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発足以来、最も内容が乏しかった45分。ブレ始めている森保ジャパンのサッカー【オマーン戦分析】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:松尾/アフロスポーツ)

スタメンとサブを明確に分ける采配

 思わぬ苦戦を強いられた初戦のトルクメニスタン戦から中3日。森保ジャパンがグループ2戦目となるオマーンとの一戦に臨み、1-0で勝利を収めた。

 まずはこの勝利によって勝ち点を6に伸ばした日本は、同じく2連勝のウズベキスタンとともにグループステージ突破が決定。現時点での順位は得失点3差により首位ウズベキスタン、2位日本となり、17日の直接対決の結果次第で日本の2位通過か首位通過が決まることになった。

 どちらの道を進むにせよ、とりあえずは2試合で決勝トーナメント進出を決めたので、優勝を目指す日本にとっては順調な滑り出しと言っていいだろう。

 しかしその結果とは裏腹に、オマーン戦の試合内容を振り返ってみると、手放しでは喜べない。トルクメニスタン戦の修正点は見受けられたものの、新たな問題点がいくつも浮かび上がってきたからだ。

 この試合の日本のスタメンは初戦から2枚のみを変更。コンディションが戻った遠藤航(シント・トロイデン)がボランチに復帰したため、冨安健洋(シント・トロイデン)が本来のセンターバックのポジションに戻って吉田麻也(サウサンプトン)とコンビを組んだほか、負傷の大迫勇也(ブレーメン)に代わって初戦で途中出場していた北川航也(清水エスパルス)がスタメン入りを果たした。

 そこで気になったのが、初戦の選手交代策とこの試合のスタメンとの整合性だ。

 仮にメンバーを固定して決勝までの7試合を戦うとした場合、グループステージ最初の2試合はレギュラー組でスタメンを編成し、2連勝したあとの3試合目でスタメンを大幅に入れ替えるのは常套手段だ。そういう点では、このセレクトも順当かもしれない。

 しかしもしそうだとすれば、森保監督が初戦で交代枠を1枚しか使わなかったことが引っかかる。とくに3-1とリードしたあとに交代枠を使わなかった事実から、2戦目はある程度選手をローテーションさせて臨むことを想起させたからだ。

 果たして、長丁場の大会の初戦で1枚しか交代カードを使わなかった森保監督の真意はどこにあるのか? 初戦で負傷明けの大迫をフル出場させたことについて「もう少し展開に余裕があれば代えていた」と答えたことが森保監督の本心だとすれば、レギュラー陣以外の選手に対する信頼度が極めて低いことを意味することになる。

 口では「総力戦」と言いながら、実は早くもスタメンと控えを明確に分けて考えているのか。決勝トーナメントの最大4試合を考えたとき、さすがに限られたメンバーだけでは息切れしてしまうと考えるのが自然だ。とくに消耗が激しい現代サッカーでは、そこがネックになる可能性は高い。

 いずれにしても、大迫が万全であれば当然スタメン出場を果たしていたはずなので、北川以外のこの試合のスタメンが、森保監督が現時点で描くベストメンバーであることはほぼ間違いなさそうだ。

吉田のフィードに活路を見出した前半

 一方、オランダ人監督ピム・ファーベーク率いるオマーンも、初戦のウズベキスタン戦から2枚を変更。4-2-3-1のトップ下が10番アル・ハルディから日本戦では20番ヤハヤエイに代わり、1トップも7番アル・ハジリから16番ムフセン・ガサニに代わっている。

 4-2-3-1同士の対戦となったこの試合だが、序盤からチャンスを作ったのは日本だった。開始早々2分に堂安律(フローニンゲン)の突破から原口元気(ハノーファー)が放ったシュートはバーに弾かれて決定機を逸する格好となったが、その後も日本は立て続けにビックチャンスを作ることに成功している。

