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岩手初の感染者に中傷殺到:新型コロナの心への攻撃と戦おう

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ:岩手山(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

■岩手初の感染者の会社に中傷殺到

岩手は私たちの希望でした。最後まで感染ゼロでがんばれと、エールを送りたい気落ちにもなっていました。だからこそ、絶対感染してはいけないというプレッシャーもありました。だからこそ、知事をはじめ関係者は、第一号感染者を責めないようにと、事前に発言していました。

けれども、残念ながら初感染者への誹謗中傷は起きてしまいました。

3カ月半の間、全国で唯一「感染者ゼロ」だった岩手県。7月29日に陽性が初めて確認され、感染者の勤め先やネット上には中傷や差別発言が相次いでいる。県は、感染者への中傷について厳しく対処する姿勢だ。

出典:岩手初の感染者に中傷続く 知事「鬼になる必要ある」8/1朝日新聞デジタル

報道によると、勤め先企業への中傷電話が殺到。直接訪問して中傷するほか、嫌がらせメールも多数。ホームページへのアクセスも殺到し、一時サーバーがダウンしました。

知事は、厳格に臨むという意味で、「(中傷に対しては)鬼になる必要がある」と強調しています。

■なぜ新型コロナ感染者は非難されるのか

日本人の特質として

新型コロナの感染拡大に伴い、感染者への誹謗中傷問題は何度も起きてきました。感染者の学校や職場がひどい誹謗中傷を受けることも繰り返されてきました。

日本人は、基本的に真面目だと思います。一人ひとりが、感染しないように一生懸命努力しています。それはもちろん、すばらしいことです。しかしその反面、調査によれば、日本人は感染を自業自得だと思いやすい傾向も見られます。

感染予防の努力をしているからこそ、感染してしまった人は努力不足だと思ってしまうのでしょう。

また日本人は、周囲に気を使います。自分が感染して周りの人に迷惑をかけてはいけないと考えます。それも良いことでしょう。しかしこの発想は逆転すれば、感染した人を周囲が責めることにもなってしまうのでしょう。

人の本能として

感染者への偏見差別や誹謗中傷は、世界中で起きています。薬もない新しい感染症は、私たちに恐怖を引き起こします。激しい恐怖の中で、過剰な防衛本能が働きます。

すると人の心は、内向きになります。自分や家族を守るために、「よそ者」を排除しようとします。よそ者とは、他の地域の人であり、ルールを守らない人であり、そして感染者です。

■感染症と偏見差別

人類と感染症の歴史の中で、不幸な偏見差別と誹謗中傷の歴史は繰り返されてきました。今回の新型コロナの感染拡大にともなっても、偏見差別の発生は容易に想像できました。

誰もが地域や学校職場での、第一号感染者にはなりたくないと思ったことでしょう。病気の怖さは一号でも十号でも同じはずですから、第一号になることを恐れたのは、ご迷惑をおかけしたくない気持ちでもあり、また人から責められたくない気持ちでもあったでしょう。

現代医学は、新型コロナウィルスの正体を突き止めつつあります。薬の開発も世界中で急ピッチで行われています。しかしウィルスによる心への攻撃には、21世紀の私たちも無力なのでしょうか。

全国で、感染者の家に石を投げられたり、壁に落書きされるなどの被害が多発しました。

■嫌がらせ電話とメール殺到

コロナに限らず、問題が起きた会社や学校には、嫌がらせの電話やメールが殺到します。本人たちは、しばしば歪んだ正義感で正しい指摘をしているつもりですが、客観的に見れば、その多くは誹謗中傷であり、嫌がらせです。

会社や学校は、その対応に追われ、心理的に疲れはて、本来の業務に支障をきたします。

電話をしている側は、問題解決を口実にしているかもしれませんが、実際は問題解決を遅らせているだけです。

■新型コロナによる偏見差別、誹謗中傷を防ぐために

偏見差別、誹謗中傷をやめようと、何度も言われています。これに反対する人は、例外的でしょう。ただ問題は、自分の言動が偏見差別、誹謗中傷だと思っていない人が多いことです。自分の言動は正当だと思っているのです。

特に今回の新型コロナ騒動の中では、いつもなら冷静で優しい人まで、このワナにはまっています。それだけ、私たちの心に不安とストレスがたまっているのでしょう。

まず、私たちみんなにコロナストレスがたまっていることを自覚しましょう。自覚ができると、コントロールがしやすくなります。

ストレスが自覚できないと、イライラして人を責めたくなったり、怖くなって人を追い出したくなったりしても、自分の心身に問題があるとは思えず、相手が悪いとしか感じられなくなるのです。

ストレスが自覚できれば、自分の心が攻撃的になったときに、今の自分の感情は相手のせいではなく、自分のせいだとも考えられるでしょう。

偏見差別と誹謗中傷を防ぐために、正しい情報を集めましょう。最新の情報を集めようと思いすぎると、デマやフェイクニュースにもだまされやすくなります。適正な量の情報を超えると、かえって不安やストレスも、高まるでしょう。

焦りと疲れは禁物です。心に余裕が持てるように、心身の調子を整えましょう。ウイルスとの戦いは、長期戦です。地域の一号やら二号やらを気にしすぎていると、最後まで戦えません。

その上で、具体的な差別や誹謗中傷には、知事が述べている通り、きちんと指摘し、断固たる態度をとりましょう。

ただ、その人を責め立てるだけでは、問題解決しないでしょう、多くの人は悪意はなく、時には家族愛や郷土愛、正義感に基づいて行動しているのです。

悪意がなければ良いわけではありません。それでも、差別や中傷をしたくなる人の心理を理解した上で、共に感染予防のための正しい活動に参加できるように、促したいと思います。

人間関係が悪化し、疑心と分断の中では、コロナは防げません。相互信頼と協力と協調を通して、ウィズコロナの生活を作っていきましょう。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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