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英情報機関トップ3人が証言 「盗聴活動の暴露報道で、敵は喜んでいるだろう」

小林恭子ジャーナリスト
証言をする英諜報機関トップー左からMI5、MI6,GCHQ長官(BBCより)

今年6月から、元米CIA職員エドワード・スノーデンのリーク情報を元にした、米英の情報機関(米国家安全保障局=NSA,英政府通信本部=GCHQ)による大規模な監視・盗聴活動が暴露報道されてきた。

当初は英ガーディアン紙、米ワシントン・ポスト紙が主導し、その後世界各国のメディアが次々と報道を続けている。

連日のスクープ報道が5ヶ月を越えた今日(7日)、英国の3大情報機関のトップが初めてそろって公に姿を現し、議会の情報安全委員会で証言した。以前から計画されていた定期的な会合だったというが、これまでは公開ではなかった。GCHQのトップが公に顔を出したのは初めてだ。

公開になった背景にはこれまでのガーディアンなどの報道があった。同紙はNSAやGCHQがいかに国民の知らない間にさまざまな情報を取得しているかを報道してきた。そこで、情報機関側としても何らかの説明をし、国民の理解を得る必要があった。米国ではすでにNSAトップも含め、関係者が何度も公で証言を行っている。

午後2時に始まり、約1時間半続いた証言の中で、それぞれの機関がどんな活動を行っているのか、また情報収集活動の暴露がどんな影響をもたらしたかについて、トップ自らが語った。

改めて、出席した3人のプロフィールを紹介すると、

国内の諜報活動によって国家の安全を維持するMI5のアンドリュー・パーカー長官(敬称略)。

国外の諜報活動にかかわるMI6のジョン・ソーアーズ長官。(いわゆる、ジェームズ・ボンドが勤務する組織。もちろん、ボンドは架空の存在だが。就任当時、海岸で海水パンツでくつろいでいる写真を妻がフェイスブックにアップロードし、問題視されたことがあるー。)

英国のサイバー環境やインフラの安全性を守るために通信を傍受するGCHQのトップがイアン・ロバン長官。

活動を暴露されて

まず、トップらはいかに自分たちの仕事が英国を安全な場所にしているかを説明した。

MI5のパーカーによれば、2005年のロンドンテロ以来、34のテロ未遂事件があったという。

MI6のソーアーズは、スノーデン報道で、「敵がさぞ喜んでいることでしょう」と述べた。活動情報が報道されたことで、「大きな損害があった。こちらの仕事が危険になった」。

怒りを押し殺したような表情で話していたのがGCHQのロバン。報道のために、実際に中東のテロリスト予備軍が「通信方法を変えよう」と会話していたという。また、ネットを使う「児童性愛愛好者たちが捕まりにくくなった」とも。「敵」が諜報機関側の仕事のやり方を知れば知るほど、そうした手段をかいくぐる方法を考え付くからだ。

本当に報道が仕事をしにくくしたのかと聞かれ、「モザイクを思い浮かべていただきたい。その1つでもおかしくなると、全体が狂ってくる。それと同じだ」。

大規模な範囲の情報を収集している点については、「大部分の人の場合、私たちが電話の会話や電子メールを読んでいるわけではない」、「そんなことは合法ではないし、私たちはやらない」。職員はテロや犯罪を防ぐために活動をしているのであって、もし何の罪もない人の情報を覗き見するようにといわれたら、「部屋を出て行ってしまうだろう」。

ソーアーズは、MI6は「世界中にいる工作員はボンド映画のように」孤立しておらず、「24時間の」サポート体制があるという。「判断が難しいときは外相に支持をあおぐ」。

委員会のブリアーズ議員が「英国の法律にかなう行動をしている、とここで言い切れますか」と聞いた。答えは「そうだ」だった。

答弁の詳細について「具体的な話は、秘密裏に直接委員会のメンバーになら説明できる」と答える場面が何度もあった。

最後のほうになって、ソーアーズが「私たちは情報を収集し、分析するのが仕事だ。何を収集できるのか、どうやってやるかは政治家が決める」と言った。目の前に並んだ政治家に責任を押し付けたように見えた。まるで「悪いことを頼むのは政治家なんだ」とでも言いたげだった。

閉会直前、ソーアーズは3機関の職員の働き振りをたたえた。見ていて、うまく逃げたなあという感じがした。

後で、委員会の質問が十分に厳しいものではなかったという意見をテレビで見た。「どうせ本当のことは言わないのだから、あんなものだろう」という声もあった。

グリーンワルドの見解

この日の朝、ガーディアンでNSA報道を主導してきた、米国人ジャーナリスト、グレン・グリーンワルド(リオデジャネイロ在住)がBBCのラジオ番組で電話インタビューされた。

国家機密を外に出すか出さないかを報道機関が決めていいのか、と番組の司会者に聞かれたグリーンワルドは、「独立した報道機関は民主主義の一部」と述べた上で、「捜査に影響のあるような情報は入れてない」と説明。また、「GCHQ,NSAが暗号破りをしていたことをニューヨーク・タイムズやガーディアンが書いた。しかしどの暗号かは書いていない。テロリストを助けたくなかったからだ」。

一連の報道は、「諜報機関による大規模な情報収集について、議論を起こすのが目的だった」。

司会者が、「ジャーナリストが国家機密の報道の範囲を決めていいのか」と聞いた。

グリーンワルドは「ジャーナリストが判断しているわけではない。実際には、新聞社が判断している。新聞社には弁護士、熟練記者、さまざまな分野の専門家がいる。みんなで協力し、何をどこまで報道するかを決めているー例えば今取材を受けているBBCと同じだよ」、「こういうやり方に賛同しないのは、ジャーナリズムに賛同しないのと同じだ」。

「政治的意思があれば、大規模監視・情報収集体制は変えられる」とグリーンワルドは述べた。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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