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九州電力・山田章仁、チームで「浮かない」ためには何をすべきか。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
ブースには人が集まった(筆者撮影)

 山田章仁が先手を取った。

「全国へ(思いを)届けるには皆様のお力が必要でございます。何卒!」

 11月28日、都内某所で開かれたジャパンラグビーリーグワンのプレスカンファレンスに参加。新加入した九州電力キューデンヴォルテクスの加盟するディビジョン3、その上のディビジョン2のチームの取材機会は、生配信される登壇イベントに先んじて設定された。

 山田が所定の部屋へ足を踏み入れたのは、その取材機会の開始から約1分前。他のチームの選手が集まらぬうちに「時間になったら皆さん、(他選手の取材などで)お忙しいですから」と、報道陣にチームのバッジを配った。

「これをつけて九州にお越しの方は、僕が空港へお迎えに上がります!」

 37歳。ポジションはタッチライン際のウイング。かねて跳ぶ、回るといった突飛に映る動きで相手防御を攻略してきた。

 北九州市の鞘ヶ谷ラグビースクール、小倉高校を経て入った慶応義塾大学では、「グローバルに活躍する人」になりたいと謳った。

 卒業後のフランスのプロクラブでのプレーを目指し、関係者へ自身のプロモーションビデオを送った。

 ウイルス禍にさいなまれた2020年には、スポーツ推薦を目指す高校生がSNSでプレー動画を共有する「#スポーツを止めるな」が流行したが、山田はそれと似たことを2007年にしていたこととなる。

 もともと先手を打つ人だった。今回、取材現場へ最初にやってくるのも自然だった。

「もちろん、当たり前じゃないですか!」

 のワールドカップイングランド大会などに出場した。

 2013年以降、日本代表として25キャップ(代表戦出場数)を得てきた。2015年のワールドカップイングランド大会では、歴史的3勝に喜ぶ。

 当時優勝2度の南アフリカ代表へタックルの雨を降らせ、34―32で歴史的勝利を挙げた。続くスコッドランド代表戦を欠場した理由のひとつは、「海で魚に刺された」からだった。

 初の同一大会2勝目を挙げた3戦目のサモア代表戦では、軸回転の動きでタックラーをかわす「忍者トライ」を披露した。話題には事欠かなかった。

芸術点の高いトライをマーク
芸術点の高いトライをマーク写真:ロイター/アフロ

 国内では現三重ホンダヒートでの2シーズン(在籍中に下部のトップチャレンジからトップリーグへ昇格)を経て、2010年度に現埼玉パナソニックワイルドナイツ(加入当初は三洋電機ワイルドナイツ)へ加入。以後、3度のプレーオフMVP、2度の最多トライゲッターを受賞した。

 2019年には、現浦安D-ロックスのNTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安へ移籍した。3シーズンのうち1シーズン目は様々な理由で中断。2シーズン目以降は出場機会を失っていた。

 ところが、「トレーニングはできた。試合に出られればもっとよかったですが、出られない選手は(どのチームにも概ね)35人もいますから」。2021年には、期限付き移籍の形でアメリカ・メジャーリーグラグビーのシアトルシーウルブズでもプレーしていた。見聞は広められた。

 果たして地元に戻った。これまで身体化し、これから新天地でシェアするのは、勝負を制するのに必要な普遍的要素だ。

 程よく力の抜けた言い回しで、勝負や競技の核心を突く。

——合流して約2か月。

「非常に充実していますね。九州出身の選手が多いので、チームへの思いがある。よく、『どこ中出身?』という話になると思うんですが、ここでは出身のラグビースクールの話でぐっとまとまれる。それがチームを動かすパワーになる。

 九州のラグビー界では、『チームメイトの親御さんも自分のお母さん』みたいな、温かい雰囲気があるんです。

(自身のポジションである)バックスリーを中心にコミュニケーションは取っていますけど、僕も皆さんに教えてもらうことは多くて。新しい九電のムーブとか。標準語が出たら、怒られますから。方言でコミュニケーションを取れるように」

——新天地で思うことは。

「チーム自体はいわゆる社会人チームというところで、仕事にも専念。僕自身にその経験がないので(大卒後すぐにプロ選手として活動開始)、あまり大きなことは言えないんですけど、(企業クラブは)日本のラグビー界における非常に大切な文化だと思う。僕自身もそれを発信したいですね。

 これは、ずっと思ってました。エディーさんともそんな話をしたことがあります。エディーさん(※)はプロ選手の行き場というものを現実的に見ていると思うので。現役の時はラグビーに打ち込める環境があり、その後にはしっかり仕事ができる。強化云々とは関係なく、いまの文化は日本が世界中に発信できる大事なものだと感じています」

