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“消えた”元ユベントスの北朝鮮サッカー選手がW杯予選に出場…彼は一体どこで何をしていたのか?

金明昱スポーツライター
2019年のアジアカップに出場した北朝鮮代表FWハン・グァンソン(写真:ロイター/アフロ)

 まだ彼がサッカーを続けていることに驚いた。それに朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)代表としてまだメンバー入りしていることにもだ。元ユベントスの北朝鮮代表FWハン・グァンソンのことだ。

 17日(日本時間)に行われた2026年の北中米ワールドカップ(W杯)アジア2次予選で北朝鮮はシリアと対戦。元々は北朝鮮のホームで開催予定だったが、今回は中立地としてサウジアラビアのジッダで行われた。

 試合は前半36分に最終ラインの裏に抜けたシリアFWが、飛び出してきた北朝鮮GKカン・ジュヒョクと接触してPKに。これが決勝点となり、北朝鮮は0-1で敗れ、大事な初戦で勝ち点を取ることができなかった。

 ハン・グァンソンは背番号10を背負い、左サイドハーフとして出場。約3年ぶりの公式戦出場とあり試合勘が鈍っているのもあるだろう。動きに精彩を欠き、前半のみの出場に終わったが、「消息不明」と言われていた彼のプレーを確認できたのは個人的にはうれしい知らせだった。

ハンが20年9月以降にカタールクラブから消えた理由

 というのもハンは2017年にセリエAのカリアリでデビューし、ゴールを決めるなど北朝鮮が輩出したスター選手の1人だった。その後、ビッグクラブのユベントスが獲得するほどで、2020年1月にはカタールのアル・ドゥハイルに移籍し、主力としてプレーを続けていた。契約も2024年6月30日まで残っていたのにも関わらず、20年9月にはクラブサイトに名前が確認できない状態になっていた。

 つまり退団を余儀なくされたわけなのだが、これは「対北朝鮮制裁」が理由だ。国連安全保障理事会が加盟国内の北朝鮮労働者を送還するように求める対北朝鮮制裁決議が採択され、ハンに労働ビザが発給されなかったというわけだ。

 また、当時オーストリア1部のSKNザンクト・ペルテンでプレーしていた北朝鮮代表FWのパク・クァンリョンも同時期に退団しており、こちらも労働ビザが発給されなかったと聞いている。その後、彼らは帰国したのか、サッカーを続けているのか、その行方が分からない状態だった。

元々ハン・グァンソンの代表選出の可能性は高かった

 しかし、W杯アジア2次予選ではハンだけでなく、パクもメンバー入りしていることが確認されている。9月に開催された杭州アジア大会のサッカー競技で3年ぶりに北朝鮮が国際大会に姿を見せたが、そこにコーチとして参加した朝鮮大学校サッカー部監督の申載南氏もスタッフから聞いた話として、こんなことを教えてくれていた。

「ハン・グァンソンやパク・クァンリョンは国内でサッカーを続けていて、W杯アジア予選にはメンバー入りする可能性が高いと話していました」

 欧州や中東の強豪クラブを離れて、所属クラブがない状態のサッカー選手を代表入りさせるのかは半信半疑だったが、実際にその姿を見て、これからの活躍を期待せずにはいられなかった。

ハンは3年も所属チームがない状態だった?

 他の関係者にも聞いたところによると、ハンはコロナ禍で北朝鮮に帰国できず、長らくイタリアに滞在していたという話だ。所属チームがない状態が続き、自主的に練習を続け、北朝鮮への入国が緩和されたタイミングで今年8月に帰国したという。今は国内のクラブに所属しているが、約3年は試合に出場しない状態が続いていたというわけだ。

 彼がW杯予選に登場したのはいいが、やはり3年も実戦から遠ざかった代償は大きい。「たら、れば」の話になるが、もしハンがそのまま海外クラブでプレーを続けていたならば、さらに成長し、W杯予選でも相手の脅威となっていたに違いない。

 とはいえ、今それを言っても仕方がない。大事な初戦を落とした北朝鮮だが、次戦はしっかりと勝ち点をもぎとり、大一番となる来年3月の日本戦に向けて、しっかりと準備をしてほしいものだ。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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