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「俺の家の話」の早川トオル役などが反響を呼ぶ前原滉。今度は、恋人が突然別人になり、たじろぐ主人公に

水上賢治映画ライター
「彼女来来」で主演を務めた前原滉   筆者撮影

 本人には失礼に当たるが、彼の名を知らなくてもその顔には見覚えがあるのではないだろうか?

 それぐらい、朝ドラ「まんぷく」やドラマ「俺の家の話」など話題のドラマや映画への出演が続き、確かな存在感を示している俳優の前原滉。

 この3月に主演映画「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」が公開されたばかりの彼だが、早くも新たな主演映画「彼女来来」の公開を迎える。

 若手バイプレイヤーとして頭角を現した彼に話を訊いた(全ニ回)。

 最新主演映画「彼女来来」は、演劇ユニット「ピンク・リバティ」の代表をつとめ、劇作家・演出家として活躍する山西竜矢が初めて映画監督に挑み作り上げたオリジナル長編作品。

 ある日突然、恋人が別人に入れ替わるという不条理かつ不可思議な現象に見舞われた男・紀夫の恋愛の行方が描かれる。

恋人が別人に入れ替わることは、なぜか疑問を抱かなかったんです

 まず、なかなか説明しづらい異色の恋愛映画といえる本作の脚本の第一印象を前原はこう語る。

「おそらくみなさん『えっ、何で恋人が入れ替わるの?』って思う気がするんです。『恋人がある日突然別人になるってどういうこと?』とまずはそこに意識がいく。

 けど、僕は最初に脚本を読んだときに、あまりそこに疑問を抱かなかったんです。

 こうした取材でお話しする機会を得て、実はあらためて『確かに入れ替わるって謎で、深掘りして考えられるポイントだよな』と思ったぐらいで(笑)。

 なぜか、僕は脚本を読んだ段階から、その摩訶不思議な入れ替わり現象については受け入れていたんですよね。

 『恋人が別人に入れ替わる』ってある種の超常現象ですから表だけ見ると、ある種のファンタジーなのだろうけど、そうも感じなかった。

 僕は、そのいわば物語のトリッキーなところよりも、奈緒さんが演じた、もともといた恋人の茉莉から、天野はなさんが演じた入れ替わるマリへと心が転じていく紀夫の意識の方に気がいったんです。

 それで、この物語は僕らのすぐそばにある日常の中にあると思ったんですよね。つまり身近な物語に受け止めた。

 たとえば、いまお付き合いしている人がいて、結婚も考えている。でも、ある人と出会って、それが一瞬にして終わってしまうことだってある。

 自分も含めて、人ってそんな清廉潔白ではいられないというか。

 恋愛に限らず、人付き合いにしても、仕事にしても、長いものに巻かれるときもあれば、あっちにふらふらこっちにふらふらして優柔不断でなかなか決められなかったりする。

 なにかきれいごとじゃない人間の本質と、そういう人々によって織りなされている日常がこの作品では描かれている気がした

 そこに僕は意識がいったんですよね」

「彼女来来」より
「彼女来来」より

どうなるかわからない場に身を置いた方がおもしろいものが出るんじゃないか

 山西監督からも恋人が入れ替わることに関して特に説明はなく、前原自身もあえて説明を求めなかったという。

「山西監督から特に説明されることもなかったので、そういう『前提』であればいいのかなと。

 僕自身もあえて説明を求めませんでした。これはどの現場にいってもそうなんですけど、僕は最初、この役がこう設定されている理由とかをあまり聞かないようにしています。

 はじめにそこを聞いてしまうと、そのことだけに考えをしばられてしまって、結果としてすごく表現を狭めてしまう感覚があるんです。

 理由がひとつだと、どうしてもそこにしか頭がいかなくて執着してしまう。そうなるとどこか当たり前のものしか出てこないところがある。

 でも、いくつも不確定な要素があってそこに身をゆだねると、自分も思ってもみないようなものが飛び出たりする。

 そのことを僕は大切にしたいなと。

 たとえば、自分の座った椅子が壊れるシーンがあったとする。

 その壊れる理由は結果的にひとつかもしれないけど、壊れる前はいろいろあっていい。

 もしかしたら椅子が限界にきてたのかもしれないし、もしかしたら誰かが仕組んだのかもしれないし、もしかしたら自分の体重が前より増えて耐えきれなかったのかもしれない。

 そうしたどうなるかわからない場所に身を置いた方がおもしろいものが出るんじゃないかと思うんです。

 その演じ手がその場で感じて出たものは、きっと見てくださる方にも僕は伝わると思っている。

 なので、あまり決めつけないで演じようと心がけているところがあります。今回は、究極なにも知らなくてもいいかもしれない。その方が紀夫の戸惑いが出ていいんじゃないかと思っていました

「彼女来来」より
「彼女来来」より

紀夫はあまり解決につながるとは思えない手をついつい選んでしまう。

自分に似ている部分がけっこうあるなと思いました(苦笑)

 前原が演じる紀夫は、結婚も意識しはじめた恋人、茉莉がある日、帰宅するとまったくの別人のマリとなっている信じがたい事態に見舞われる。

 当然ながらこの事態をのみこめない紀夫は戸惑うばかり。一方、マリはなにかと理由をつけては紀夫の家に居座り続ける。

 ここで前原は、不測の事態を前に、自らを試され、心をかき乱される紀夫の心情の変化を精緻に演じ切っている。

 前原自身は紀夫という人間をどうとらえたのだろうか?

「自分に似ている部分がけっこうあるなと思いましたね(苦笑)。

 もし紀夫と同じ出来事に遭遇したら、僕も周囲に助けを求められないなと思ったんですよね。

 紀夫が別人のマリを前にしてからの行動でいろいろと選択を迫られるわけですけど、そのチョイスはほとんど微妙にずれているというか。

 彼はあまり解決につながるとは思えない手をついつい選んでしまっている。

 あの切羽詰まったところで目の前に何個か選択肢を出されたときの紀夫のチョイスが、僕もしがちで(苦笑)。ちょっと他人に思えなかったんですよね。

 それでたぶん根本が似ているのかなと(笑)。

 紀夫ってごくごく平凡な人間なんだと思います。

 極論を言えば、紀夫は激しく好かれることもなければ、激しく嫌われることもない。ありふれた人物でしかない。

 俳優をやってますけど、この世界って強烈な個性をもった人の集まりのようなところがあるじゃないですか

 その中に入ると、僕も『自分てなんて普通なんだろう』とその都度、痛感させられる

 そういう意味で、紀夫は親近感がわくというか。自分と重なる部分のある人間だと思いましたね」

(※第二回に続く)

「彼女来来」ポスタービジュアル
「彼女来来」ポスタービジュアル

「彼女来来」

監督:山西竜矢

出演:前原滉 天野はな 奈緒ほか

公式サイト http://sherairai.com

6月18日(金)より新宿武蔵野館ほかにて全国公開

場面写真およびポスタービジュアルは(C)「彼女来来」製作委員会

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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