2014年のロシア軍-2 進む近代化と巨額の次期装備計画
前回のプーチン大統領の演説に続き、今度は国防省の年次報告書に記載された内容からロシア軍の状況を見てみたい。
全般
- 戦略ロケット軍では3個連隊のヤルスICBMが実戦配備についている。
- Tu-160とTu-95MSが合計8機近代化改修された。
- 海軍では最新鋭の弾道ミサイル原潜ユーリィ・ドルゴルキーが常時即応状態にあり、年末までに同クラスは3隻まで増加する。さらにクニャージ・ウラジミールとクニャージ・オレグの2隻が起工される。
- 合計38基の大陸間弾道ミサイル(ICBMとSLBM合計)が受領された。うち、22基はSLBMである。長距離弾道ミサイル戦力に占める近代的兵器の比率は56%に増加した。
- 通常戦力に関しては、クリミアに独立した部隊グループが編成された。同半島の既存の兵力に加え、7個の連合部隊(師団、旅団)及び8個の部隊が編成された。
- 14個UAV部隊が編制され、189機のUAVが納入された。これは、我が軍がこれまでに受領したUAVの総数にほぼ等しい。
- 国防省に国家UAVセンターが設置され、軍だけでなく他省庁のUAV要員の養成を開始した。UAVの飛行回数は2013年から倍増した。
- 空軍では混成航空師団及び防空師団が編成された。全ての航空宇宙防衛旅団は師団編成に改編された。
- 年末、黒海艦隊に独立潜水艦旅団が編成される。
- 北方艦隊を基盤として北極に統合戦略コマンドが設立された。既存の防空師団及び海軍歩兵旅団に加え、北極自動車化歩兵旅団が編成されている。コテリヌィ島には対艦ミサイルと防空システムを装備する戦術グループが配備された。極地でも通常の生活が行えるよう、特殊な移動式兵舎が配備された。
- 航空宇宙防衛部隊では、高度工場準備型レーダー(訳註:ヴォロネジ弾道ミサイル早期警戒レーダーを指す)がカリーニングラードとイルクーツクにおいて実戦配備に就いた。さらにバルナウルとエニセイスクでも同種のレーダーが試験配備に就いた。
- 空挺軍の第45特殊任務連隊が第45特殊任務旅団に再編された。
装備調達状況
- 陸軍
イスカンデル-M作戦・戦術ロケット・コンプレクス2個旅団
戦車294両(近代化)
その他の装甲戦闘車両296両
S-300V4防空システム2個システム
自動車約5000両
- 空軍
航空機142機
- Su-30戦闘機及びSu-35S戦闘機合計53機
- Su-34戦闘爆撃機16機
- 輸送機・練習機合計28機
- MiG-31BM(近代化改修)18機
ヘリコプター135機
- 攻撃ヘリ46機
- 武装強襲ヘリ72機
S-400防空システム7個コンプレクス(大隊)
- 海軍
巡航ミサイル搭載原潜セヴェロドヴィンスク
大型潜水艦(通常動力型)ノヴォロシースク
水上艦5隻
戦闘カッター各種合計9隻
- 航空宇宙防衛部隊
新型ロケット「アンガラ」の試射成功(アンガラの概要と意義についてはこちらの拙稿を参照)
- 国家国防発注が100%履行された結果、全軍の近代的兵器の比率は2013年から平均7%上昇し、軍種・兵科によって26-48%へと上昇した。この結果、全軍種・兵科を通じた近代的兵器の比率を30%にするようにとの大統領令は完全に履行された。
- 修理済みの装備は85%となり、2013年に比べて5%上昇した。
- 部隊における修理組織の再建、国防省傘下企業及び軍需産業コンプレクスにおける合理的な修理計画・保守作業・近代化作業、予備部品の調達継続が可能となり、修理費用は30倍となった。
- 似たような機能・性能を持つ将来型兵器・装備の編成(統合?)作業が実施された。これにより、2025年までの国家装備計画の費用は55兆ルーブルから30兆ルーブルに削減された。
人員充足
- 軍に高度技術兵器・装備を導入するため、契約軍人を増加させている。
- 現在、契約軍人は合計29万5000人であり、昨年よりも7万5000人増加した。契約軍人の募集計画は100%遂行された。
- 軍で勤務している人員の65%は中等もしくは高等教育を受けている。
- 契約軍人の91%は30歳以下である。
- 全ての契約軍人は、ロシア全土に設置された21カ所の訓練センターで4週間の訓練を受けている。
- 徴兵の受け入れ態勢が改善された。全ての徴兵募集所に電子カードと衛生装置が導入された。
- より才能ある人材が軍で勤務するため、5個化学研究中隊が編制された。
- 65の民間大学で予備役兵士及び予備役下士官を養成するための軍事訓練が実施され、1万4000人が訓練を受けた。この新制度により、民間の専門教育を受けつつ専門的な軍事訓練を受けられるようになった。
国家的・軍事的指揮システムの改善
- 軍指導部の指揮及び国防力強化のため、国家国防司令センターが設置された。
- これにより、国家の全軍事組織をリアルタイムで指揮することが可能となった。
- 各軍管区にも地域センターが設置され、現場の部隊まで含む指揮システムが展開される。
- 軍の指揮システムのための技術的基盤も発展しつつある。東部軍管区には32基の指揮システムが導入された。空挺部隊では自動指揮システム「アンドロメダ-D」の配備が完了しつつある。
- 陸軍では自動車移動式新型通信システム468基が配備された。
- 兵站管理システム「スヴェトリーツァ」による効率化の効果が認められた。
以上、いろいろと見所は多いが、特に注目されるのは2025年までの国家装備計画(GPV-2025)の総額を30兆ルーブルとしている点であろう。
特にGPV-2025については、昨今の経済危機の中で財務当局が一部装備計画の先送りによる大幅減額を主張しているが、上記の報告を信じるならば、軍は現行計画(19兆ルーブル)をはるかに上回る55兆ルーブルを要求したものの、30兆ルーブルで「手を打った」ということになる。
GPV-2020の策定に関しても、軍は当初、38兆ルーブルという巨額の予算を要求していたから、もともと軍の要求額はこのあたりだったのだろう。
だが、ロシア経済の状況が短期的に改善することが考えられない中、財務当局がこのような巨額支出に納得しているとは考えにくい(ロシアの経済危機と軍事費削減についてはこちらの拙稿を参照)。今後、一波乱がありそうで、注目されるところだ。
本稿はWorld Security IntelligenceのWSI DAILY 2014/12/22に掲載された記事を2回に分けて転載した記事の第2回です。