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ネット配信ドラマ『パパ活』が面白い。野島伸司の尖った作品を受け止める定額動画配信サービス。

成馬零一ライター、ドラマ評論家

 定額動画配信サービス「dTV」、「FOD」で、全8話が配信されている『パパ活』は、SNSを通じてパパを募集するパパ活をおこなう女子大生・赤間杏里(飯豊まりえ)と、サービスを通して知り合った大学教授・栗山航(渡部篤郎)の物語だ。

『パパ活』ホームページ

 母親とケンカして家を出た杏里は、ネットカフェに泊まっていたが、寝る場所を確保するためにパパ活をおこなうが中々、良い相手と巡り合えない。しかしある日、栗山航という中年男性と知り合い、彼が隠れ家としているマンションに泊めてもらうことになる。他の男性と違い、愛人関係を要求してこない航に対して疑問を感じながらも好意に甘える杏里。

 実は航は杏里の大学でフランス文学を教えている教授だった。杏里は学校には内緒で、航の部屋に居候させてもらうことになる。

 やがて航には杏里と同じ年の娘がいたが、事故で亡くなっていたことがわかる。航にとって杏里は文字通り、娘の身代わりだったのだが、航に同情した杏里は自ら娘として振る舞おうとする。その後、杏里の気持ちは恋心へと変わっていくのだが、そこに航の妻・菜摘(霧島れいか)も絡み、物語は複雑な愛の物語へと変わっていく。

 物語は1話30分弱と短いが、毎回見応えがある。

  

 『パパ活』というタイトルから、最新の風俗をなぞっただけのちょっとHなラブコメかと思って入れると、とんでもない愛の世界に巻き込まれていく。何より、フランス文学の大学教授を演じる渡部篤郎の枯れた魅力と、航にひかれている20歳の大学生を演じる飯豊まりえの瑞々しい魅力が素晴らしい。特に飯豊は今までにないハマり役であり、大人の男性に恋する女子大生を演じており、幼い娘としての顔から女としての色気のある顔まで、様々な魅力を見せている。

 彼女の魅力を引き出しているのが、野島伸司であることは間違えないだろう。

 言わずとしれた、『101回目のプロポーズ』(フジテレビ系)や『高校教師』(TBS系)といったメガヒットドラマを手掛けた人気脚本家だ。

 

『パパ活』は『高校教師』を彷彿とさせるドラマだ。

航と杏里の関係は『高校教師』の羽村隆夫(真田広之)と二宮繭(櫻井幸子)の関係を思い出させるが、病んでいるがゆえに負の魅力を放っているのが渡部篤郎が演じる大学教授だというところに時代の変化を感じさせる。

今の民放地上波ゴールデンのドラマでは難しくなった少女の愛と性を描いた激しい恋愛ドラマとなっている本作を見て、まだまだ野島伸司は健在だと思った。むしろ作家性においては、昔よりもより洗練されていると言える。

 同時に考えさせられたのは、今も変わらない野島伸司のエッジの効いた作風を受け止められる場所が、民放地上波ではなくなくネットの定額配信動画サイトに変わったという、時代の変化についてだ。

今も衰えない野島伸司の切れ味

 90年代に数々のヒットドラマを手掛けた野島伸司だが、2010年代になると、民放地上波のゴールデンに登板する回数は減っていく。端的に言うと視聴率がとれないことが原因だが、同時に思うのは今のテレビドラマのトレンドと野島伸司の作風がズレを起こしているからだろう。

 『パパ活』もそうだが、野島自身の脚本家としてのスキルは決して落ちていない。

 

 むしろ、純粋な作家としての力量は洗練されており、90年代の全盛期の切れ味が戻りつつある。特に筆者が感心したのは『49』、『お兄ちゃん、ガチャ』(ともに日本テレビ系)といったジャニーズアイドル主演のドラマだ。『49』は事故で昏睡状態の息子の身体に幽霊となった父親が乗り移ることで、息子の変わりに高校生活を体験するという異色の青春ドラマで、主演の佐藤勝利(Sexy Zone)を筆頭とするジャニーズ事務所の男の子や、西野七瀬(乃木坂46)、山本舞香といった若手女優をチャーミングに描いていた。

