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「女川町で1人目のコロナ感染者に」売り上げ80%減、移動販売ラーメン店の苦悩と挑戦【#これから私は

太田信吾映画監督・俳優・演出家

「人生、終わったと思いました」。東日本大震災後、地元の宮城県女川町で移動販売ラーメン専門店を始めた遠藤憲恒さん。2020年10月、女川町で1人目の新型コロナ感染者に。復帰後、店の売り上げは感染前と比べて約80%も落ち込んだ。今も町には観光客が戻らず、経営難は続く。遠藤さんは今年3月、飲食業界の不振に苦しむ仲間たちと、町を盛り上げるイベントを開催。逆風に挑む店主の思いは。

●町で1人目の感染者になって

「店名の『あらどっこい』には、たくさんの友人や親戚が犠牲になった女川町で、震災の記憶から『どっこいしょ』と立ち上がり、再生したいという思いを込めています」

2019年7月、宮城県女川町出身の遠藤憲恒さん(37)は、移動販売ラーメン専門店「あらどっこい」をオープンした。ラーメン店を始めるまでには、紆余曲折があった。かつて格闘家を目指して上京したが、怪我で挫折。その後は仙台で自衛隊に入隊し、震災を機に女川町に戻る。土木工事の仕事をしながら、好物のラーメン作りを独学で習得。起業を後押しするセミナーで経営を学び、開業にこぎつけた。

県外からの来店者も多く、新型コロナウイルスの感染対策には気をつけていた。しかし2020年10月、遠藤さんは女川町で1人目の陽性者となった。

「人生、終わったと思いました」

「いつも応援してくれるお客さんを裏切るわけにはいかない」と、自身のtwitterで正直に感染のことを投稿した。するとたちまち、数百の応援メッセージが届いた。濃厚接触者もPCR検査を受けたが、全員陰性。遠藤さんも療養生活を経て、無事退院する。

感染から1カ月を経た11月に営業を再開した。再開当日には、多くのファンが訪れ、待ちわびていた遠藤さんのラーメンを口にした。しかし、11月の売り上げは感染前と比べて約80%も落ち込んだ。

「老人ホームとか、販売させてもらっていたところから『しばらく来ないで』って言われちゃって……」

人通りが減った女川町の閑散とした通りを眺めて、遠藤さんはそう振り返る。感染した自分だけではなく、飲食店を営む地元の仲間たちも経営難に苦しんでいた。そこで遠藤さんは決意し、行動を起こし始める。

「経営が厳しいのはコロナになった自分だけじゃない。冷え込んだ飲食業界を盛り上げるために、イベントをやる。地域を少しでも元気にして、子どもたちに楽しい思い出を作ってもらって、この町に残ってもらえるように」

●強風と雨のなか、お客さんでにぎわった

遠藤さんには、恩返しをしたい店があった。震災で倒壊したものの、2020年3月に再オープンした地元のスーパーマーケット「おんまえや」だ。店長の神戸博章さんの応援のもと、この店の駐車場で販売を続けている。コロナ禍で窮地に立った時、ここでの販売が大きな力になった。神戸さんは「遠藤さんのような若手とともに、がんばってこの町を盛り上げていきたい」と無償で場所を提供しているのだ。

イベントは、おんまえやの1周年を記念する形で、3月13日に決定。通常営業同様に、おんまえやの駐車場を無償で借りることに。「石巻アップアップ隊」という地域を食で盛り上げるボランティア団体や、地元ボランティアを運営メンバーに巻き込み、準備をスタートした。警備費や保険料も準備しなくてはならない。資金繰りには苦労したが、15万円の協賛金を得て、なんとかイベント当日を迎えた。

天気はあいにくの強風と雨――。しかし、駐車場にはクレープや焼き鳥など、宮城県各地からやってきた6台の移動販売車が並び、お客さんでにぎわった。

車の中でラーメンを作る遠藤さん。ソーシャルディスタンスを保ちながら、食事を楽しむお客さんたち。「サンマ出汁の効いたラーメンが美味しい!」「身体に温まる」と、味は好評だ。

「うちのラーメンはサンマとアサリをベースにしたしょうゆラーメン。スープとチャーシューにこだわり、昔ながらの味に仕上げています。魚だしのうま味が凝縮されたスープは飲み干す人も多いんですよ」

屋外で子どもたち向けの缶バッジ制作を予定していたが、雨のため、店内スペースの一角を借りた。多くの子どもたちがオリジナル缶バッジを作って、笑顔を見せた。

遠藤さんは涙を浮かべながら、こう語る。

「こんな悪天候でしたけど、やってよかったです。あの子どもたちの楽しそうな顔を見てたら、救われました。イベントは今後も続けていきます」

観光客は激減し、まだ戻る兆しはない。しかし遠藤さんは、通常営業を続けながらイベント開催を重ね、町を盛り上げていく覚悟だ。

クレジット

監督・撮影・編集 太田信吾
編集 大川義弘
プロデューサー 前夷里枝

映画監督・俳優・演出家

1985年長野生まれ。早稲田大学文学部卒業。『卒業』がIFF2010優秀賞を受賞。初の長編ドキュメンタリー映画『わたしたちに許された特別な時間の終わり』(13)がYIDFF2013をはじめ、世界12カ国で配給。その他、監督・主演作に劇映画『解放区』(14)、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2022優秀芸術賞受賞の『現代版 城崎にて』(22)。俳優としても、舞台や映像で幅広く活動。

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