「小倉トースト」の逆襲! 話題の「あんバター」のルーツは名古屋
話題のグルメに名古屋人の複雑な思い
「あんバター」が話題になっています。2022年2月8日の『マツコの知らない世界』(TBS系列)で取り上げられ、人気がますます加速しそうです。あんバターとはあんこ・バター・パンを組み合わせた和洋折衷のスイーツ。番組では、カフェやベーカリーで魅力的な商品が次々と誕生して人気を博していることが、見るからにおいしそうな映像とともに紹介されていました。
番組でもそのルーツとして挙げられていたのが名古屋の小倉トーストです。大正時代、「満つ葉」(まつば)という喫茶店で、常連客がぜんざいにバタートーストをひたして食べたのをヒントに考案されたと伝えられています。小倉トーストはパンにバターを塗るのが基本で、固形のバターをサンドするのが主流のあんバターとは若干見た目は異なりますが、発想はほぼ同じといえます。
名古屋発祥のメニューの進化版が最新流行グルメに。名古屋人としてはちょっと誇らしい反面、SNSでは複雑な思いを吐露するコメントも数々見られました。
「あんバターとかいってるけどこれは小倉トーストだよね」「あんバターじゃねぇ! 小倉トーストじゃ!!」「あんバター、小倉トーストの聖地は名古屋だと思う」「名古屋の小倉トーストをさんざん馬鹿にしてたくせに…」などなど…。
こんな意見が噴出するのも、名古屋で小倉トーストが広く深く愛されているがゆえ。そこで、名古屋人の小倉トーストLOVEにこたえて、その最新事情、そして本当においしいお店を紹介します。
名古屋はじめ東海地方では喫茶店の8割(!)が小倉トーストを採用
そもそも小倉トーストは喫茶店メニュー。そこで名古屋の喫茶店のパンといえばココ!の本間製パン(小牧市 ※創業地は名古屋)に最新事情を聞きました。
「東海4県の喫茶店およそ4000軒にパンを卸しています。うち小倉トーストを食べられるお店は8割くらい。愛知・岐阜、そして三重県の一部に普及しています」と同社営業部の佐伯信哉さん。
誕生からおよそ100年もの歴史があり、名古屋では“昔ながら”のイメージもあった小倉トーストですが、近年は進化の兆しも見られるそう。「お店独自のアレンジメニューや自家製あんを使った小倉トーストを提供する店が増えています」と佐伯さん。同社は昨年、同業の永楽堂(名古屋市)、エースベーキング(愛知県清須市)と共同で「小倉トースト100変化」なるプロジェクトを発足。フルーツや様々な食材をトッピングるするなど100種のレシピを開発して無料公開し、これをメニューに取り入れている店もあるといいます。
コメダのモーニングで「あんこ+バター」初体験(!?)
モーニングサービスなど喫茶店の名古屋式スタイルを全国に知らしめた存在が、ご存じ「コメダ珈琲店」(以下「コメダ」)です。
そのコメダは、当時既に全国に店舗が広まっていた2015年に「選べるモーニング」を導入。モーニングサービスのトーストと並ぶおまけとして、従来のゆで玉子に加え、おぐらあん、たまごペーストという選択肢を用意しました。小倉トースト好きの名古屋人がさぞや喜んだかと思いきや「実は名古屋地区ではゆで玉子を選ぶお客様が圧倒的に多く、逆に北海道や九州など名古屋から離れた地域ほどおぐらあん比率が高くなるんです」とマーケティング本部の杉野正貴さん。
このおぐらあんモーニングで初めて小倉トーストを食べた人は、日本中でかなりの数にのぼることは間違いありません。同時にこれをきっかけにあんこ+バターの相性のよさに気づいた人も少なくなかったはず。すなわち名古屋発喫茶・コメダが、あんバターが全国で受け入れられる下地をつくった、といってもあながち言い過ぎではないかもしれません。
“シメ小倉トースト”を楽しむ「小倉トースト飲み会」も
あんバター・シーンでも我が道を行く名古屋では、これを酒と一緒に楽しもう!という試みも。「あんこはウイスキーにも合う、と聞いたのをきっかけに『小倉トースト飲み会』というオンラインイベントを開催しました」と主催者の永楽堂・高野仁美さん。昨年は夏冬の開催に合わせて60人以上が参加したそう。
「クリームチーズと漬物やブラックペッパーなどのスパイスをトッピングしたり、黒ビールや日本酒の古酒、ジンとマッチングさせたりと、皆さん組み合わせにこだわりながら楽しんでくれました。今後は居酒屋さんに提案するなどし、さらに『シメ小倉トースト』の可能性を探り、広げていきたいと思っています」(高野さん)
オールドスタイルから進化版まで魅惑の名古屋・小倉トースト!
