星となってしまった馬に背中を押されGⅠを制した馬が、今週末は有馬記念に挑戦!!
積極策で制したGⅠ
「スタートが決まらなかったし、コーナーももっとあった方が良いタイプですから……」
騎乗した吉田隼人がそう語ったのは、天皇賞(秋)(GⅠ)の直後。騎乗したポタジェ(牡5歳、栗東・友道康夫厩舎)についてのコメントだった。
「そうですね。コーナーが増えるのは良いと思います」
吉田の言葉に首肯してそう言ったのは友道だ。有馬記念(GⅠ)の舞台は中山競馬場の芝2500メートル。同馬にとっては初めての距離になるが、コーナーが多い分、流れは落ち着きやすく、天皇賞のロケーションであるワンターンの東京2000メートルよりは向きそうだ。
大阪杯(GⅠ)は直前で走った金鯱賞(GⅡ)の再戦ムードが漂っていた。その金鯱賞は4着で、先着を許した3頭、すなわちジャックドール、レイパパレ、アカイイトも皆、大阪杯に駒を進めて来た。ポタジェにとっては負かされた相手に雪辱を期さなければ戴冠は望めない1戦だった。そこで、レース前、友道は手綱を取る吉田隼人と作戦を練った。
「当日、前の残る競馬が続いていた事もあり、今回は先行勢を見ながらある程度、積極的に行こうと話し合いました」
金鯱賞ではポタジェより前で競馬をしていた3頭に先着を許した。加えて、指揮官が語るように当日のトラックバイアスが先行有利。だから、好位から前での競馬を選択した。
結果、これが奏功した。スタートから鞍上に押されると、5番手を追走。絶好の手応えで直線を向く。逃げたジャックドールをラスト200メートルで捉えたのが前年の覇者レイパパレ。その時、すぐ直後まで忍び寄っていたポタジェは、ゴール寸前でディフェンディングチャンピオンをかわし、真っ先にゴールに飛び込んだ。
星になった馬に背中を押され
「さすがに声が出ました」
友道はそう言うと、加えて語った。
「GⅠで好メンバーが揃っていたので半信半疑でした。でも、状態が絶好だったので、当然、期待もしていました」
更に別の馬の名を口にして、続けた。
「1月の日経新春杯をヨーホーレイクが勝った時も嬉しかったけど、今回はGⅠなので、なおの事、嬉しく感じました」
ヨーホーレイクとポタジェの共通点といえば、オーナーが金子真人ホールディングスである点だ。友道の言葉は続く。
「金子オーナーの馬ではマカヒキとワグネリアンでダービーを勝たせていただきました」
2016年の日本ダービー(GⅠ)を制したのがマカヒキだった。そして、2年後の18年にダービー馬となったのがワグネリアンだった。
「皐月賞2着からダービーへ臨んだマカヒキと違い、ワグネリアンは弥生賞で連勝が止まり、皐月賞は大きく負けて(7着)からのダービー挑戦でした。それでも何とか福永(祐一騎手)君にダービージョッキーになってもらいたいという気持ちで挑んだところ、ダービーで巻き返して勝ってくれました。だから、マカヒキの時とは違う喜びを感じたものです」
それから3年半以上が過ぎ、7歳となったワグネリアンは今年も現役を続行する予定だった。しかし……。
「年が明けてすぐに多臓器不全を発症し、死んでしまいました。ものすごくショックでした」
その直後、同じオーナーのヨーホーレイクが日経新春杯を勝つと、更に同オーナーのポタジェが大阪杯を優勝した。
「最後はワグネリアンが背中を押してくれた。そんな気がしました」
そんなポタジェが今週末、有馬記念(GⅠ)で2度目のGⅠ制覇に挑む。ドウデュースでダービー3勝目を挙げ、ジュンライトボルトでは自身初めてダートのGⅠを制した伯楽にとっては今年4つ目のGⅠ制覇を目指す事となる。星になったワグネリアンがまた背中を押してくれるのか。注目しよう。
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)