入園者半減でも客単価で勝負 新エリアをオープンした東京ディズニーランドの工夫
過去最大の投資・24年ぶりの新エリア開発
東京ディズニーランド(以下、TDL)に、9 月 28 日、過去最大規模の開発エリアがオープンした。4月15日オープン予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大で2月29日から6月末まで休園されたことから、ようやくオープンに至った。この開発には注目すべき点が多く、さらにこの時期、いくつかの経営的変化がみられた。そこで、それらのねらいを読み解きたい。
TDLは、1983年の開業以来、数々のアトラクションを導入してきた。しかし、今回のような大規模なエリア新設・エリア拡張については、1992年のクリッターカントリー、1996年のトゥーンタウン開園以来となる。そして、この新エリア開発がファンタジーランド、トゥモローランド、トゥーンタウンの3つのテーマランドにまたがることも初めてである。総投資額約750億円は、TDL史上最大である。開発エリアの総面積約4万7000平方メートル(TDL全体の約1割)にアトラクションは3カ所増え、全体で44カ所となった。商品施設も2カ所増え48カ所、飲食施設も3カ所増え54カ所となった。
TDLの新エリアオープンにともなう新たなアトラクション・商品施設・飲食施設
満を持した世界初アトラクションの新設
特に注目すべき点は、これまで単独の新アトラクションとしては、例えば20億円、50億円、大きくても100億円、最大でも210億円という規模であったが、全体で750億円という段違いの投資規模である。しかも、新規オープンとしては、2015年の「スティッチ・エンカウンター」から5年も空いている。新設のすき間を埋めるアトラクションの大規模リニューアルオープンもここ5年みられなかった。待ちに待った新規オープンである。
しかも、映画『美女と野獣』をテーマにした世界初のアトラクション「美女と野獣“魔法のものがたり”」、ベイマックスをテーマにした新アトラクション「ベイマックスのハッピーライド」ともに、他のディズニーテーマパークにはない日本オリジナルである。東京ディズニーシーに昨年オープンした「ソアリン:ファンタスティック・フライト」など、海外のディズニーテーマパークに先行導入されたアトラクションが日本にも登場するケースが散見されたが、世界初であることは評価に値する。まさに、満を持した上でのオープンといえる。
TDLにおける大規模アトラクションの新規・リニューアルオープン(2000年以降)
入園者が半分以下だからこそ客単価向上へ さまざまな工夫
現在は「遊園地・テーマパークにおける新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」(東日本遊園地協会、西日本遊園地協会、賛同企業、2020年5月22日付け、8月12日改訂)に沿った対策を実施しており、「3密を回避するため、当面は収容人員の半分とするなど、施設全体及び個別アトラクション等の利用人員の制限を行う(事前予約制度を実施する方法も検討する)。」よう努めている。そのため、アトラクションおよびキャラクターグリーティング施設では、新たに「エントリー方式」での受付を採用し、レストランおよびショップへの入店は予約制としている。
ただし、入園者数を半分にしぼっても、経費が半分になるわけではないため、当面は赤字覚悟の経営を余儀なくされる。だが、入園者数が半数以下となることがわかっているからこそ、既に1万1千円を超えている客単価をさらに上げて、収支をあわせていくことが重要になる。
エリア全体でひとつのストーリーを表現することで消費を促進
新アトラクション「美女と野獣“魔法のものがたり”」は、野獣の潜む城(高さ約30メートル)が忠実に再現され、映画の名曲に合わせて踊るように回転して動く魔法のカップに乗り、映画の名シーンを巡ることができる。エリア全体としても、入口付近にある「モーリスのコテージ(ヒロイン・ベルの家)」から始まり、映画序盤に出てくるベルの住む村を体感できる。「ビレッジショップス」は、ベルの行きつけの本屋をイメージしたショップ「ラ・ベル・リブレリー」など、趣の異なる3店で構成されている。狩猟を得意とする筋肉自慢のガストンが経営するレストラン「ラ・タベルヌ・ド・ガストン」など、映画のなかの風景が随所に広がり、ストーリーをエリア全体で体験できるよう工夫されている。もちろん、それぞれの作り込みの質は折り紙付きである。これにより、エリア全体での満足度があがれば、商品購入や飲食が促され、客単価向上につながるだろう。
また、ポップコーン専門店「ビッグポップ」では、映画『美女と野獣』のバケット付きポップコーンを3,400円で販売している。点灯させると、ステンドグラスのモザイク画がロマンティックに光り輝く。コーンの種類も変更され、単価向上に一役買っている。これが人気を呼べば、間違いなく客単価向上に寄与する。
さらに、当面の間、「ビレッジショップス」は「東京ディズニーリゾート・アプリ」で入店予約が必要となり、店舗ではグッズの展示のみ行い、オンライン購入することになる。購入商品は自宅へ配送されるため持ち運びが不要であり、パークを出た後も当日の指定時間まで買い物ができて便利である。それにより購入単価を上げる効果も期待でき、搬送や在庫管理も効率化する。
飲食単価UPに一役 ディズニーランドでアルコール解禁
TDLではアルコール類を販売しないことを徹底してきた。ゲストが飲み過ぎて酔っぱらってしまうと、“夢と魔法の王国”のイメージを損なうことが危惧され、他のゲストに迷惑をかける可能性もある。家族でいっしょに楽しむ場所にアルコールはいらないという“ウォルト・ディズニーの絶対に譲れないルール”と長らく言われてきた。そのため、大人向けをアピールする東京ディズニーシーでのみルールを緩和するにとどまっていた。
ところが、10月1日から、TDLでアルコール販売が始まった。テーブルサービスを行う4店舗で、赤ワイン、白ワイン、ビールの提供が行われるようになった。元々ニーズはあり、海外のパークでも提供されている例があるなかで、こだわりを捨て経営的なメリットが優先されたのではないか。しばらくテスト運用され、定常販売に移行する予定である。アルコール類の販売も、飲食単価を上げることに一役買うだろう。
自動販売機を置かないルールも既に解禁されているが、新たな自動販売機が新エリア付近にも置かれ、より柔軟化した印象もある。
新型コロナウイルスのワクチン接種が広がらない限り、3密を回避するため収容人員を半分以下に抑えなければならない状態は続くだろう。そのなかで、客単価をさらに伸ばしていける底力が発揮されることで、「Go To トラベル」キャンペーンの後押しの有無にかかわらず、経営的な成果をあげることができるのではないか。