FW菅澤優衣香、浦和の初優勝を導いた一発。「失敗を引きずらない」強心臓が導いた頂点への道
三菱重工浦和レッズレディースが20年越しで成し遂げた皇后杯初優勝。そのタイトルを引き寄せたのは、FW菅澤優衣香の右足だ。
堅く閉ざされていたジェフユナイテッド市原・千葉レディースのゴールをこじ開けたのは、67分だった。
菅澤は左サイド裏のスペースに走ってボールを受け、タメを作った。相手DFの寄せを鮮やかな身のこなしでかわすと、中央を駆け上がったMF猶本光にパス。浦和の攻撃のスイッチが入った。千葉陣内に赤いユニフォームが押し寄せる。
ボールは中央のMF安藤梢を経由して右のDF清家貴子へとスピーディに展開。クロスに3人が走り込む理想的な形を作り出した。
清家が放った伸びやかなクロスは、中央で待つMF塩越柚歩とDF佐々木繭の頭上を越え、ファーサイドの菅澤の下へ。菅澤はゆったりとしたフォームからボールの芯を丁寧に叩き、ゴールネットを揺らした。
「清家からいいボールが入って、(自分の)前で(佐々木)繭が相手選手とうまく潰れてくれて。クロスからチャンスが来ると思っていたので、イメージ通りに点が取れました」
チームメートの祝福を受けた後、菅澤はもう一度噛み締めるように、両手の拳を握りしめた。
千葉は中学時代まで過ごした地元。そして、ジェフレディースは2013年から2016年までプレーし、得点王のタイトルを2度獲得した古巣だ。タイトルへの強烈な思いと、決勝で古巣と対戦できた喜びが、ゴール後の力感溢れるガッツポーズに表れていた。
「サッカー人生で皇后杯だけ(タイトルを)取れていなかった。サッカーのキャリアの中で獲得したかったタイトルでした。これで満足しないで、次の大会でも取りたいです」
試合後はすっきりとした表情で試合を振り返った。
昨季、3度目の国内リーグ得点王に輝き、今季からスタートしたWEリーグでも現在得点ランクトップ(タイ)に立つ。
最大の特徴は、フィジカルと体幹の強さだろう。ポストプレーに加え、クロスや速いボールにピンポイントで合わせて力強くゴールネットを揺らす。もう一つの大きな強みは、「周りを生かす力」だ。対戦相手はシュートを恐れて徹底マークを仕掛けるが、菅澤は相手をギリギリまで引きつけ、フリーの味方を生かす。周囲との連携もスムーズで、判断が早い。
だが、チームに与える影響が大きいのはやはりゴールだ。点取り屋を象徴する背番号「9」を、浦和となでしこジャパンでつけている。その一振りで、スタジアムの空気を変えてきた。
浦和のキャプテン、MF柴田華絵も厚い信頼を口にする。
「本当にストライカー、という感じで、難しい試合やこういう大事な試合でよく点を決めてくれる。みんなが信頼しているし、だからこそパスが集まる。このチームは、その信頼関係がすごくできていると思います」
周りの選手を生かし、最後は自分が決める。そのスタイルを確立したのは、代表での経験も大きい。以前、菅澤はこう語っていた。
「(2019年の)フランスW杯の時、オランダ戦の前半に、自分が決めていたら、というシュートがありました。あの一本が決まっていたら、流れは日本に来ていたと思うので。それは、周りを生かしながら、自分がシュートを決めなければいけない、という思いを強くしたきっかけでした」
悔しさを、強さに変えてきた。
今大会は準決勝と決勝でゴールを決め、エースの仕事をこなした。印象的だったのは、気持ちのぶれなさと切り替えの早さだ。
準決勝のセレッソ大阪堺レディース戦では、1本目のPKをGK山下莉奈にストップされた。だが、その10分後に再び得たPKも自らキッカーに名乗り出て、際どいコースを狙い、しっかりと決めた。
決勝では、69分に右からのクロスをフリーで受け、ゴールの上に外した。だが、その8分後に同じ形のクロスを確実に決めた。
ミスでプレーが硬くなる選手もいるが、菅澤は逆だ。その秘訣を聞くと、表情が少し緩んだ。
「何度も失敗してきたことはあるかもしれませんが…(苦笑)。失敗しても後に引きずらないことを心がけているし、切り替えてプレーするようにしています」
WEリーグで、浦和は現在3位につけている。残り11試合で逆転優勝を狙うため、3月5日から再開する後半戦は負けられない試合が続く。得点源の菅澤は、チームの浮沈を左右する存在だ。
プレーする姿は強靭な体格や表情も相まってギリシャの彫刻のように凛々しく、迫力がある。様々に変化するヘアスタイルや、多彩なゴールパフォーマンスも魅力だ。一方、ピッチを離れれば人懐っこく、癒し系のキャラクターで周囲を和ませるーー。
そんな「WEリーグの顔」に、改めて注目したい。プレーはもちろん、魅力的なギャップも、初めて女子サッカーの試合を見る観客を魅了するに違いない。
*表記のない写真は筆者撮影