検察官定年延長法案見送りにしたツイッターデモの威力。オンライン・デモクラシーの新しいかたち
■ 政権を追い詰めたツイッターデモ
多くの方が疑問を呈してきた検察官定年延長法案、18日に成立見送りとなりました。
弁護士有志はこの問題に反対するアピールを発表(私も賛同しました)していますが、今回は異例なことに検察の元トップ検事総長らが意見書を出しています。このことはいかに今回の問題がこの国の基本を揺るがし恣意的な政治を可能にする重大なことなのか、ということを多くの人々に印象付けることになったと思います。
しかし、何よりも、法案見送りという流れを作った最大の要因は ツイッターデモだったといえるでしょう。
5月10日の毎日新聞は以下のように報じています。
この、#検察庁法改正案に抗議します というハッシュタグは、最終的には900万を超えたといいます。
現政権はこれまで、異論を呈する専門家や官僚などの「抵抗勢力」の言うことを軽視・無視して様々なことを推進してきたので、今回も官僚や法律家が反対しても押し切ればいいと考えていたのかもしれません。
しかし、やはり有権者の声は無視できません。
公明党の山口代表が、他人事的なツイートをしたら即座に、与党の一員としてどうなのか、というリプライが続きました。
これでは政府与党も有権者の生の声をひしひしと感じざるを得ません。
報道によれば、森法務大臣は法案をあきらめておらず、油断はできませんが、世論が政府を追い詰めたことは間違いないでしょう。
■ 一人の女性から始まったツイッターデモ
今回のツイッターデモは組織的なものではなく、一人の女性のつぶやきから始まりました。
このアカウント笛美さんは投稿後の経緯をnoteで振り返られ、
と書かれています。
5月8日に投稿して、2日で250万ツイート。驚異的です。組織的でなく自然発生的な動きが大きく拡散、参加者が増えて、小泉今日子さんはじめ芸能人の方も続きました。
影響力のある著名人が続々と声を上げたのもこうした動きを励ましたといえるでしょう。
笛美さんはその後も行動され、実際に国会前でスタンディングできなくてもバーチャルでスタンディングする取り組みも紹介されています。
進化していますね。
■ コロナ後のオンライン・デモクラシー
この現象をどう考えたらいいでしょうか?
この間、コロナ感染拡大防止のために、多くの人が外出もできず、外に出て行う抗議や社会運動の機会を奪われました。
しかし、そのかわりにオンラインでの社会運動が急速に発展し、政府も無視できない状況になったことは特筆すべきです。
これまでもChange.orgなどもオンライン署名や、ネットで資金を集めるクラウドファンディングが社会運動では進んできましたが、今回はツィッターデモ、オンラインスタンディング、Zoomイベントなどが功を奏しました。
今回、オンライン署名も30万を超えて集まっています。
コロナ後の新しい民主主義、オンライン・デモクラシーの始まりといえるのではないでしょうか?
■ 既存の社会運動、参加しにくい人もいる
これまで日本の社会運動、特に政府提出法案への反対というのは、署名集めや 集会の開催、院内集会、街頭宣伝、ビラ配り、多人数を動員したデモ、国会前での座り込みといった伝統的な手法がとられてきました。
まず、デモや集会は、主催者側は会場をとって、デモについて警察に行って、参加者の動員をかける、などの手間がかかり、参加者もわざわざ会場に行って数時間観客として座って話を聞いた後に、1時間ほど歩いて、みんなと同じスローガンを叫ぶ、という集団主義的で主体性の乏しいスタイルでした。
良い面もあるのでしょうが、その時間を使ってそれぞれもっとクリエイティブな発信ができるはずです。
旗やのぼりが立つカルチャーや、絶叫調のシュプレヒコールに違和感のある若者も多かったことと思います。
そこで、2015年ごろ、SEALDsの若者ががんばってラップ調でデモのカルチャーを変えようとしてくれましたが、やはり、みんなと同じスローガンを叫ぶという点は踏襲されました。
また、主催者が表に立って顔を出すことを余儀なくされたために、若者がいわれなきバッシングに晒されるという問題も生まれました。
また、参加者にとってオフラインの抗議行動には様々なバリアがあります。場所も東京の国会議事堂前に集まらないといけない、など、場所的な限定もあります。そもそもそうした場に参加すること自体、勇気のいることです。時間帯も限定されているので、子育て中の女性や忙しい人が参加することも難しい。
その一方、そういった困難を乗り越えて2000人、3000人くらいの方が足を運んでくださって集会が成功しても、その規模ではあまり報道もされず、政府も「一部の反対勢力の動き」として黙殺することもできてしまう、社会運動はそうしたジレンマを抱えてきました。
何を隠そう私も、デモへの参加は苦手で、勇気がないと参加できません。女性の中には伝統的なマッチョなデモに違和感のある人も多いのではないでしょうか?
