営業はスキルだ!誰もが無敗営業になれる、3つの質問と4つの力【高橋浩一×倉重公太朗】第2回
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高橋浩一さんは、2010年にアルーから独立した後、11年にTORiX株式会社を設立し、代表取締役CEOに就任しました。売る側と買う側の両方を経験してきた高橋さんは、営業と顧客の間には「認識のズレ」があることに気づきます。「お客様が求めているのはこういうものだ」という前提が間違ったまま営業をすると、なかなか成果にはつながりません。不満に思ったお客さまは、営業にわざわざ親切に理由を教えてくれる訳ではないので、営業が自分で気づくのは困難です。お客様の本音と建前を見分け、認識のズレを解消するための「3つの質問」と「4つの力」について聞きました。
<ポイント>
・顧客がどこで迷っているのかを明確にする
・「意思決定場面」にはお宝情報がつまっている
・価格よりも「費用対効果」が重要
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■結着案件の振り返りで成果が上がる
倉重:「営業は天賦の才ではなく身に付けられるもの」という感覚は自分が行かないとうまくいかない」と思っていたのが、「自分が介入しないほどうまくいく」という体験をリアルにしてからですか。
高橋:そうです。その時も新卒の人たちを年間数人採用していましたが、自分から見て、営業は向いてなさそうな人たちも結構いたのです。営業のやり方や個性は人それぞれですが、1つだけ「全員でこれをやろう」と言って続けたのが、「決着案件の振り返り」でした。
倉重:うまく成約が取れた案件をちゃんと分析するということですね。
高橋:はい。受注したものも、失注したものも、決着がついた案件を一覧に出し、毎週会議を行ってみんなで振り返りました。「受注したから褒める」「失注したから責める」というだけではなく、何がポイントなのかを話す場として始めたことが、すごく効果的でした。
倉重:良かった例と悪かった例を共有するということですね。
高橋:そうです。本の中で「接戦の決着」と書いているのですが、原体験として、決まった案件の裏側には色々なヒントが入っていると感じていました。営業のプロセスをしっかり丁寧に見ていくと、やり方は人それぞれですけれども、成果が上がることが見えてきたのです。今振り返っても非常に大きな体験だったと思います。
■退社後、Twitterや生放送を始める
倉重:いつ頃から独立して、自分の会社を起業しようと思ったのですか?
高橋:最初は営業の会社をしようとは思っておらず、ベンチャーの創業役員で6年間全体を見る立場にいたので、非常によく働いていました。ただ、「少し休みたい」と思い、2年間くらいはふらふらして、毎日朝から晩までTwitterをしていたのです。
倉重:私と高橋さんが知り合ったきっかけは、私がTwitterでナンパしたことでしたね。
高橋:そうですね。本当に朝から晩までTwitterをしていました。僕が前の会社を辞めたころにiPhoneが出たのです。それまでは営業というアナログな世界にいて、デジタルに触っていなかったので、Ustreamというサービスを使って放送することにしました。
倉重:何の放送をしていたのですか。
高橋:「とりあえず1日4回放送しよう」ということだけ決めて、朝昼晩、配信していました。なぜかというと、「苦手なことをたくさんする」という習性が自分の中にあるのです。苦手なデジタル分野で、Twitterと生放送を毎日続けていたら、今までとは違う種類の人たちに出会う機会がたくさんありました。当時はiPhoneのアプリを作ろうと思って、プログラミングスクールにも行ったのです。
倉重:実際にアプリをリリースしたのですよね。それはどうでしたか?
