのもので、走って逃げる人たちが追いつかれていた。

いったいどれほどの破壊力を持っているのだろうか。

設定では、ゴジラの身長は50.1mで、体重は2万t。

この身長で歩けば、体の重心は1mほど上下すると思われ、そのエネルギーだけで2億J。爆薬50kg分である。

これに、前進しながら地面を踏みつけるエネルギーが加わる。

逃げ惑う人々との比較から、ゴジラの歩く速度は時速40km以上と思われる。

体重2万tが時速40kmで運動するエネルギーは12億J。

詳細は省くが、前述の2億Jと合わせて、5億J近くになるだろう。

爆薬120kg分だ。

標準的なダイナマイトには200gの爆薬が含まれるから、1歩あるくごとにダイナマイト600本が爆発するのと同じ。コンクリート1500tが破壊できるエネルギーである。

◆銀座に黒い雨が降る

そして、ゴジラは、熱線を吐く。

その破壊力はものすごく、大爆発が起きて、キノコ雲が立ち上り、黒い雨が降った!

キノコ雲は、瞬間的に莫大な熱が発生したときに立ち上る。

激しい上昇気流が上空で冷やされ、上昇する力を失って、キノコの傘のような形に広がる。

広島に落とされた原子爆弾では、キノコ雲を生んだ火球の温度は200万度にも及んだ。太陽の表面温度でさえ6000度だから、とんでもない高温だ。

ゴジラの熱線も、同じくらいの温度に達した可能性がある。

また、黒い雨とは、激しい上昇気流で生まれた雲から降る雨だ。

舞い上がった粉塵を含むため、黒くなる。広島でも、長崎でも、東京大空襲でも降った。

ゴジラの熱線が200万度であれば、キノコ雲が生まれ、黒い雨が降ってもまったく不思議ではない。

そして、ゴジラの脅威をそこまでのものにしてしまったのは、1946年の核実験。われわれ人間の影響なのだ。

そんなゴジラが、必死で生きようとする人々を蹂躙する。

復興の象徴の銀座に、黒い雨を降らせる。

何がなんでも倒さなければならない。

だが、戦争に負けて武装解除され、警察予備隊(自衛隊の前身)もまだ組織されず、アメリカも国際情勢から関与を控える……という状況下、いったいどうすればいいのか?

怪獣映画としての『ゴジラ-1.0』は、そんな絶望状況での戦いを描いていく。

対ゴジラ作戦は、前述のとおりその生態を考え抜いたものでまことに興味深いが、まだ映画が公開されたばかりなので、ここでの言及は避けたい。

しかし、空想科学的にもたいへんオモシロイので、後日必ずや考察させていただくつもりである。

どうか、1人でも多くの方に『ゴジラー1.0』を観ていただきたい。

素晴らしい映画だ。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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