 ただしそれらのチャンスは、初戦のトルクメニスタン戦もしくは過去の国内親善試合とは異なる攻撃パターンによって構築されていた。

 初戦の相手トルクメニスタンは、低く構えた5バックが、1トップの大迫、トップ下の南野拓実(ザルツブルク)、さらには中間ポジションをとる堂安と原口をマーク。2列目の4枚は、攻撃の起点となる日本のダブルボランチ、サイドで高い位置をとる酒井宏樹(マルセイユ)と長友佑都(ガラタサライ)をそれぞれケアして、前線に入ってくる縦パスをつぶすのが主な日本対策だった。

 実際、前半の日本はその策にハマってしまい、無理して縦パスを入れてはカットされ、そこから何度かカウンターを食らうという展開に持ち込まれている。

 そしてこの試合のオマーンも、やり方は異なるもののしっかりと日本対策を打ってきた。4-2-3-1の布陣が守備時には4-4-2となり、2トップが日本のダブルボランチをマーク。日本のセンターバックに対してはあえてプレスに行かず、あくまでもボランチからの中央方向への縦パスをケアし、その受け手となる北川、南野、堂安、原口へのパスコースを塞ぐことで、日本の攻撃を封じにかかった。

 そこで日本は、初戦の反省からか、無理に縦パスを入れることなく、オマーンがプレッシャーをかけてこないセンターバックを起点に攻略。中盤を省略し、最終ラインから相手ディフェンスラインの裏を狙ったロングパスによって多くのチャンスを作った。

 たとえば攻撃のスイッチ役であるボランチの柴崎岳(ヘタフェ)が、前半に出した縦パスはわずかに4本。それに対して、センターバックの吉田の縦パス(ロングフィード含む)は、サイドへのものも含めて前半だけで13本を記録している。3本だったセンターバックの冨安、あるいは4本だったボランチの遠藤と比較しても突出していた。

 そのなかで生まれたのが、26分のシーンである。吉田の左サイドへのロングフィードから、原口が中央へドリブルして堂安にパスすると、堂安からのダイレクトパスを受けた南野がシュート。これはGKに弾かれたものの、詰めた北川をかすめたルーズボールを原口が拾ったところで、日本の先制点につながるファールとなった。

 ファールの位置、接触があったかどうかも含めて疑惑の判定となったわけだが、少なくとも日本にとっては相手のカウンターを回避すべくロングパス中心に攻めたことによって得られたPKだったことは間違いなかった。

 逆に、日本が前半で迎えたピンチらしいピンチは2度。そのうち1度目(20分)のものは、この試合で相手の危険なカウンターを受けた唯一のシーンだった。

 これは南野が相手ペナルティエリアで囲まれてボールを失ったところから始まったカウンターだが、そのとき15番ヤハマディがドリブルで前進した広大なスペースは、本来は遠藤がカバーできるポジションをとっておくべきだった。2対2となった後の吉田と冨安、そしてGK権田修一(サガン鳥栖)が対応できたので失点を免れたが、レベルの高い相手であれば1点もののシーンだった。

後半になってから攻撃が停滞した原因

 いずれにしても、前半終了間際の長友の疑惑のハンドのシーン以外、危なげなく戦えた前半をあらためて振り返ると、初戦の修正点、とりわけ相手のカウンターに対する備えに重点を置いた戦い方だったと捉えることができる。

 ただ、本来は日本の武器であるはずの連動性を放棄した消極的なサッカーだったと受け止めることもできる。もちろん、大迫が出場していればもう少し前線に縦パスを入れて攻撃のバリエーションを増やせたと思われるが、ほとんどボールに絡めなかった北川の特性をチーム全体で整理し、それを生かした攻撃パターンを準備しておく必要もあっただろう。

 相手のレベルが上がれば、単純なロングフィードだけで多くのチャンスを作ることはできない。そもそもこの手の戦い方は日本が苦手とする形であり、これまで森保監督はボールをつなぐことに重点を置いたサッカーを目指していたはず。結局、これまでの国内親善試合の切磋琢磨を捨てた慣れない戦い方は、後半になると相手が対応し始めたこともあって完全に破たんすることとなった。