高橋:さっぱりダメでした。思いつきで作ったものがうまくいかないのは、今考えると当たり前のことです。その時に「本を書きませんか」というお話があって、『バカ売れ営業トーク1000』という本を出しました。
倉重:英語の単語帳のようにスクリプトが書かれたものですね。
高橋:それを書いたら人づてに営業の相談が来るようになりました。
■買う側と売る側のズレを認識する
倉重:その次の本がこちらの『無敗営業 「3つの質問」と「4つの力」』です。サブタイトルにもあるように、「3つの質問」と「4つの力」が重要だということが書かれています。まずは「3つの質問」からご説明いただけますか。
高橋:なぜこういう本を書こうと思ったかというと、前の会社では経営側として、買う側を経験していました。そうすると、営業に対してあまり良くない印象を持つことが多かったのです。例えば、ろくに会社のことを調べないまま提案されたり、一方的に話をされてズレた提案が来たり、資料の社名が間違っていることがありました。営業のマネジメントの経験もあったので、「なぜ売る側と買う側の見る世界が違うのだろう?」ということに問題意識を持っていたのです。
倉重:営業と顧客の意識のズレですね。
高橋:そうです。例を挙げると、「ガツガツくる営業」に対しては、何となくいい印象を持たない人が多いと思います。
倉重:「面倒くさいな」「嫌だな」と感じますよね。
高橋:これをもう少し冷静に分解しようと思って、お客様側からどう見えているのか調査しました。例えば「動きが悪いと感じた営業に当てはまるものを選んでください」という質問を設定すると、「間が悪い」といった答えがあがります。間が悪いといっても、ガツガツしてきて間が悪いというものは、アンケートの順位としては低いことがわかりました。むしろ連絡頻度が少なくて、ガツガツしていない営業のほうが印象は悪かったのです。お客様からすると、もう少し迫ってほしいのですね。これは買う側に立っていたから感じたことなのですが、みんな浅いのです。
倉重:もっと深く来てくださいよと。
高橋:売る側に立つと、怖いからついつい腰が引けてしまいます。また、この調査でわかったのは「期待ギャップ」が大きいということです。期待に対してズレた行動をすると、マイナスの評価をする方が非常に多かったのです。アンケートの上のほうはすべて期待とのズレが原因です。ガツガツ行き過ぎて嫌がられることを懸念した結果、アクションが足りない、相手を理解しきれず、期待に応えられないということが起こっています。
倉重:なぜこういうズレが発生してしまうのでしょうか。
高橋:よく誤解されますが、費用対効果と、お客様が「価格を安くしてくれ」というのは明らかに違う話です。どちらもお客様のセリフとしては「少し高いですね」という感じですから、きちんと確かめない人が多いのだと思います。
倉重:金額だけではなく、そもそも何を欲しているのか、何に納得するのかが大事なのですね。
■まず、案件の種類を分ける
高橋:そうです。そういうことをきちんと解き明かすために3つの質問を考えました。
倉重:ついに3つの質問が来ましたね。
高橋:まず、案件の種類を分けるということです。あらかじめ「御社のファンです」と言っているお客様は、何をしても受注してくれます。他社のファンというお客様は、どう頑張っても難しい惨敗案件です。他には「やり方次第でどうにかなる」という接戦案件があります。結局この案件をしっかり狙ってクロージングができるかどうかが営業力に直結してくるのではないかと思います。
倉重:その「接戦案件」をきちんと取るのが大事だということですね。接戦状況を問うのが第1の質問だと。
高橋:そうです。そもそも接戦状況を確認する人は結構少ないと思います。まずあっさり決まりそうかどうか。「イエス」であれば楽勝、「ノー」であれば惨敗です。あっさり決まらないということは、もつれているわけです。何でもつれているかというと、他社と迷われている。あるいは判断を保留にされていることもあります。
倉重:何が原因で迷っているのか。
高橋:そうです。何が原因で迷っているのかをしっかり解き明かすのが大事だと思います。実際に買う側に立つと、営業が強い会社は絶対にこういうことをしてきます。
倉重:何が原因かを解き明かそうとしてくるのですね。
高橋:そうです。例えば「ちょっと考えます」と言うと、営業が強い会社は、その言葉を絶対に逃さず、「ちょっととはどのくらいですか?」と聞きます。「1週間ぐらいです」と言うと、「今日は7月2日ですが、7月9日までには結論が出るということでしょうか?」と詰めていきます。「会議で検討します」と言われたら、「会議はいつですか?」「ではその後にお電話してもいいですか?」というふうに聞いていくのです。営業が強い会社は、際どい案件を逃さないことが非常に徹底されています。これをやらない営業の人のほうが大多数です。
倉重:「ご検討ください」で終わってはダメだということですね。
高橋:そうです。まずこの接戦状況を確認するだけで、注意すべき案件はすぐ分かります。ただ、お客様というのは、建前と本音を正直に言ってくれません。「断った営業に何と説明しましたか?」と聞くと、建前では「他社が安かった」「少し合わなかった」という答えが多かったのです。
倉重:「他のほうが安い」というのは一番言いやすいですよね。
高橋:そうですね。でも、本音では「費用対効果」という答えのほうが上回っていたのです。
倉重:「本当はコスパが悪い」という話や、「他の会社の取引先のほうが安心感や反応がいい」と思っていても、正直には言わないのですね。
高橋:本当のことは大体教えてもらえないので、そこをうまく解き明かすことを考えています。
■決定の場面を問う質問
倉重:今度は2つ目の質問ですね。
高橋:2つ目は決定の場面を問う質問です。少し変わった観点から見ていくのですが、お客様がなぜ判断したのかを、決まった直後に確かめるのです。
