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人気マンガの実写化 なぜ賛否が分かれる? そしてなぜ続くの?

河村鳴紘サブカル専門ライター
(提供:イメージマート)

 人気マンガのドラマや映画などの実写映像化は、珍しいことではなく、むしろ当たり前になりました。しかし実写映像化の発表があるたびに、ネットでは厳しい意見が目立ちます。にもかかわらず、なぜ実写化は続くのでしょうか。

 「マンガ大賞2016」の大賞を受賞した野田サトルさんの人気マンガ「ゴールデンカムイ」の実写映画化が発表されました。ヤフートピックスにも取り上げられ、早くもキャストの予想合戦も盛り上がっています。

 一方で、実写化について、ユーザーのコメントには「大丈夫か」「実写にするべきでない」などの厳しい意見が並んでいました。

 実際のところ、批判的な意見の割合は、実際どうなのでしょうか。Yahoo! JAPANのリアルタイム検索で「ゴールデンカムイ」のワードを入力すると、「感情の割合」(発表のあった19日の1日間)はポジティブ34%(ネガティブ66%)でした。集計期間を7日間にするとポジティブが45%、30日間が48%なので、確かに発表を受けてネガティブが増えたといえるかもしれません。

 では他作品の割合はどうでしょう。リアルタイム検索(30日間)で他コンテンツを打ち込んでみました。「鬼滅」と打ち込むとポジティブが50%、人気ゲームの「エルデンリング」が49%、NHK大河ドラマの「鎌倉殿」が38%でした。

 ともあれ「ゴールデンカムイ」のネガティブ感情がやや多いのは確かですが、言うほど突出しているわけでもなく、知名度が高まってファンが増えるほど、比例してアンチが生まれるのも確かです。それにしても映像はもちろん、キャスト発表もしていない時点で批判されるのは、なぜでしょうか。

◇実写化への懸念の声は

 ここまでマンガ作品の実写化に対して、ネットで厳しい意見が並ぶことについて、出版関係者に考えられる理由を聞きました。すると「ユーザーの懸念も理解できる」という声がありました。ざっと以下のような理由です。

・実写化に対するイメージの問題が大きい。マンガの表現に寄せられるアニメに対して、実写は俳優を起用するので、キャラを寄せるにも限界がある。

・そもそもメディアミックスを望まない層は一定数いる。

・マンガ原作の映画は、昔は“格下”扱いされていた。原作へのリスペクト(尊敬)に欠ける映像化があり、今でも影響しているのでは。

・視聴率や観客動員数の安定を見越した俳優、タレントなどのキャスティング。往々にして、原作へのリスペクトに欠けると取られやすい。

・似ていなくても作品の愛や理解、もしくは制作側の意図が伝われば許容できる。

・制作資金不足による映像効果の不足と、それに伴う作品の質の低下の心配。

 しかし、実写化は見送るべきか……と尋ねると「(上記の)懸念を承知で実写化はやるべき」という声ばかりでした。その理由もまとめてみました。

・出版社側からすれば、実写化はありがたい話。普段マンガを読まない層が手に取るきっかけになる。

・アニメとは違う広がりが期待できる。マンガ誌の影響力が落ちているので、SNSで話題になること自体ありがたい。さらに当たれば成功なのでやらない理由はない。

・ファンと観客の存在が可視化されて見えるので、マンガ家が喜ぶケースもある。マンガ家は皆が思う以上に孤独な戦いを強いられている。

・ファンの不安は理解できるが「見えないもの」と戦っているようなもの。何度議論しても答えは出ないし、実写はふたを開けないと結果は分からない。

・マンガと映画・ドラマのユーザー数は、後者の数字が圧倒的に多い。正直、反対の声は気にしてない。

 ちなみに、ある編集者は、実写化についてマンガ家(作者)の決断に疑問を向ける声もあるとしたうえで「正直、余計なお世話かも。本当に好きなマンガであれば、原作者が信じたものは一緒に信じてほしい」という意見もありました。まあ、原作者にクレームをつければ、モチベーションは往々にして落ちますから、出版サイドからすると本音でしょう。

 要するに、批判が出るのに実写映像化が続くには理由があるわけです。作品の客層を広げ、可能性を広げることですから、やらない理由はないのです。しかしファンからすると、ファンが増えるほど「俺たちの〇〇」でなくなるわけで、連載時から推していた人からすると寂しく思えるのかもしれません。その点に関しては、気持ちも理解できますが……。

◇皆の理解を得るのは難しく

 マンガの映像実写化への厳しい声は、SNSで誰もが意見を発信できる環境の変化が大きいでしょう。ちなみに「マンガの実写化は海外では歓迎されたのに、日本だとネガティブな違う反応になる」という声もありました。

 ちなみに実写化に限らず、マンガ原作のアニメだって成功するとは限りません。確かにマンガ原作に寄せるという意味では、実写よりも自由度の高いアニメの方が向いているのはその通りです。

 何より実写化の挑戦を続けることは、今後の失敗があることを意味します。その批判を完全に封じるには、企画を止めるしかないのですが、それは作る側からするとのめないことでしょう。実写化の反対意見にひるんでいては「銀魂」や「るろうに剣心」「ちはやふる」などの映像作品は生まれなかったわけで、それはもったいない気がします。そもそもどんな作品でも、皆の理解を得るのは難しいのですから。

 実写映像化への厳しいファンからの意見は、映像制作者たちに向けて「作品を理解して制作してほしい」という願いであり、「期待の大きさ」とも言い換えられるかもしれません。

 いずれにしても作品は見る前のイメージではなく、完成後の作品でこそ評価されるべきです。企画発表やキャスティングのイメージだけで批判するのは、公正(フェア)とは言えないと思うのです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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