一言で言うと出てくる男と女がとにかくカッコよくてかわいい(だけの)ドラマだが、このひたすら楽しい青春の躍動感を見て、今の野島伸司はこんなに若いのか。と驚いたものだ。

 

 一方、『お兄ちゃん、ガチャ』は、理想のお兄ちゃんを求める少女・雫石リコ(鈴木理央)が「お兄ちゃん、ガチャ」を引いては、理想のお兄ちゃんと違う男の子を拒絶する姿をコミカルに描いたドラマだ。

 少女たちに消費されるジャニーズアイドルの姿を批評的に描き出した問題作で、CGを他用した画面構成も含めて他に類を見ない作品だった。

 この二作は深夜ドラマで放送されたため、知る人ぞ知る作品で、全盛期の野島の活躍を知っていると少し悲しいが、本人はどこ吹く風という感じで、次々と傑作を生みだしている。 

性愛と青臭さ

 そもそも、野島伸司は評価が難しい作家だ。

 テレビドラマ史を検証した時に、間違えなく歴史に名を残す作家であることは確かだろう。90年代にはヒット作、問題作を次々と生み出したが、肝心の作品は話題性を狙って、レイプや近親相姦といった過激な題材を描いていたこともあってか、今振り返ると、流行として消費されていた面は否めない。

 

 また、野島の作風は良い意味でも悪い意味でも青臭い。

 物語の根底にあるのは性愛であり、だからこそ女優を色っぽく描ける。

『パパ活』における娘の変わりとして見ていた女子大生を(性的欲望を感じる)女として見るようになってしまう様は極めて野島伸司らしいモチーフだと言える。

 この青臭さと性愛を描こうとする永遠の思春期を生きるスタンスは今のテレビドラマとは相性が悪い。

 例えば、今のテレビドラマの主流は家族で楽しめる連続テレビ小説(朝ドラ)であり、中年男性が楽しめる池井戸潤の企業小説を原作とするドラマが放送される日曜劇場や、テレビ朝日で放送されている大人向けの刑事ドラマだ。

 野島が活躍した90年代に較べるとテレビは確実に老いている。

また、震災以降の日本の疲弊した空気の中で人々が求めているのは人の心をえぐるような過激な作品ではなく、登場人物が争わずに仲良く日常を淡々と過ごすような癒されるドラマだ。

 これは良い面もある。例えば、連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK)や『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)のようなドラマが生まれて高い評価を受けているのは、それだけテレビ文化が円熟しているからだ。

 

野島と同様に、90年代に活躍した脚本家は、それぞれの形で今のシーンに適応して大きな仕事を成功させている。

岡田惠和は連続テレビ小説『ひよっこ』を手掛け、三谷幸喜は昨年、大河ドラマ『真田丸』(NHK)を手掛けた。

『ロングバケーション』(フジテレビ系)の北川悦吏子も2018年の朝ドラ『半分、青い。』を手掛けることが決まっている。

『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)をてがけた坂元裕二は『カルテット』(TBS系)を筆頭とするドラマで再評価を受けており、今のドラマ業界にそれぞれの方法で居場所を見つけている。

そんな中、野島伸司は今も変わらず青臭く尖っているように見える。

そんな野島が新天地として向かったのが、民放地上波でも朝ドラでもなく(個人的は野島伸司の朝ドラは凄く見たいのだが)、dTVという有料配信動画の世界だったのは、そこが愛と性を正面から描く野島の作家性を受け止められる場所だったからだろう。

 

次回作には、Hulu(フールー)で配信ドラマ『雨が降ると君は優しい』が決まっている。 こちらは玉山鉄二と佐々木希が主演で、題材は何と「セックス依存症」だと言う。

 あらすじだけ見ても、かなり過激な内容になりそうで楽しみである。

 『雨が降ると君は優しい』ホームページ

 

ライター、ドラマ評論家

1976年生まれ、ライター、ドラマ評論家。テレビドラマ評論を中心に、漫画、アニメ、映画、アイドルなどについて幅広く執筆。単著に「TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!」(宝島社新書)、「キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家」(河出書房新社)がある。サイゾーウーマン、リアルサウンド、LoGIRLなどのWEBサイトでドラマ評を連載中。

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