※エディー・ジョーンズ…元日本代表ヘッドコーチで山田が代表デビューを果たした時の指揮官。日本代表現在はイングランド代表を率いる。

――以前までいたチームよりも企業のカラーが濃いように映ります。

「僕もこう見えて、ある程度、チームスポーツをやってきている。自由にやらせていただきながら、チームの決まり事なんかは(守る)。

 月曜から木曜は18時半から(全体トレーニングを)やってます。新鮮です。夜の練習もなかなかなかったこと。真っ暗ななかで動くことでより絆、ラグビーの醍醐味を味わえていますかね。

 皆さん(チームメイト)はほとんど、フルタイム勤務です。シーズン中もそうだと。(仲間が仕事している間は)僕は、トレーニングを。ようやく、(移籍後の)挨拶回りは終わりました」

——移籍への思いは。

「ずっと九州への思いは頭の片隅にあって。しっかりやれる間に戻りたいという思いはありました。

 いままでだと、東京から福岡に帰ったら『いいなぁ。ただ、(東京へ)帰らないといけないなぁ』でした。ただ、いまは今回みたいに2日くらい東京に来たら、早く(福岡へ)帰りたい! 新鮮ですよ、いま。観光客みたい。電車移動が楽しみ、くらいです」

——近年、九州のチームは相次ぎ活動を停止しています。

「そうなんです。個々をネガティブに捉えず、九州唯一のチームとして注視しています。来年はワールドカップが(フランスで)ある。個人的にも、チームでも回って九州のちびっこに思いを伝えていきたいです。

(廃部した宗像サニックスブルーズ、コカ・コーラレッドスパークスの)ジャージィも、応接室にかざってあります。皆さんも是非、一度(見に来て欲しい)!」

——年長者として。

「(経験談は)大々的にすると(頭に)入らない。コーヒーでも飲みながら色々と話せたらいいかなと。もちろん僕も皆に助けられる部分もあるし、僕も成長したい。お互いが言い合える距離感、関係を築かないと。僕が何かを言うのは簡単ですけど、それが(相手に)入っていなかったら意味がない。もっと言うと、僕の間違いも教えてくれないと、僕も成長できない。

 ラグビー選手にとって、移籍って難しいんですよ。すぐに結果を出さなきゃ、という。でも、今回は何がよかったかって、(選手の)ルーツが同じ。それによってぐっと(団結に必要な時間が)凝縮されるんですよね」

——シーズンへ。

「簡単な試合はひとつもないなと。(ディビジョン3では)どのリーグも接戦になってくる。点差が開くと大味な試合になりがち。今後は点差をつけて勝っている試合でも引き締めていけるようにできないと、ディビジョン2、1には行けないという思いがあります。しっかりした試合は、やりたいです。九州電力のDNAにはディフェンスがある。こう見えて私も、ひたむきにプレーするのは好きなので」

——目標がディビジョン2昇格だとしたら、格上のチームへ挑む時もあります。

「大事な試合に、いかにレギュラーシーズンのような気持ちで試合ができるか。簡単に言うと、気合いを入れすぎず、抜きすぎず。そのアプローチは重要になるかなと。(大一番に向かう以前に必要なのは)総合力。怪我人も出てきます。シーズンを通して、50人いたら50番目の選手のモチベーションがいかに高いか。それが、チーム力の鍵になるなと」

——地元テレビ局でのインタビューで、個人目標を「浮かない」と語っていました。チームの合流が他の社員選手と異なるなど個人行動を貫きながら、実際に「浮かない」。その状態を作るために、大切にしていることはありますか。

「これは、ずっとテーマにしていますけど、コミュニケーションを取ること。ご時世的に難しいことですが、それ(連絡交換)を切らさず、グラウンド内外で話すように。ここには、力を入れています」

 そういえばワイルドナイツ時代の2012年度は、社会人アメリカンフットボール・Xリーグの現ノジマ相模原ライズに加入。プレシーズン期はワイルドナイツを離れていたが、仲間とは頻繁に連絡を取っていた。「コミュニケーション」を軽んじない。

 山田の学年は、日本ラグビー界において黄金世代と言われる。イングランド大会で共に戦ったメンバーには五郎丸歩氏、畠山健介氏、堀江翔太(ワイルドナイツ)、山下裕史(コベルコ神戸スティーラーズ)がいたが、最近ではひとり、またひとりとスパイクを脱いでいる。

 職業選手のリアルを知る山田は、「(引退の意向は)ないですよ」と言い切る。

「わりかし、皆さん、辞めた後、大変そうだし。辞めたくないなぁって。もちろん個人競技じゃないし、受け皿がないとできません。九州電力には感謝しています」

 4児の父でもあるだけに…。

「コロナで試合をしてないのもあって(2020年)、上の6歳(双子)がその頃、3歳くらい。僕が代表とかで試合していた時は、まだ赤ちゃんで記憶がない。だから、『果たして、あいつ(父)は何をやっているんだろう』だと思うんです。トレーニングは、しているんですけど。最近、サッカーのワールドカップとかを観ていると『これ、出てる?』とか聞いてくるんです。だから、しっかり見せたい。走っているところをね」

 1日でも長くグラウンドに立っていたい。地元のクラブで「浮かない」のはその一環だ。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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