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原発擁護の産経新聞に国連特別報告者の言葉を送るージャーナリズムとは何のためにあるのか?

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
川内原発の安全対策には批判が少なくない

もう、今更何を、という感もあるが、産経新聞の劣化ぶりが酷い。

先日も、以下のような記事を配信していた。

菅元首相 またも「政治判断」で原発停止求めた…熊本地震を反原発に転化、懲りない面々

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160501-00000513-san-soci

熊本を中心とする九州の地震を受けて、川内原発(鹿児島県/九州電力)に対する不安が高まっているが、こうした市民の声や、野党議員らやリベラル系の新聞が「原発を止めるべき」との主張しているのに対し、「むやみやたらに住民の不安をあおる主張や言論はむしろ害悪ではないだろうか」と批判している。その上で、「では科学的データをもとに、なぜ今原発を停止する必要がないか、解説しよう」と大見得を切るが、実際には原子力規制委員会(以下、規制委)や九州電力の主張を切り張りしているだけである。

規制委が公表したデータによると、今回の最大震度7でも、川内原発で観測された揺れの強さは、8・6ガル。審査の中で、川内で想定される最大の揺れ(基準地震動)は620ガルと設定しており、今回の揺れの70分の1程度でしかない。

出典:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160501-00000513-san-soci

今回の最大震度7に見舞われた熊本県・益城町は、川内原発からはやや遠い。震源の遠いところの揺れが弱いのは当たり前で、それを根拠に「川内原発は大丈夫」というのは、子どもすら騙せない稚拙なロジックだ。問題は、今回の一連の地震が、震源が広範囲に移動しながら続いているということだ。現在のところ、震源は熊本、阿蘇、大分と北東方面に移動している。川内原発からは震源は遠ざかっているように見えるが、一方で、川内原発のある鹿児島県の南方のトカラ列島でも、先月24日に震度4を記録するなど、小中規模の地震が頻発している。万が一に備え、原発を止めるというのは、予防原則として正しい。

規制委の田中俊一委員長が川内原発について「現状では安全上の問題があるとは判断していない」と繰り返し強調していることは当然といえる

出典:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160501-00000513-san-soci

とも書いているが、川内原発は、

・大地震発生時に現場対応の拠点となる免震重要棟がない

・原発から10~30km圏内の要支援者の避難計画がない

・直下に活断層が存在する疑い

などの問題がある(関連記事)。特に免震重要棟については、規制委への再稼働申請で、九州電力が計画の中に盛り込んだものであるにもかかわらず、後になってから撤回したことが問題視され、規制委もそのこと自体だけで川内原発を止める判断はしないとしながらも、「納得いく説明ない」「安全性が向上しているとは見えない」と九州電力に対し不快感を示している。

国連「報道の自由」特別報告者デビッド・ケイさん
国連「報道の自由」特別報告者デビッド・ケイさん

そもそも、福島第一原発事故以前に「事故など絶対に起きない」という政府や電力会社の安全神話をメディアも鵜呑みにしてきたメディアにも事故の責任の一端があるとの反省が、産経新聞にはあるのだろうか。無論、原発の安全神話を支えたのは、産経新聞だけではないが、事故後もここまで露骨に原発支持している新聞は、産経新聞だけだと言っても過言ではない。ジャーナリズムは、何のためにあるのか。政府や巨大企業などが暴走しないよう、目を光らせ監視するのが、その役割ではないのか。最後に、先月、来日した国連「報道の自由」特別報告者のデビット・ケイ氏の言葉を、産経新聞の記者諸氏に送りたい。

ジャーナリストの役割として、見張り役、WATCH DOGであるべきだ。政府から聞いた話をそのまま流すべきではなく、議論を起こすべきである。それで本当にいいのか。その議論を含めて記事にすべきなのだが、日本では、政府に対してものを申すということがメディアはやらないようになってしまっている。メディアが報じたことについて、政府が反論することも当然ではあるが、それに対してさらにメディアが再反論することが必要。それこそがジャーナリズムの神髄だ。

出典:デビット・ケイ氏、今年4月12日の会見より

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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