「ゴールデンカムイ」「風雲児たち」 アイヌを知って差別を学べるマンガ
今年3月に放送された日本テレビ系の情報番組「スッキリ」で、アイヌ民族に対する不適切な差別表現があった問題について、BPOの放送倫理検証委員会は「放送倫理違反があった」とする意見書を公表しました。
【参考】日本テレビ「スッキリ」アイヌ民族差別発言に関する意見(BPO)
BPOの報告書の最後に「おわりに~差別と向き合う『しんどさ』を乗り越えて」と題して、以下のように指摘しています。
・40代以下の若い世代になると、アイヌ民族の名称は知っていても、どういった歴史と文化を持っているのかという知識は乏しく、差別の歴史と実態についての知識はほとんどないに等しかった。
・同じような問題が生じるリスクは、どの放送局にも存在していると言えるだろう。
・複雑で難しい問題だから、差別された人々にスポットを当てると偏った番組になりかねないから、視聴率が取れそうもないから……。差別問題から目を背けたくなる理由はいくらでもあろう。しかし、差別根絶への第一歩は「知る」「知らせる」から始まる。
BPOはテレビ業界の話なのですが、今やネットで誰もが「メディア」になる時代で、「スッキリ」のように差別発言をする可能性は誰でもあります。先日、炎上したメンタリストDaiGoさんの動画もそうですし、間違いを犯さずに済む保証はありません。ネットで情報を発信するなら、普段から差別へ関心を払い、勉強を続ける以外に方法がないでしょう。
とは言え「書籍を読んで勉強するのは面倒」というのは本音でしょう。そこでアイヌや差別のことが分かるマンガを紹介したいと思います。
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アイヌと言えば、アニメも放送された野田サトルさんの人気マンガ「ゴールデンカムイ」です。日露戦争帰りの兵士が、アイヌの少女と共に、北海道のどこかに隠された金塊の手がかりを探すという物語です。9月17日までの期間限定で、マンガサイト「となりのヤングジャンプ」やマンガアプリ「ヤンジャン!」で同作が全話(288話も!)読むことができます。
1話を読むだけでも、アイヌの言葉や風習、食事などの文化がしっかり描かれていることが分かります。それこそ「スッキリ」で問題になった「犬」の発言について、「ゴールデンカムイ」の第6話では、その言葉を口にした相手を主人公が怒るという内容で落とし込まれていて、たった1ページ強なのに、非常に深い内容になっています。マンガとしての面白さがあり、読むだけでアイヌ文化が勉強できます。
【参考】アイヌ語研究の第一人者も驚いた、漫画『ゴールデンカムイ』の完成度(週プレNEWS)
アイヌの歴史が分かりやすいのは、先日亡くなられたみなもと太郎さんの「風雲児たち」でしょうか。戦国時代から江戸時代にかけて、アイヌの歴史、蝦夷地(北海道)を統治した松前藩の関係について触れられています。アイヌ語、生活、風習にも言及。そして「シャクシャインの戦い」の結末……、松前藩が和議を破ってだまし討ちをしたことは、知っておくべきことの一つかもしれません。
「ゴールデンカムイ」や「風雲児たち」に共通するのは、アイヌについて描くとき、アイヌに対する差別があったことを伝えていることです。
最後は、差別について描いたマンガです。これはいくつもありますが、手塚治虫さんの「アドルフに告ぐ」を挙げます。3人のアドルフの視点を通じて、一筋縄でいかない差別の複雑さが感じられるのではないでしょうか。なお手塚さんには、アイヌを描いたマンガ「シュマリ」もあります。
余談ですが、1990年代から人気を博している格闘ゲーム「サムライスピリッツ」シリーズにも、アイヌの少女が登場します。そういう意味では、ゲーム好きには、アイヌに対してクールというか、良いイメージが強いのかもしれません。
BPOも指摘している通り、差別根絶への第一歩は「知る」「知らせる」から始まります。マンガをフックにしてアイヌに興味を持ち、さらに多くの書籍で知識を深めてもらえればと願っています。
また先日終了してしまいましたが、国立アイヌ民族博物館(北海道白老町)では特別展「#ゴールデンカムイ トゥラノ ア(プ)カ(シ)アン ー杉元佐一とアシ(リ)パが旅する世界ー」が開催されていました。「ゴールデンカムイ」がアイヌ文化の理解に貢献しているのが分かりますね。
ネットでは、どうしても自分の興味のあることばかりに目が向きます。普段は目にしないこと、知らないであろうことを、いかにして取り込むかも考える必要があるのかもしれませんね。