 果たして、オマーン戦の後半は、森保ジャパンが発足して以来、もっとも乏しい内容の45分となってしまった。スコアはまだ1点差にもかかわらず、しかも後半77分のオマーンの2人目の選手交代まで相変わらずセンターバックがプレスを受けることもなかったなかで、日本の攻撃は停滞を続けた。

 原因はひとつ。単純に、吉田からのフィードが激減したからだ。

 後半の吉田のフィードはハーフライン付近に落ちてきた南野につけたパスを含めてもわずかに4本。かといって、それに代わって冨安、柴崎、遠藤から攻撃のスイッチを入れる縦方向へのパス供給が増えたわけでもない。これでは、後半最初のシュートまで35分もかかってしまうのも当然だ。

 また、サイドからのクロスについても、前半の6本に対して後半は3本のみ。しかもこの試合で見せた計9本のクロスは、1本たりとも味方に合わせられずに終わっている。カウンターを回避しながら攻めるときに必要とされるサイド攻撃が、後半になって半減しているという事実も含め、日本の攻撃面における反省点は多い。

 とくに後半のボランチ2枚はカウンターを受けまいと、攻撃のための動きが激減。これが1-0のまま残り10分、あるいは残り15分以降であれば理解はできるが、追加点が必要とされる後半開始から慎重な選択に終始したことが問題だった。

 ボールを受けられなくなった南野が下がってプレーする回数が増え、右サイドの堂安は集中的なマークでつぶされるようになると、もはや日本の攻撃に糸口はなくなっていた。間延びしたサッカーでは、当然ながら良いディフェンスもままならない。

 森保監督が日頃から口にする臨機応変、柔軟性といったフレーズが、選手任せの”ブレたサッカー”に変わった瞬間だった。後半の日本は超がつくほど弱腰で、そこに優勝候補の雰囲気を感じ取ることはできなかった。

勝利のなかで残された日本の不安材料

 そうしたサッカーになってしまった要因は、森保監督の消極的な采配だった。この試合で使った交代カードは2枚。まず56分という珍しく早い時間帯に動いた理由は、おそらく前半からまったくチャンスに絡めない北川に代えて武藤嘉紀(ニューカッスル)を投入することで攻撃を活性化させる狙いだったと思われる。

 しかし北川同様、チーム全体として武藤を生かす形を描けておらず、結果的にその交代策は奏功することがないまま時間が経過した。

 ところが、次に切った交代カードは試合終了間際の84分のこと。集中的にマークされて疲弊していた堂安を下げ、伊東純也(柏レイソル)をピッチに送り込んだわけだが、これはボールを奪った後に伊東を走らせてカウンターを狙うための策だったと思われる。

 しかし、日本のセンターバックが相手の2トップにプレッシャーをかけられて押し込まれるようになったその時間帯で必要とされた策は、守備の強化のための選手交代だ。伊東を入れるならもっと早い時間帯で投入すべきだったし、リードが1点しかないときの終盤に、柴崎に代えて塩谷司(アルアイン)もしくは青山敏弘(サンフレッチェ広島)を投入し、安全に試合を終わらせる手もあったはず。

 にもかかわらず、指揮官は選手交代によって守備が乱れることを恐れたのか、またしても交代枠を残したまま試合を終えている。これこそ、控え選手に対する信頼の低さの表れであり、監督采配で試合の流れを変えられないことの証でもある。

 グループ突破を決めたオマーン戦は、そこも含めて多くの不安材料を残した試合となった。とりわけ国内親善試合とは大きく異なるサッカーを見せ始めている現時点においては、主力がフレッシュな状態に戻ったとしても、決勝トーナメント以降の戦いに期待は持てない。

 次の試合で変化の兆しを見せられるか。大幅なメンバー変更が確実視される次のウズベキスタン戦の戦いぶりは、今後を占ううえでは見どころの多い試合となりそうだ。

(集英社 Web Sportiva 1月16日掲載)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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