■ オンラインで実現できること
これに対して、SNS投稿であれば、ハッシュタグで掲げられたアピールにシンプルに共感するだけでカジュアルに参加することができます。意識の上でのハードルは低いといえます。
また、時間帯も自由、自宅からでも参加できる、匿名でも参加できる、移動時間や拘束時間も少なく、疲れない、思い思いの表現方法で表現できる、リツートなどによって拡散する、知らない人がつながりあえる、など利点が多いと思います。
さらに、参加しやすく、多くの利用者がいるプラットフォームであるツイッターを利用して行われるので、みんなの耳目を集め、著名人や影響力のある人もキャンペーンに気づいて参加しやすい、というメリットがあります。
私のように、普通のデモに参加するの勇気がいるな、なんかスタイルが違うな、という人でも参加しやすいでしょう。
もちろん、最近女性たちが集まった #フラワーデモ のように対面オフラインのデモは大きな感動やつながり、連帯を育てる良さがあり、影響力もあります。オフラインの活動はこれからも大切にされるべきだと思いますが、オンラインで実現できる力も活用していくことが、これからの社会運動の鍵になるのではないでしょうか?
ちなみに、最近は、学会やイベント、国際会議などもオンラインが主流になったため、わざわざ交通費をかけて出張しなくてよくなり、出席率が上がった会合も増えています。
渡航費や日程の関係で断念していた国際会議もオンラインで開かれるようになれば、国境を越えたグローバルな意見交換への参加ももっと活発になるかもしれません。
■ オンライン・デモクラシーを強化するために
とはいえ、オンラインが薔薇色とも言えません。
インターネットインターネット、ソーシャルメディアは、これまで、不正確な情報、Fake newsなどが拡散しやすい、表現者へのバッシングが起きやすいなどとしてデメリットも指摘されてきました。
オンライン・デモクラシーを強化するためにどんなことが求められるでしょうか?
第一に、正しい情報を見極められるように、政治家や新聞記者、専門家の発信は大切です。今回、新聞記者が、自分が報じた記事をツイッター等で紹介してくれるのをしばしば目にしました。こうした積極的な投稿で、ユーザーは学びの機会を得ることができます。記者のツイッターを制限するメディアもあるそうですが、是非積極的な発信を推奨してほしいと思います。
第二に、発言した著名人などの発信者、特に女性への誹謗中傷、オンラインハラスメントをやめるべきです。
俳優の秋元才加さんや小泉今日子さん、きゃりーぱみゅぱみゅさんを誹謗中傷し、女性の発信だとみると「勉強してから言え」「何も分かっていない」などと、上から目線で女性に解説や説教をする動きが多かったといいます。また、外国人タレントの方にも、外国人は口を出すななどの嫌がらせがあったといいます。
「黙れブス」物言う女性に攻撃激化 罵声だらけのSNS:朝日新聞デジタル
小泉今日子さんは、負けない姿勢で、カッコいい大人としての手本を見せてくれましたが、誰もが強いわけではありません。
誰にも、表現の自由があります。異論があっても発言を封殺するような発言者を傷つけるような行動は控える、そうしたルールがないと怖くて意見表明できない人もいることでしょう。
プラットフォームには社会的責任を自覚して、健全で民主主義的な意見交換が確保されるように、より安全に意見が癒える環境整備に努めてほしいと願います。
第三に、誰か一人が主役を担うと標的にされるし、疲れてしまうので、発信者やリーダーは流動的、複数にして、役割分担をし、今発信してくれている人を助けたり、応援することが大切だと思います。
最後に、今回ツイッターデモが広がった要因として、コロナの影響でリモートワークになるなどして時間の余裕ができたために、社会の出来事により関わる機会や時間、余力が生まれた人もいるのかもしれません。自分が生きている国や社会がどうなっているか考える精神的余裕すらないほど仕事に追われていたけれど、コロナ後に少し精神的ゆとりができたという人もいれば、このまま政治に対して何も言わなければ政治に殺される、自分の生活が奪われるという切実な方々もたくさんいることでしょう。
コロナの深刻な影響は言うまでもないことですが、これからの経済活動再開にあたって、一歩でも前に進んでいけるとすれば、企業活動・社会運動とも、超満員電車での通勤ラッシュに象徴される「本当はやらなくてよかった伝統的な業務や負担」などの合理的見直しが進んで、より私生活が大切にされ、時間と精神的なゆとりが生まれ、より社会参加できる時代をつくっていくことができればと思います。 (了)