減らない「いきなりエイズ」実態と求められる対策は?
本日12月1日は世界エイズデーです。エイズのまん延防止と患者・感染者に対する差別・偏見を解消をするために、1988年にWHO(世界保健機関)が制定しました。
「エイズ」という病気の名前は、いち時期と比べ、あまり聞かなくなった気もします。この機会に、国内のエイズ(AIDS/後天性免疫不全症候群)の最新状況と求められている対策についてまとめてみます。
減らない「いきなりエイズ」
厚生労働省エイズ発生動向委員会による最新のデータでは、去年1年で新しく報告されたエイズの患者は428人(男性409・女性19)でした。
エイズは、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)というウイルスによって引き起こされる病気です。HIVは、細菌やウイルスから体を守る免疫細胞の一種に感染し、増殖していきます。
下の写真は、免疫細胞に感染したHIV(緑)が細胞内で増殖し、細胞の外に出てきた様子をとらえたものです。
HIVに感染して適切な治療を受けないでいると、一般的には5~10年ほどをかけて、免疫の仕組みがだんだん衰えていきます。
すると、普通なら問題を起こさないはずの細菌やウイルスを原因とする様々な病気(ひどい下痢や体重減少など)に悩むことになります。こうした状態になると、エイズと診断されます。
つまり、HIVに感染しただけではエイズではありません。感染から何年もたって、様々な病気を引き起こすほど進行した場合にエイズとされます。
ここで、下のグラフをご覧ください。
1985年から2015年までの、新たに見つかったHIV感染者数とエイズ患者数の推移を見たものです。
感染者・患者数ともにゆるやかに増加し、近年は横ばいになっていることがわかります。
注目して頂きたいのは、エイズ患者数です(青のグラフ)。この人たちの多くはHIVに感染している間は気付かず、エイズになってから検査を受けて初めて判明した(いきなりエイズ)と考えられます。
近年、効果のある薬が次々と開発され、HIVによって免疫の仕組みが衰えきらないうちにウイルスの増殖を抑えれば、エイズを発症しないですむようになってきました。
「いきなりエイズ」の人たちは、せっかく治療法があるのにそれを受けられず、進行してしまったわけです。こうした人をひとりでも減らすためには、どうすれば良いのでしょうか?
求められる早期発見
国立感染症研究所のホームページには、HIVの感染に早く気付くためのポイントが記されています。
HIVに感染すると、2~3週間くらいに発熱や咽頭炎などインフルエンザのような症状が、数日から10日前後つづくことが多いということです。「この時期に診断が出来ると、その後の治療及び経過に圧倒的に有利となる」とも書かれています。
コンドームをきちんと使わずに、不特定多数や同性間で性的な接触をしたなど「感染のリスク」とされる行動のあとにこうした症状があった場合、「どうせ大丈夫だから」と思わず、医療機関を受診して勇気を持って相談して検査を受けてみることが、自分の身を守ることにつながるかもしれません。
早期治療は、最大の予防にも
最近の研究で、早めに治療を始めることで、HIVの感染が拡がるのを防げることも分かってきました。
「予防としての治療」(Treatment as Prevention)という考え方です。
今年、「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」という専門誌に、早期の治療による予防効果を調べた研究の最終結果が発表されました。
それによると、パートナーがいるHIV感染者に対し、「免疫の仕組みが衰える前に治療を始めた」場合と「ある程度衰えてから治療を始めた場合」で分けて調べた結果、早めに治療を始めた場合は、パートナーへの感染が9割以上も抑えられることがわかりました。
この結果は、早めに治療を始めることで、ほかの人にそれ以上感染を広げないで済む可能性を示しています。
ただ一方で、抗ウイルス薬は非常に価格が高く、しかも一生飲み続ける必要があるとされています。早期に治療が始まればそれだけお金がかかるし、負担も増えます。それらの不利益も考慮しなければなりません。
だからこそ大切なのは、早く感染に気付くことです。継続的に検査を受けて体の状態を知っておき、医療者としっかり相談しておくことで、自分にとってどんなタイミングで薬を使い始めるのがベストなのか?納得して治療を受けられるのではないでしょうか。
HIVは「弱い」ウイルス
何より大事なのは、感染する前に予防すること。そのためにも正しい知識が必要です。
国立感染症研究所のホームページには「HIVは体外に出るとすぐに不活化してしまう程脆弱なウイルスなのである」という記述があります。HIVはインフルエンザウイルスやノロウイルスなどと比べ、とても感染力が「弱い」ウイルスなのです。
国内の過去のデータ(下図)からは、感染の経路として(主に男性による)「同性間性的接触」が多く、次いで「異性間の性的接触」「その他・不明」となっています。こうしたデータからは、性的接触の際にコンドームを適切に使用するなどの対策を徹底することこそが、最大の予防につながると考えられます。