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この冬、どこ行く? 【日本一おいしい温泉】VS【日本一まずい温泉】――。味わってみたいのは、どっち?

山崎まゆみ観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)
日本一まずい温泉として愛される新潟県月岡温泉(撮影・筆者)

おいしい温泉とまずい温泉

(新潟県・越後長野温泉と月岡温泉と山梨県下部温泉)

温泉を味わったことがありますか――。

おいしい温泉とまずい温泉とそこそこな温泉があるなかで、酸っぱい、辛い、苦い、甘いと、舌に訴えかけてくるのが温泉というもの。それぞれの温泉に含まれるミネラルが奏でるハーモニーゆえ、ひとつとして同じ味はない。

温泉を味わい続けて、はや20年以上。愛飲してきた私が、もっともおいしいと思っているのが新潟県越後長野温泉「嵐らんけいそう渓荘」の源泉だ。

口にふくむと、とろりとしている。両頬に湯をやると旨みが広がり、舌の上で転がすと、じんわりと染み入る昆布茶風味。

ナトリウム塩化物冷鉱泉という泉質が味の由来。ねっとりするのはナトリウムの濃さゆえだろう。旨みはミネラルが絶妙なバランスでミックスされているからであり、総合的に〝昆布茶〟に仕上がったのだ。

「嵐渓荘」の朝食で出される温泉粥がまた旨い。温泉のみで炊く粥で、塩加減がいいあんばいで、漬物などなくとも、箸が進む。湯を煮詰めると塩ができるから、近くの定食屋ではこの塩を使った山塩ラーメンもいただける。

もちろん、「嵐渓荘」に宿泊して、のんびりと入浴すれば、肌に優しい湯だとわかる。湯治場として地元の人に愛されるこの湯は、皮膚病、切り傷、冷え性、婦人病など、病気の回復にいいと評判で、薬として販売していた時期もあるほどだ。

飲み慣れた湯の味というのもある。

温泉ミネラルウォーターとして毎日飲んでいるのは山梨県下部温泉「源泉館」の「天然鉱泉水 信玄」だ。目覚めに1杯、ちょこちょこ2~3杯、自宅にいる日などは一日中いただいているが、とにかく喉ごしがいい。

これも単純温泉という泉質で説明がつく。単純温泉とはバランスよくミネラルが入っていて、飲泉でそれらを摂取できるから、別名〝飲む野菜〟とも言われているほどで、多くの人に飲まれてきた。

それゆえ、温泉ミネラルウォーターも数多あり、私は何度か浮気したことがあるが、結局「信玄」に戻ってくるのだ。他のものはミネラルが強すぎるのか、理由はわからないが、喉にひっかかる。噛みしめたくなる味ではあるが、「信玄」のようにぐびぐびと飲むことができないからだ。

単純温泉も、飲んで良し、入って良し。特定の成分が強すぎないこともあり、子供からお年寄りまで安心して入ることができる〝家族の湯〟として愛されている。「信玄」のもととなる下部温泉「古湯坊 源泉館」の湯も、もちろんいいに決まっている。

武田信玄が川中島の戦いで負った傷を癒した湯として知られ、実際、信玄は「源泉館」の岩風呂に入ったと伝えられる。いまでも旅館棟と湯治棟があり、大勢の湯治客がいる。34度のぬるい湯にじっくり浸かるのが「源泉館」の入浴方法だ。

さて、湯の旨さを書き連ねてきたが、最近、〝日本一まずい温泉〟として認知度を上げているのが新潟県月岡温泉。

月岡温泉街にある飲泉所で温泉を飲んでみると、確かに、苦みとえぐみ、酸味が口内に広がるが、最後にはふわっとした甘味がした。まずいと思う人が大多数なのかもしれないが、個人的には、まずいというより、一度飲んだら忘れられない強烈な味という感じ。

このまずさにも理由がある。

硫黄泉がまずいことはよく知られた話で、月岡温泉が特筆すべきまずさなのは、硫黄含有量がことのほか多いためだ。一方でこの硫黄成分は、温泉に含まれる成分の中でも極めて血管拡張作用が高く、さらに皮脂や角質を洗い流す美肌のもとでもある。入浴後はつるんと一皮むけるようだ。

月岡温泉は2015年に開湯200年を迎え、いま地元の若手が町づくりに力を入れており、〝プレミアムな新潟〟を体験できる店舗が4つある。新潟の酒蔵の逸品が全て揃い、500円で3杯試飲ができる新潟地酒「蔵 KURA」。新潟米菓「田 DEN」では手焼きせんべいを作ることができ、新潟地物「旨 UMAMI」では、ご飯を片手に漬物を味わえる。新潟飲物「香KAORI」ではワインや雪室珈琲を試せる。

まずい湯のあとは、新潟の美食で舌を喜ばせてください。

※この記事は2023年4月6日に発売された自著『温泉ごはん 旅はおいしい!』(河出文庫)から抜粋し転載しています。

観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)

新潟県長岡市生まれ。世界33か国の温泉を訪ね、日本の温泉文化の魅力を国内外に伝えている。NHKラジオ深夜便(毎月第4水曜)に出演中。国や地方自治体の観光政策会議に多数参画。VISIT JAPAN大使(観光庁任命)としてインバウンドを推進。「高齢者や身体の不自由な人にこそ温泉」を提唱しバリアフリー温泉を積極的に取材・紹介。『行ってみようよ!親孝行温泉』(昭文社)『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文春文庫)『宿帳が語る昭和100年 温泉で素顔を見せたあの人』(潮出版社)温泉にまつわる「食」エッセイ『温泉ごはん 旅はおいしい!』の続刊『ひとり温泉 おいしいごはん』(河出文庫)が2024年9月に発売

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