95歳のホロコースト生存者、VRでアウシュビッツ絶滅収容所を再び訪問「まるで戻ってきたようです」
「アウシュビッツに到着した時や選別された時を思い出しました」
第二次世界大戦時にナチスドイツが支配下の地域でユダヤ人を差別、迫害して約600万人のユダヤ人、ロマ、政治犯らを殺害した、いわゆるホロコースト。そのホロコーストの象徴的な存在の1つがアウシュビッツ絶滅収容所。アウシュビッツ絶滅収容所では欧州からのユダヤ人やロマ、政治犯ら110万人以上が殺害された。
アウシュビッツ絶滅収容所は現在でも世界中からの観光客や欧米、イスラエルの学生らがホロコースト教育の一環として訪問しており、2019年には過去最高の230万人以上がアウシュビッツ絶滅収容所を訪問していたが、2020年は世界規模でのパンデミックの影響で、アウシュビッツ絶滅収容所博物館も一時閉鎖しており、昨年の訪問者数は50万人程度だった。それでも現在でもアウシュビッツ絶滅収容所は世界的な観光名所の1つである。アウシュビッツではガイドがツアーでバラック、処刑場、囚人が到着して選別された線路の引き込み、独房の跡地など悲惨な出来事が起きた場所を案内して解説してくれる。
1945年1月27日に旧ソ連軍によってアウシュビッツ絶滅収容所が解放されたが、その日は、現在では国際ホロコースト記念日に制定されている。そして78年目の2023年1月27日を前にして、イスラエルに在住しているアウシュビッツ絶滅収容所の生還者で95歳になるメナハム・ハベルマン氏が仮想技術(VR)でアウシュビッツ絶滅収容所を再び訪問した。
VRのゴーグルを装着して目の前に登場したアウシュビッツ絶滅収容所の仮想現実空間を体験したハベルマン氏は「まるでアウシュビッツ絶滅収容所に戻ったようだった。到着した時や選別された時を思い出しました」と語っていた。今回のVRはイスラエルのフィルムメーカーが制作している。フランスのメディアFrance24がその様子を報じていた。
▼VRでアウシュビッツ絶滅収容所を再び訪問したイスラエル在住のメナハム・ハベルマン氏(France24)
アウシュビッツ博物館では新型コロナ感染拡大前からオンラインやバーチャルでの展示に注力していた。仮想現実(VR)技術で紹介したり、オンラインで展示をしてホロコースト教育の教材を提供したり、パノラマで展示をしている。
デジタル技術の進展によって、ホロコーストの教育や保存にVRが活用されてきている。ホロコーストの生存者は既に高齢であるため、記憶が鮮明で体力があるうちに記憶のデジタル化を進めようとしている。VRでの描写だから写真や本よりは、リアリティはあるが、それでも絶滅収容所や移送される貨車という地獄は100%再現できるわけではない。当時の絶滅収容所の臭い、温度、不衛生な環境、恐怖や悲しみといった人々の感情、飢え、強制労働、暴力、虐待、殺害といったそこでの地獄を本当に再現し追想できるのはメナハム・ハベルマン氏のような体験者本人だけだ。現代の我々に求められるのはVRから当時の様子を思い描く想像力だ。
戦後約80年が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。ホロコースト生存者は現在、世界で約24万人いる。彼らは高齢にもかかわらず、ホロコーストの悲惨な歴史を伝えようと博物館や学校などで語り部として講演を行っている。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。メナハム・ハベルマン氏も積極的にホロコースト時代の経験や記憶を語ってきており、その動画はイスラエルのホロコースト博物館ヤド・ヴァシェムのYouTubeで全世界に向けて公開されている。
▼ホロコースト時代の経験を語るメナハム・ハベルマン氏(ヤド・ヴァシェム)
▼VRでアウシュビッツ絶滅収容所を訪問したイスラエル在住のメナハム・ハベルマン氏