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ノルウェーでは選挙活動=古着交換!?

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
「地球にも財布にも優しい。要らなくなった服を交換しようよ」と政党が呼び掛けた

「何をしているんですか?」

「服の交換。持っている服と交換できますよ」

8月28日(土)、首都オスロのカール・ヨハン通りでは、左派社会党の選挙小屋(スタンド)で「古着の交換会」が行われていた。

ノルウェーでは、9月中旬の国政選挙に向けて、全国各地で選挙活動がおこなわれている。古着交換会を発案したのは政党の青年部だ。

寄付された古着は、市民が持ってきた古着と交換できる。服の売買ではないため、古着交換会のために政党が自治体から特別な許可を得る必要もないそうだ。

青年部で政治活動をしながら、中学校に通うカヤさん(14)とイングリさん(15)に話を聞いた。

イングリさん(左)とカヤさん(右)
イングリさん(左)とカヤさん(右)

政治活動に熱心かは関係なく、2人の学校や周囲では若い世代は新品よりもヴィンテージの衣服を好んで着る人が増えているという。

イングリ「ファストファッションを買う人もいれば、ヴィンテージが好きな人も。その割合は半々でしょうか。環境のためにという人もいれば、経済的に節約できるからという人もいます」

それでは大人になって経済的な余裕ができたら、新品を買い始めるのではと聞くと、「そうとも限らない。私の親もお金はあるけれど、私はそれでもヴィンテージの服が好き」と答える。

ファーやレザーも、学校で見るのは本物ではなくフェイクだという。

大量生産・大量消費・大量廃棄を政治で規制する必要はあるか

各政党は選挙小屋で政治のおしゃべりをしたり、ボランティア党員は公約パンフレットやお菓子などを無料配布している
各政党は選挙小屋で政治のおしゃべりをしたり、ボランティア党員は公約パンフレットやお菓子などを無料配布している

ファッション業界の移り変わりが速すぎるトレンドや大量生産、ファストファッションが引き起こす「捨てるカルチャー」問題は北欧諸国でここ数年間ずっと議論されている。「政治家が規制する必要がある」という声も新しいものではない。

カヤさんとイングリさんも、ファストファッションのようなブランドがノルウェーに進出することを政治で難しくさせる必要があると話す。

カヤ「ノルウェーはファッション業界にとって、いいお客。それだったらこちらも倫理的に正しい・厳しい要求をしたっていい。環境フレンドリーで倫理的にも正しい服をもっと簡単に、もっと安い価格で市民が手に入れるようになったほうがいいから」

イングリさん「若い人の間ではどういうスタイルが人気、とかいう流行はないかも。ヴィンテージではトレンドは考えずに、いいなと思ったものを手に取っている人が多いと思います」
イングリさん「若い人の間ではどういうスタイルが人気、とかいう流行はないかも。ヴィンテージではトレンドは考えずに、いいなと思ったものを手に取っている人が多いと思います」

古着のスタンドを見ていたのは中学生のリッロさん(14)。古着交換会があると聞いてやってきたそうだ。

「ヴィンテージが大好き。政党がこういうイベントを主催するのはいいことだと思います」と取材で答えた。

同じ日、オスロ・ファッション・ウィーク中の会議「Fusion Conferences」を取材中、そこでも「ファッションは、どんどん政治的になってきている」という話題があがった。

もし自分が反対する政党が主催者だったら、それでも来ますかとロッテさんに聞くと、ちょっと考えて、「うーん、それはどうかな」と答えた。
もし自分が反対する政党が主催者だったら、それでも来ますかとロッテさんに聞くと、ちょっと考えて、「うーん、それはどうかな」と答えた。

左派社会党の青年部が古着交換会を発案したのは初めてではない。インスタグラムのストーリーでイベントを告知するとすぐに市民が集まってくるという。
左派社会党の青年部が古着交換会を発案したのは初めてではない。インスタグラムのストーリーでイベントを告知するとすぐに市民が集まってくるという。

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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