金正恩も歯が立たない、北朝鮮「裏スマホアプリ」の実態
北朝鮮の英字紙、ピョンヤン・タイムズは今年1月の記事で、昨年最も人気があったスマホアプリとして、「キルトンム(道連れ)3.1」を挙げた。Google mapのような地図アプリだが、最近、4.0にバージョンアップされ、若者やドライバーから人気を集めているとデイリーNKの内部情報筋が伝えた。
北朝鮮では、国家機密に当たるとして詳しい地図が一般的に販売されていないが、このアプリを使えば、すぐにルートがわかる。また、移動の自由がない北朝鮮だけあって、このアプリで様々なところを検索し、旅行の空想に浸るという使い方もされているようだ。
情報筋は、地域ごとに人気のアプリが異なるとして、首都・平壌で人気を集めているのは事務処理、外貨商店のもので、中国と国境を接する両江道(リャンガンド)では、中国語学習アプリだと伝えた。
さて、ここまでは表のランキングだ。裏ランキングで1位を占めるのは「カラクチ(指輪」だろう。
ピョンヤンのデイリーNK内部情報筋が、平壌の大学生が100人いれば10人、江原道(カンウォンド)の元山(ウォンサン)では15人が使っていると伝えたこのアプリ。韓流コンテンツなど北朝鮮で禁止されているものを視聴するために、当局がスマホにプリインストールさせた監視アプリを回避するためのものだ。
当然、摘発されれば処罰を免れない代物だけあり、このアプリは信じられる人にのみ販売される。そのためマニュアルは存在しない。開発に当たっているのは、平壌市内の研究所や大学の研究者たちだ。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
「カラクチは昨年7月、赤い星研究所で開発され、金日成総合大学、金策工業大学の研究所で補強された」(情報筋)
この赤い星研究所とは、北朝鮮最高のソフトウェア開発機関「朝鮮コンピュータセンター」の傘下にある機関で、金日成総合大学や金策工業大学にも、関連機関が存在している。
彼らは体制を宣伝したり、国民を監視したりするコンテンツを作る一方で、体制にとって都合の悪い海外のコンテンツが国内に流入する手助けをしているというわけだ。
情報筋は使ったことはないとしつつ、「ナルゲ」(翼)というカラクチよりさらに処理速度の速く、シンプルなアプリが今年5月ごろから出回り始めたと伝えている。
これに対して当局は、スマホのOS(オペレーティングシステム)のアップデートで対抗している。
別の内部情報筋によると、今年12月にもアップデートを行う予定で、その理由として「今年の保衛事業総計画の方向と過去2年間の非社会主義・反社会主義に対する事業の総和(総括)に基づく決定の貫徹のため」と述べた。つまり韓流コンテンツの取り締まりをより強化するということだ。
他の国ではアップデートをするしないはユーザー個人の自由だが、北朝鮮ではアップデートをしたか、していなければ違法なアプリやソフトがないかの点検を受けさせられる。
当局は「国家主導で開発したOSをインストールすれば、スピードと品質がよくなる」と宣伝しているが、どこがどう変わるのか、詳細な説明はしていない。アップデートの目的は、韓流視聴用のソフトの遮断と監視の強化はあると見抜いているユーザーの間からは、不満の声が上がっている。
ただ、「上に政策あれば、下に対策あり」のお国柄。さらには、北朝鮮が誇るITエリートが韓流ファンの味方についているも同然の状況だ。新しいOSのセキュリティホールもすぐに発見され、また再び韓流を楽しめるようになるだろう。