『みなし陽性』という言葉の前に。
最近、ニュースで『みなし陽性』という言葉を見かけることが増えてきました。
検査をせずに診断なんてできるのかなと思っておられる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし実際の医療現場では、『新型コロナに限らず』血液などの試料に頼らず最終的な診断を下す可能性は十分にあります。
そこで今回は、みなし陽性そのものの話というよりも、実際の医療の現場で行う診断に関し、医師の視点から簡単に解説をさせていただきたいと思います。
読者の方々に質問です
最初に、読者の方々に質問をしてみたいと思います。
皆さんの目の前にある物体があることにしましょう。
そしてそれは11月に東北で収穫された果物です。
さて、何を思い浮かべたでしょう。
いやいやまだ確信は持てないかもしれませんね。ではその物体をさらに観察してみることにしましょう。
見た目は丸く、赤いものです。
さわってみると、表面はやや硬くザラザラしています。叩いてみると、やや乾いた音がします。
予想がついてきたかもしれませんが、さらに計測してみましょう。大きさを測ると10センチぐらいで、果汁を採取してみると、糖度は15度で重さは400gありました。
さて、答えとしては、皆さんもリンゴが思い浮かんだのではないでしょうか。ちなみにリンゴもたくさんの種類がありますけれども、例えばフジとかシナノゴールドは300gから350gなので、今回想定していたリンゴは北斗という品種でした。
検査の前の、問診や視診、聴診なども重要な診断のためのステップです
いやいや何の話をしているんだと思っておられるかもしれません。
実は医学の診断はこんな段階を追って進めていくことが多いのだということを皆さんと共有したかったのです。
医学的な診断に至るためには、まず問診、すなわちお話をお聞きすることがとても重要になります。先ほどの例えでは、11月に収穫された東北で採れた果物ですという話になりますね。
そして見た感じを把握する視診、そして胸やお腹などの音を聴く聴診、そして体を触らせていただいて確認する触診などにより、診断の『確からしさ』を高めていきます。
先ほどのリンゴの話で考えれば、見た目が丸く赤くて、触ってみるとやや硬くザラザラしていますといった話ということになるでしょう。
そして、問診や診察で確証が得られない場合に検査を行うことになります。リンゴの話で言えば大きさを測り、果汁の糖度を測って重さを量るようなそんなイメージです。
検査をする前に、90%以上はリンゴかなと予想ができているケースならば、検査は必ずしも必要はないでしょう。
もし果汁を採取しようとしたのに、たまたま果汁ではなくて皮の表面を撫でていただけかもしれませんし、もしかすると検査の機械の調子が悪くて糖度が5度という結果だったとしても、皆さんはやはりリンゴだろうと思われるのではないでしょうか。
医学的な診断は、段階を追って『確からしさ』を高めていく作業です
ちょっと難しい言葉ですが、問診や視診、聴診にも感度や特異度という精度があり、『診断の確からしさ』を高めていくために重要な作業なのです。
そして、検査に至る前に診断を下す可能性も十分にあるということです。
たとえば感染症に関しては、その流行状況に応じてもかなり話が変わってきます。
季節が冬で、例えばインフルエンザがとても流行していて、周囲にインフルエンザの人がたくさんいらっしゃる、もしくは家族にインフルエンザにかかった方がいらっしゃった、そういった状況がわかり、発熱や咳などの症状があれば、その人がインフルエンザである可能性がとても高くなり、検査をせずに診断を下す可能性もあることになります。
もちろん、検査自体をしてはいけないとか、する必要はないとかそういう話をしているわけではありません。
問診や診察も診断のためにとても大きなステップで、その時点で診断がつくこともよくあることですということを皆さんとも共有していただきたくてこのような話をしてみました。
この話が皆さんと医療者の相互理解のために、何かのお役にたつことを願っています。