カール・マルクス生誕200 周年とポルタ・ニグラ(黒い門)建立の謎解明で沸くドイツ最古の街トリーア
モーゼル川沿いに位置するドイツ南西部の街トリーアは、古代からの交通の要衝地であるとともに、長年にわたりフランス文化の影響を濃厚に受けた。紀元前にローマの植民都市として築かれ、ローマ人が住み着いたことから多くの賜物を残した。
その賜物、ローマ遺跡群であるポルタ・ニグラ(ラテン語で黒い門の意)や大聖堂など歴史的建造物9件は、1986年ユネスコ世界遺産に登録された。国境を超えてルクセンブルクやフランスからショッピングや観光に訪れる客も多く、今では国際色豊かな古くて近代的な街となった。
2018年は、この街にとって大変記念すべき年である。そのひとつはこの街で生まれた経済学者カール・マルクスの生誕200周年を迎えたこと。もうひとつは、街の中ほどにある世界遺産ポルタ・ニグラの建立年が解明したことでトリーアは沸いている。
街の偉大な息子カール・マルクス
経済学者・哲学者カール・マルクスは1818年5月5日、トリーアで生まれた(1883年3月14日没)。友人フリードリヒ・エンゲルスと共に「資本論」や「共産党宣言」を書いた経済学者だ。
生誕200周年を記念して、トリーア市立シメオン修道院博物館と州立ライン博物館で特別展が開催されている(10月21日終了)。
生誕200周年を前に、中国は高さ5メートルほどのマルクス像をトリーアに贈与した。この像は、黒い門近くのシメオン修道院広場(Simeonstiftplatz)に展示されている。
社会主義色の強い中国からの寄贈品ということで一時その展示も危ぶまれたが経済的にも大きなつながりのある中国からの好意を断ることもできず、像はトリーアの街にとどまった。
マルクスの生家は、ブリュッケンシュトラーセ10番地(Brueckenstrasse・旧ブリュッカーガッセ664番地)にあり、現在は、博物館「カール・マルクス・ハウス」として公開中だ。旧市街のはずれに位置するが、この博物館を目指す観光客が多いので、すぐに見つかるだろう。
家族はマルクスが生まれるとまもなく、黒い門前のシメオン通り(Simeonstrasse)1070番地へ引っ越し、1819年から1935年までここで暮らした。現在、この建物の一階はユーロショップ(百円ショップに似た店)。「資本論」を書いたマルクスがこれを見たら、どう思ったのだろうか。
1835年10月ボン大学に入学するまでトリーアで生活したマルクスは、大学で哲学に興味を持ち始めた。やがてパリやベルギーに生活拠点を移し、1849年夏になると、イギリスへ渡航した。イギリスはマルクスの終生の地となるが、入国時には一時的な避難場所のつもりだったといわれている。
ポルタ・ニグラの謎解明で沸くトリーア
ポルタ・ニグラは、古代ローマ市壁の北門として建造された。当時、外敵から街を守るために造られた全長4キロメートルの壁には、門が5つあった。その中で一番保存状態のよいのがこの黒い門だ。
当初「ポルタ・マルティス」と呼ばれていたこの門は、1041年には黒ずんだ外壁から「ポルタ・ニグラ」と呼ばれるようになった。外壁は砂岩で、もとはといえば明るい灰色だったが、経年変化で黒く風化して濃灰色や黒色になった。
あまり知られていないが、ツーリストインフォのある南側の外壁は北側より一層黒い。これは太陽の光線がより多く当たるためだ。画像ではわかりにくいので、是非現地を訪れて自分の目で確かめてほしい。
この門は一体いつ建てられたのか、長年謎に包まれたままだった。これまで専門家は、「紀元150年から320年の間に建造された」と推定していた。
ところが、2017年秋、同門近くの地下6メートルに眠っていた2枚の木板と1本の丸太が発掘されたことで大きな転機が訪れた。専門家の分析によると、発掘物は門建立時の土留めに用いられた木材の残骸であることが解った。
さらに木板の年輪を検証する中で、わずかながらの樹皮が見つかった。通常、土中に埋まっている木片は時を経るとともに腐敗してしまう。そのため樹皮は残っていない。今回、運よく発見された樹皮が決め手となり、木板は紀元169年から170年の冬に伐採された木材の一部だと明らかになった。
古代ローマ時代、伐採した木材は今のように長期乾燥せずすぐに使用した事実も解っている。こうしてポルタ・ニグラの建立は紀元170年に開始されたことが解き明かされた。今年で1848年という気の遠くなるような歴史を持つこの門の謎解明に膨大な投資と研究を重ねてきた関係者は、この発見に痛く感激したのは言うまでもない。
これにより、ポルタ・ニグラは2020年に建立1850年を迎える。トリーア市は特別イベントを催す予定だ。
冒頭で記した2つの博物館で開催中のカール・マルクス特別展は10月21日に終了するが、話題に事欠かないトリーアの歴史を肌で感じてみたいものだ。