福島瑞穂氏「嘘でも本当でもデタラメ」―"難民認定率0.15%"の「難民を助ける会」名誉会長の疑惑
政府与党が今国会での成立を目指す、入管法改定案*1。その中で大きな論点となっているのが、難民認定申請を3回、行った人を強制送還の対象とすることだ。法務省および出入国在留管理庁(入管)は「難民認定制度を濫用し、送還を拒否する者を速やかに送還するため」と、説明する。だが、入管法改定案の根拠とされた国会質疑で、「(難民認定)申請者の中に、難民はほとんどいない」と発言した柳瀬房子氏(難民審査参与員/難民を助ける会名誉会長)*2の発言の信憑性に重大な疑いがかけられている。今月16日の参議院法務委員会で、福島瑞穂参議院議員(社民)が追及した。
〇法案の根拠が揺らぐ事態に
柳瀬氏は、入管に「不認定」とされ、それを不服とする難民認定申請者の審査を行い、難民として認定すべきか法務大臣に助言する難民審査参与員の一人で、今回、問題となっているのは、柳瀬氏が朝日新聞(2023年4月13日付)のインタビューでの発言。同記事で、柳瀬氏は「難民認定すべきだとの意見書が出せたのは約4000件のうち6件にとどまる。難民条約上の難民に当たる人は少ないのが実態だ」と発言している。
だが、柳瀬氏は、2021年4月21日の衆議院法務委員会で、参考人として、「参与員制度が始まったのは2005年からですので、私は既に17年間、参与員の任にあります。その間に担当した案件は2000件以上になります」と発言していた。つまり、柳瀬氏は、2年間で約2000件、1年あたりで約1000件の審査を行っていると主張するのだが、難民審査参与員の平均的な審査件数は約36件。そのため、他の難民審査参与員達から、「信じられない」「まともに審査していないのでは?」との指摘が相次いでいるのだ(全国難民弁護団連絡会議のアンケート調査を参照)。
柳瀬氏は、上述の2021年の衆院法務委員会で、「私自身、参与員が、入管として見落としている難民を探して認定したいと思っているのに、ほとんど見つけることができません」「申請者の中に難民がほとんどいない」等と発言。この発言を法務省および入管は入管法改定案の根拠(=立法事実)としている。つまり、柳瀬氏の発言の信憑性、難民審査の信頼性が問われることは、入管法改定案の根拠が揺らぐということなのだ。
〇福島議員、石川議員による追及
柳瀬氏の審査件数について、福島議員は今月16日の参院法務委員会で追及。「1年間に 1,000件で、ちゃんとした審査が行われるのか?」と問いただした。これに対し、入管の西山卓爾次長は以下の様に答弁した。
だが、本当に審査件数と審査の適切さは関係ないと言えるだろうか?上述の難民審査参与員へのアンケート調査によれば、難民審査参与員が審査にかける時間は全体平均で、ほぼ6時間だという。難民として認定したケースでは平均8.8時間かそれ以上、不認定のケースでは平均で4.2時間とのこと。つまり、これを柳瀬氏の主張に当てはめると、
1000(件数)×4.2(1件あたりの所要時間)÷244(年間の平日)=17.2(1日あたり柳瀬氏の審査時間)
となり、一年の平日244日の全てで1日あたり17.2 時間を費やさないと、さばききれない計算となる。しかも、書類審査だけならともかく、上述の朝日新聞インタビューで柳瀬氏は「一人ひとりに丁寧に話を聞き」と発言している。柳瀬氏の「年1000件審査」に対し、上述の難民審査参与員へのアンケートで、「信じられない」と件数を疑問視する声や「まともに審査していないのでは?」との指摘が多く寄せられたのも、当然の反応なのだ。
福島議員も、16日の国会質疑で、柳瀬氏の審査件数について、「出鱈目ではないのか?」「(件数が)真実だとしても、出鱈目。ちゃんと審査をやっているのか?」と問いただし、「こんな出鱈目を(入管法改定案の根拠としての)立法事実にして良いのか?」と疑問を呈した。
さらに、次に質疑を行った石川大我参議院議員(立憲)も、「この柳瀬さんという方が、どのぐらいの規模、審査をしていて、実際にどのぐらいの勤務時間があったのか、是非、大臣の責任で明らかにしていただきたい」と要請。これに対し、齋藤法相の答弁は以下のようなものだった。
〇難民認定率が極端に低い柳瀬氏を重用?
齋藤法相も西山次長も「長年にわたって難民の支援に真摯に取り組まれている方」と、柳瀬氏に絶大な信頼をおいているようであるが、その柳瀬氏の言動の信憑性が問われているのである。また、仮に柳瀬氏の主張が事実だとしても、他の難民審査参与員達が平均で年36件、多い人でも50件の審査だと述べている中で、柳瀬氏だけに年1000件の審査が集中していることが事実ならば、制度自体の公平・公正さを疑わざるを得ない。
柳瀬氏は、上述の朝日新聞のインタビューに「4000件の審査で難民と認めるべきと判定したのは6件だけ」と話しており、それが事実だとすると、柳瀬氏の「難民認定率」は、わずか0.15%となる。他方、やはり難民審査参与員であった阿部浩己明治学院大学教授はNHKのインタビューに対し、自身の審査について「10年間で500件ほど」「認定率は7%」と語っている(関連情報)。
いみじくも、齋藤法相と西山次長は会見や国会質疑で「(柳瀬氏の)ご発言は、我が国の難民認定制度の現状を的確に表している」と発言しているが、入管は、難民認定率が極めて低い柳瀬氏に審査を集中させた上、その柳瀬氏の主張を難民参与員達を代表する意見として、入管法改定案の根拠にしたのではないか。
政府与党は今月末にも入管法改定案の採決を行うとも予想されるが、法案の根拠に重大な疑いが生じている中、採決を急ぐよりも、「柳瀬問題」について、徹底的な議論と事実関係の確認が必要であろう。
(了)
*1 今回の法案は「改正ではなく、むしろ改悪」との批判も高まっているため、本稿では「入管法改定案」と表記する。
*2 難民を助ける会は、そのウェブサイトで、柳瀬氏の一連の言動について「当会を代表するものではない」と釈明しているが、同会のウェブサイトの柳瀬氏プロフィールに「2005年から法務省難民審査参与員」と明記している。