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手倉森JAPANはどこでしくじったのか?五輪終焉の現実。

小宮良之スポーツライター・小説家
今大会、もっとも可能性を感じさせた大島。(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

スウェーデン戦、日本は安定した戦いで1-0と勝利を飾った。

守備に立ったときにはボールの出所を封じ、自由を与えずに敵陣へ押し込み、自陣内に立ち入らせていない。守りで腰が据わったことで、攻撃に転じたときも迫力が出た。ボールスキルの高い選手たちは俊敏な動きを織り交ぜ、ダイレクトプレーを入れ、一気にスピードを上げている。そして後半20分、スペースを見つけた大島僚太が左サイドを切り裂き、折り返したボールに矢島慎也が飛び込み、決勝点を決めた。

しかし、サルバドールで日本の戦いは終わりを告げている。同組で2位を争っていたコロンビアがナイジェリアに勝ったことにより、日本の3位が決定。リオ五輪、大会敗退が決まった。

手倉森誠監督が率いた五輪代表とはなんだったのか?

適切なスカウティングだったのか?チームをアップデートできず

まず、五輪アジア予選を勝ち抜いた手倉森JAPANは、賞賛されるべき存在である。アジアで頂点に立ったことは離れ業に近い。手倉森監督でなかったら、彼が固定化した"子飼いメンバー"の一体感がなければ――。リオ五輪本大会に辿り着けなかったかもしれない。手倉森JAPANは、ブラジルのピッチに立った時点で一つの成果を上げていた。

しかし、組織を重視することで集団を旋回させてきたチームは、同等か、同等以上の「世界」と遭遇し、個人の欠如を晒すことになった。

アジアを乗り越えたチームは素晴らしかったが、その選手たちの多くが所属クラブで満足なプレーができない状況に甘んじることになった。その一方、アジアを勝ち抜いてからの半年間で、メンバー外だった選手たちが所属クラブで出場時間を延ばし、目覚ましい成長を見せていたのだ。

例えば橋本拳人(FC東京)はスタメンに定着。ボランチだけでなく、右SB、右サイドハーフ、左FWまで担当し、戦闘力を高めていた。外国人選手と戦うことによって、「攻守のダイナミズム」は開花する予感があった。また、(怪我で大会を棒に振るも)奈良竜樹(川崎フロンターレ)は頭角を現し、鎌田大地(サガン鳥栖)もトップ下として幅を広げていた。そして関根貴大(浦和レッズ)、富樫敬真(横浜F・マリノス)、中谷進之介(柏レイソル)らも台頭著しかった。

<チームをアップデートできなかった>

それが敗退を語る上で、根本的理由である。

では、今回のメンバーではグループリーグを勝ち抜けなかったのか?

そう問われたら、可能性は十分にあった、となる。

「我慢強く戦う」

手倉森監督がそう宣言した初戦のナイジェリア戦、相手に振り回されすぎた。急造のシステム、4-3-3を採用したことはその象徴。不必要に用心して怯んでしまい、その隙を突かれた。受け身に立ったことで、自分たちが相手を引き回せず、勢いを与えてしまったのである。そもそも守りきれる守備の強度はなかった。J1で満足に実戦経験を積めていない左FWの中島翔哉、左インサイドハーフの原川力、守備が極端に弱い藤春廣輝で、どうやって守備強度を上げられるのか?

2度まで同点に追いつき、最後は1点差に迫ったことは讃えられるべきだろう。しかし入り方の悪さで敗れたことも明らかだった。次のコロンビア戦を相手のペースに引きずられ、引き分けるのがやっと。スウェーデン戦には勝ったものの、万事休すだった。

その意味では、試合の流れをコントロールする、あるいは決定づけられるようなOAがいたことが、勝敗の差にもつながったと言えるかもしれない。1位通過のナイジェリアは、OAのジョン・オビ・ミケルが攻守にチームにテンポを与え、浮き足立つ若い選手を落ち着かせていた。2位に滑り込んだコロンビアも、ドルラン・パボン、テオフィロ・グティエレスが攻撃を牽引。彼らが戦術軸になって戦局を動かしていた。

一方、日本のOA、藤春、塩谷司、興梠慎三は国際経験が乏しいからか、自分のことに精一杯だった。熱意は伝わったものの、連係に気を遣うので四苦八苦し、軸になっていたとは言い難い。

これはスカウティングの問題だろう。

藤春はスピードやスタミナが評価される選手だが、守備に難があった。ナイジェリアの先制点は二人がかりで囲みながら、易々と突破されている。日本サッカー全体で、サイドバックという守りの仕事を見つめ直すべきだろう。

興梠は若い選手に寄り添うようなプレーで、一定の機能はしていた。しかし見方を変えれば、集団、組織に埋没していたとも言える。彼の招集は当然のように受け入れられたが、不思議でならない。ゴールゲッターとは得点でチームを導くもの。興梠はJリーグで4年連続で15得点以下だった。

なぜ、4年連続15得点以上の豊田陽平は候補にも挙がらなかったのか?

「興梠に比べたら、高さやポストワークの技術が足りない」

そうした意見はもっともらしいが浅はかで、日本サッカーのスカウティングにおいて、根源的なミステイクを生む。ゴールが仕事のFWになにを求めるのか? そこでの矛盾が、日本のストライカー不在を引き起こしているとしたら―-。

選手評価に関しては、日本サッカー全体の問題点と言える。

はたして、手倉森JAPANは成功だったのか?

それは今大会だけでは答えが出ない。サッカー五輪チームはUー23代表という育成年代の集大成で、成功か失敗かは、5年、10年後に下されるべきだろう。大会メンバーがどんな舞台に立っているのか。あるいは、落選したメンバーが捲土重来で悔しさを晴らせているか。

プロサッカー選手としてのリオ五輪世代の生き様に期待したい。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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