さて、ここからは名古屋の小倉トーストの名店、お勧め店を紹介。まずは小倉トースト発祥の店「満つ葉」(現在は閉店)ののれん分け「喫茶まつば」(名古屋市西区)。その名も元祖小倉トーストは、こんがりきつね色のバタートーストで粒あんをはさんだオールドスタイル。モーニングサービスでは別添えのあんこを自分で塗るセルフ式小倉トーストを味わえます。
小倉トースト目当てに行列ができる。そんなブームの火付け役となったのが「KAKO花車本店」(名古屋市中村区)です。10年ほど前に4色のジャムとホイップクリームを乗せた小倉トーストを売り出すと大ブレイク。しかも見た目がかわいいだけでなく、あんこ、クリーム、ジャムはすべて自家製で、さらには高級な四つ葉バターを使用。ぜい沢かつ優しい味わいで、小倉トーストのバリューを大いに高めました。
ここからのれん分けした「KAKO BUCYO COFFEE」(名古屋市中村区)も、遠方から足を運ぶファンが少なくない人気店です。自家製あんこは甘さ控えめで軽やかな口あたり。ふんわり厚切りの角食パンか、丸くてさっくりしたカイザーパンを選べます。
あんこの真打ち登場!ともいうべきが「那古野茶屋」(なごのちゃや/名古屋市中区)。名古屋を代表する和菓子の名門・両口屋是清が運営する和カフェで、昨年10月におぐらトーストを売り出しました。丹波大納言を使った小倉あんは奥行きのあるふくよかな甘みが。この自慢のあんこに負けないものをと選び抜いたパンはもっちもち。口の中から幸福感があふれ出てくる至福の逸品です。
ユニークな進化系では「喫茶ニューポピー」(名古屋市西区)の鉄板小倉トースト。鉄板皿にバターをしいて分厚いゴマパンを熱し、アイスクリームをトッピングして仕上げは自家製コーヒーシロップ。“熱×冷+甘×苦”と多彩な要素が主張し合いながらも引き立て合う不思議な食体験を楽しめます。
パンのチョイスで個性を発揮しているのは「LUCK CAFE」(ラックカフェ/名古屋市昭和区)。「このパンに出会ってあんバターメニューをつくろうと考えた」という西尾抹茶パンは、ちぎるとぶわッ!と抹茶の香りが。上品な香りとほろ苦さが、あんこの甘みとバターの塩気を包容力豊かにまとめます。
「なつめコーヒー」(名古屋市瑞穂区)のあんトーストは、名古屋市内でもかなり稀少な、パンもあんこも自家製という一品。表面はカリッ、中はふわっとした無添加パンにバターがしみしみ。小豆の粒感をしっかり残しながらも柔らかなあんこがたっぷり乗って、手づくりの愛情が口の中いっぱいに広がります。
夜メニューとしても人気を得ているのが「シヤチル」(名古屋市千種区)のあんバタサンドです。しっとりした生パンではさんであるのはあんことバター、そして隠し味のパイナップル。甘みと塩気に甘酸っぱさも加わり、見た目同様に味の印象もキュート。飲んだ後に、苦味しっかりのコーヒーとともにこれで〆ると、充実した気分で一日をしめくくれそうです。
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元祖・あんバターともいうべき名古屋の小倉トーストは、王道から本格派のアップグレード版、意外性ある進化系まで多種多彩。発祥の地ならではの豊かなバリエーションとその美味を味わいに、是非名古屋にお越しください!
(写真撮影/すべて筆者)