倉重:「いつ決まったのですか」と聞いて後から検証するということですね。
高橋:そうです。ほとんどの営業の人は、「なぜダメだったのでしょうか」「なぜ採用されたのでしょうか」という理由を聞きます。でも、先ほど出したように、理由には建前と本音があるので、お客様もそんなにはっきり答えてはくれません。だから事実として、「意思決定の場面やタイミングについて聞いてください」と言っています。例えばプレゼン直後に決まったのであれば、そこに大事な鍵があったということです。そういう戦いばかりではなく、「他社のプレゼンがイマイチだった」というような理由もあります。他社が自爆した内容について、知っておいたほうが絶対に役に立ちますよね。「社長の一声で決まった」ということであれば、どんなことを言ったのかきちんと聞いておくのです。
倉重:社長が何を評価したのかと。
高橋:そうです。「会議で決めました」ということであれば、どういうメンバーが参加したのかをきちんと押さえておくことは非常に参考になります。「資料をじっくり見て決めました」であれば、何ページ目がポイントだったのかと聞きます。
倉重:そこまで深掘りするのですね。
高橋:そのページが分かっていれば、次にプレゼンをするときに、そこをさらに強調できますから。こういうことをすると、お宝情報が見えると思っています。
倉重:分析することでどんどん差がつくのですね。
高橋:ほとんどの営業の人は、お客様は価格で決めると思いがちなのです。でも、先ほどのグラフにもありましたように、価格の良さと費用対効果では、圧倒的に費用対効果のほうがお客様にとって大事ですが、それは正直には言ってもらえません。
倉重:確かに言いにくいですね。
高橋:ほとんどの人は、「お客様は価格で決める」と勘違いしたまま営業をされているのです。
倉重:価値と伝え方が間違っていますと。
高橋:例えば接戦案件の受注などは、意外とお客様はサービスの説明を聞いてから見積もりを見る前に決めていたりするのです。説明を聞く前に決めていることもあります。
倉重:確かにうちの事務所では、お客様が来た時点で、もう「契約する」と決めている方が多いです。
高橋:提案や見積もりを見る前に決めている場合は、その瞬間に何があったのかをつかんでおくと、非常に営業のパフォーマンスが上がります。
倉重:「いつ決めたのか」について、私も今度から聞いてみようと思います。
高橋:そうすると、大体自分の想像よりも手前で決まっているのです。
倉重:実際に説明する前の段階で決まっている可能性もあります。何が効いたのかを解き明かして、そこを強化するということですね。
高橋:特に倉重さんは労務分野を専門にされています。働き方改革では残業時間を減らすことが目的ですが、いたずらに残業時間を減らすと、売上が落ちます。けれども、お客様の意思決定に関係のない無駄を減らすことはいくらでもできるのです。
倉重:「あれだけ時間をかけてプレゼン資料を作っていたけれども、実はあまり意味がなかったのだ」という気づきもありそうです。
高橋:私の会社の営業資料は、98%が資料に表紙がないのです。なぜかというと、表紙はお客様の決定に関係がないからです。裸のまま出す代わり、「お客様が非常に大事にするこの1枚だけはきちんと書こう」と決めます。
倉重:中身にこだわるのですね。それは相手ごとに違うのでしょうか。
高橋:そうです。お客様にいつ意思決定したのかを聞いていくと、本当に大事な集中すべきところが分かります。ほとんどの人は怖がって深く聞きません。
倉重:営業の人は、「このような質問をしたら怒るのではないか」とみんな思うのでしょうね。
高橋:私がテレアポのバイトをしていた時は、「いつまで電話を切られないか」というゲームをしていました。最長記録は、一部上場企業の受付電話で24分だったのです。
倉重:長いですね。何を話していたのでしょう。
高橋:ガチャ切りは当然されますが、きちんとしたマナーや振る舞いにさえ気を付けていれば、深く聞いたから怒られることはそんなにありません。むしろお客様は、聞いてくれないことへの不満のほうが大きいのです。
倉重:逆なのですね。電話が迷惑な場合もあるけれども、それよりも営業の人が聞いてくれないとか、「ズレている」「分かっていない」ことのほうが不満になるのですね。
高橋:そうです。浅い理解のもとに適当な提案をされるからお客様は怒るわけです。
倉重:「この営業の人はうちの課題を分かっている」となれば、話がスッと入ってくるのですね。
(つづく)
対談協力:高橋浩一(たかはし こういち)
TORiX株式会社代表取締役CEO
東京大学経済学部卒業。ジェミニ・コンサルティング(後にブーズ・アンド・カンパニーと経営統合)を経て25歳で起業、企業研修のアルー株式会社に創業参画(取締役副社長に就任)。 商品なし・実績なしの状態から、業界トップレベルの受注率で自ら従業員1000名以上の大企業を50件以上、新規開拓。
その後、創業者が自分で営業するだけでは組織の成長が伸び悩むという課題に直面し、「営業経験なし」「社会人経験なし」のメンバーが毎年入社してくる中で、経営メンバーが現場に行かずとも、自律的にPDCAが回る組織体制と仕組みを構築。売上・利益とも大きく向上させ、3名でスタートした会社は6年で70名規模に。同社上場への成長プロセスにあたり、事業と組織の基盤を作り上げる。
2011年にTORiX株式会社を設立し、代表取締役に就任。 これまで、上場企業を中心に50業種3万人以上の営業強化を支援。行動変容を促す構造的アプローチに基づき、年間200本の研修、800件のコンサルティングを実施。8年間、自らがプレゼンしたコンペの勝率は100%を誇る。2019年10月、『無敗営業 「3つの質問」と「4つの力」』を出版 (発売半年で4万部)。