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U-19日本代表、フランス戦「25分の完敗」。『プレU-20W杯』初戦で見えた課題、見え損なった課題

川端暁彦サッカーライター/編集者
吹き飛ばされる日本のFW堂安律。フランスとの「差」は……?(写真:佐藤博之)

プレ・U-20ワールドカップ

日韓両国に加えてブラジルとフランスのU-19代表も参加する四カ国対抗戦「SUWON JS CUP」が韓国・水原市にて5月18日から開幕した。「JS」とは韓国の伝説的英雄・朴智星(パク・チソン)のことで、彼の財団が主催する大会となる。来年韓国ではU-20W杯が開催されるため、4カ国にとってはその準備という位置づけを持つ大会ともなった。いわば「プレW杯」というわけだ。そんな大会の初戦で日本と対峙したのはフランス。「楽しみ」と語っていたのは内山篤監督だが、かつて「手本」と仰いだ大国を相手に「東京五輪世代」である日本の若武者たちがどこまでやれるのか注目の一戦となった。

ただ、フタを開けてみれば何とも残念な試合になってしまったと言うほかない。「ビビっていた選手が何人もいた」と指揮官が肩を落としたように、受け身で試合に入ってしまった日本は序盤から相手にボールを支配される展開に。開始5分と14分にイージーなミスと甘い守備から2点を失うと、さらに25分には敵陣深い位置からの対角のロングフィードを正確に通される形からルドヴィック(ギャンガン)にハットトリックを許して、合計3失点。MF遠藤渓太は「(プレスに行った)自分の守備が甘かった。でも、あそこからあの位置まで通してくるとは」と驚いたように、決めてきた相手が非凡だったのも確かなのだが、そういうレベルの相手に開始早々からやってはいけないプレーが続いたことこそ問題視すべきだろう。

「(各失点は)アンラッキーなんかじゃなかった。パスを引っ掛けられたのも、ロングスローでやられたのも、最後の失点もそう。守るべき原則を守れていなかった」(内山監督)

攻めに関しても冴えなかった。全体に動きが少なく、パスが走らない。この3失点の間、FWまでボールが届いたのは数えるほど。当然、シュートは1本も放つ機会がなかった。指揮官の言葉を借りて「ビビってしまった」理由を探すなら、FW小川航基(磐田)ら主力と目される選手たちが負傷やナビスコカップ予選リーグの試合を優先して不在だった影響は確かにあっただろう。「(国際試合の)経験値の少ない選手が多く出ていた」影響は否めない。ただ、それにしても、やられ過ぎな25分だった。「どうしてかチームとしてスイッチを入れられない感じになっていた」とFW堂安律(G大阪)は首をひねったが、せめて1失点の後に奮い立つ必要のあるゲームだった。

その後、相手がゆるんだスキをついて堂安のパスからFW垣田裕暉(鹿島)が冷静にシュートを決めて1点を返し、後半は相手が長旅の疲れからか、あるいはリードの緩みからか運動量が落ちたところで60分前後からは日本の時間帯になっていた。63分には相手のハンドからPKのチャンスもあったが、MF坂井大将(大分)のキックはGKブラート(ナント)に阻まれてゴールならず。その後はペナルティーエリア内の守備というフランスの強みを感じさせたのみで、日本の得点は生まれないまま試合終了のホイッスルを聞くこととなった。

「もったいない」敗戦

ホイッスルと同時に浮かんだ言葉は「もったいない」だった。最初の「つまらない失点ばかり」(内山監督)で勝負は決まってしまっただけに、フランスは自然とギアを落としていく流れとなり、後半にあったであろうギリギリの勝負を体感できなかったからだ。フランスのメンバーはほとんどがリーグアン(フランス1部リーグ)で試合に絡んでいる選手たちで、個々の身体的なクオリティは確かに高かった。MF中山雄太が「Jリーグでは正対してからでも間に合う(スピードがある)けれど、フランスの選手はそこからの加速が違った」と振り返り、「裏に抜けたと思っても追い付かれて足が出てきた。Jリーグでやるのとはまったく違う感覚」と遠藤も振り返る。Jリーグでの経験を持つ選手ですらこうなのだから、そうでない選手はさらに厳しかったことは想像に難くない。

ただそれでも、絶望的な力の差があったとは思わない。正確に言うと、それを感じさせてもらえる前に試合が終わってしまった感覚がある。日本が見せたスキを正確に狙われての3失点。もし、そのスキを見せずに試合を運んでいれば、駆け引きの部分や強引に出てくる力強さなど、彼らの強さをより意識させられる展開にもなったはず。それを体感できなかったのが、やはり「残念」なのだ。

もちろん、こぼれた水を嘆いていても始まらない。幸いにも2試合が残っており、ブラジルとやれるのも、アウェイの韓国戦を体感できるのも若い選手にとっては大きなチャンスであり、そしてそれを生かす必要がある。「経験のない選手が国際試合の雰囲気に飲まれるのは仕方ない。問題は次だ」と木村浩吉ダイレクターが総括したとおり、次の機会に「ビビって試合に入る」ような選手が日の丸を付けているとも思わない。「もったいない」試合はフランス戦で最後にした上で、ブラジル戦と韓国戦では「プレW杯」を感じさせるようなギリギリの好勝負が観られることを期待したい。

U-19日本代表・フランス戦先発メンバー

【GK】

小島亨介/早稲田大学

【DF】

小島雅也/仙台

大南拓磨/磐田

町田浩樹/鹿島

舩木翔/C大阪

【MF】

中山雄太/柏

坂井大将/大分

高木彰人/G大阪

堂安律/G大阪

遠藤渓太/横浜FM

【FW】

垣田裕暉/鹿島

【交代】

小島→神谷優太(湘南)

垣田→中村駿太(柏)

高木→伊藤涼太郎(浦和)

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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