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みずほ銀行のどこがいけないのか

森本紀行HCアセットマネジメント株式会社・代表取締役社長

みずほ銀行は、経営陣が暴力団員らへの融資の存在を知りながら対策を講じずに放置していたとして、金融庁から業務改善命令という行政処分を受けました。さて、みずほ銀行のどこがいけないのか。

行政処分の背景

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金融庁の行政処分というのは、解釈が難しく、一般の方には、そう簡単に理解できないのではないでしょうか。そもそも、行政処分の前提となっている金融監督や検査のありよう自体が当事者以外にはわかりにくいのです。今回の事案についても、みずほ銀行のどこがいけないのかは、必ずしも自明ではありません。

まず、処分対象となった事象は何なのか。業務改善命令をそのまま引用すれば、具体的に処分対象となった事象は、「提携ローンにおいて、多数の反社会的勢力との取引が存在することを把握してから2年以上も反社会的勢力との取引の防止・解消のための抜本的な対応を行っていなかったこと」、および「反社会的勢力との取引が多数存在するという情報も担当役員止まりとなっていること、等」の二つです。もっとも、最後の「等」に何が含まれるのか不明ですが、重要なのは明示された二つだけなのでしょう。

ちなみに、提携ローンというのは、「顧客からの申込みを受けた信販会社が審査・承諾し、信販会社による保証を条件に金融機関が当該顧客に対して資金を貸付けるローン」のことであって、今回の事案では、信販会社というのは、オリエントコーポレーションです。

反社会的勢力との取引自体は処分対象ではない

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実は、暴力団員らへの融資といいますか、「多数の反社会的勢力との取引」自体は、直接の処分対象ではないのです。このところが、金融検査の難しいところです。

実は、上にあげた二つのことは、処分対象となる事態を裏付ける具体的事実なのであって、処分対象となっているのは、これら事実が示している事態なのです。即ち、それは、みずほ銀行においては、「経営管理態勢、内部管理態勢、法令等遵守態勢に重大な問題点が認められる」ということなのです。

そもそも、当該提携ローンは、オリエントコーポレーションにおける適正な、少なくとも、みずほ銀行による融資実行時点においては適正な手続きを経たものです。つまり反社会的勢力との取引を排除する目的で、オリエントコーポレーションが適正に、少なくとも、その時点では社会的に十分に許容される程度に慎重に、審査したにもかかわらず、その網を潜り抜けてしまったものなのであって、そこには、将来へ向かっての審査方法の改善の余地はあるにしても、過去における融資の事実そのものが処分対象になることは、あり得ないのです。

行政処分の対象となっているのは、あくまでも、多数の反社会的勢力との取引の所在を事後的に経営陣が認識した後におけるみずほ銀行の対応なのです。

みずほ銀行の対応の問題点

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では、みずほ銀行の対応は、どこがいけなかったのか。第一に、長期間にわたって、取引の解消のための努力を行わなかったこと。第二に、提携ローンのあり方について、反社会的勢力との取引を完全に排除する視点における改善策を長期間にわたって講じてこなかったこと。第三に、経営陣に対する報告にあり方に不備のあったこと。この三点です。

これら三点は、確かに、経営管理態勢と内部管理態勢における「重大な問題点」を示唆しているようですが、法令等遵守態勢における「重大な問題点」とまでいい切るためには、金融庁においては、みずほ銀行の経営体質について、それ相応の問題認識を抱くに足るだけの心証を得ていたということでしょう。ここは、検査の機微にわたるところで、公表文書だけでは、よくわからないところです。

わからないところを解釈すると、この金融庁の行政処分の意味するところは、金融庁の監督の立場としては、少なくとも反社会的勢力との取引に限っては、法令等遵守態勢のありようとして、完全排除へ向けた徹底した不断の改善努力を求めるということであり、その改善努力における最高度の経営関与を求めるということだと思われます。これは、反社会的勢力との取引排除について、みずほ銀行に限らず、全ての銀行等金融機関に求められる経営姿勢(金融庁用語でいうところの態勢)だということです。

しかるに、みずほ銀行が行政処分を受けたということは、みずほ銀行の場合には、行政処分を課すことで強制的に是正措置を取らせない限り、経営の自律的浄化による改善努力は起き得ないという評価になっているのでしょう。

要は、みずほ銀行の経営陣において、反社会的勢力との取引を廃絶するという姿勢が明確であったならば、少なくとも、2年前には、抜本的な対策が取られていたはずであり、それがなされなかったのは、事実上、反社会的勢力との取引を容認するものであり、そこに、経営者の法令等遵守態勢に重大な欠陥がある、これが金融庁の認定なのでしょうから、みずほ銀行の経営実態は、非常に深刻な状況にあるということになるのだと思われます。

提携ローンの問題

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ところで、銀行に求められる基準は、信販会社に求められる基準よりも厳しいのでしょうか。今回の事案では、信販会社との提携ローンに関するものであって、技術的な原因として、オリエントコーポレーションとみずほ銀行とでは、反社会的勢力の排除に関する手続きの基準に差のあったことが背景にあります。

故に、再発防止策として、みずほ銀行が自行のデータベースを信販会社にも開放することで、みずほ銀行の基準によって、反社会的勢力の排除を進めることになったのです。だとすると、最初から、銀行に求められる基準のほうが厳しいことを前提にしているような気もします。

しかし、そうならば、一体、提携ローンの性格をどう考えたらいいのでしょうか。提携ローンは、信販会社が審査して保証するものですから、銀行の立場は形式上のものに留まることを前提にしているようです。もしも、そうではなくて、銀行が厳正に再審査し、実質的にも銀行自身の融資と完全に同等の扱いにするならば、提携ローンのどこに意味があるのでしょうか。

それから、もう一つの基本的なこととして、今回の事案は、あくまでも、金融庁の銀行監督の範疇に属していることであって、広く一般に反社会的勢力への融資が問題になっているのではないのです。信販会社の融資のあり方は、今回の事案に限っていえば、問題の埒外にあります。

金融庁の監督の立場

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もともと金融庁の立場は、検察や警察ではないのですから、反社会的勢力との取引を摘発することではなくて、あくまでも銀行監督に限られたものです。しかも、銀行監督の基本は、銀行の自律性発揮を促すことです。ここが最も重要なことです。金融庁にとっては、銀行の自律が重要なのです。故に、全てが、「態勢」という言葉に集約されていくのです。

金融庁は、監督の立場として、反社会的勢力への融資自体を直接的に規制し、あるいは直接的に指導により禁じるという立場にはない。金融庁は、そもそも、銀行の個々の具体的行動を監視監督しているのではないのです。そうではなくて、銀行経営の自律的内部統制により、問題行動を排除できるような態勢が構築されているかどうか、そこが検査の着眼点なのであり、監督の眼目なのです。ここのところは、マスコミ等も含めて、一般の方には、十分に理解されていないのかもしれません。

ところで、ここで、私は、哲学に脱線してしまいたい強い誘惑にかられます。ある規範、例えば、反社会勢力と取引するなかれ、というような規範は、それが規範としての強制力をもつのは、ある何かの超越的な権威によってなのか、一般に受容されている守られるべき社会の秩序の力としてなのか、あるいは個人の内面の理性的判断としてなのか。

金融庁の立場というのは、実は、銀行の法人格上の理性による自律に規範の強制力を認めているわけで、はなはだ哲学的というほかありません。

不十分なみずほ銀行の対策

金融庁の行政処分というのは、自律できない銀行に外部強制を加えるということではなくて、何処までも徹底的に自律を求めていくということです。

みずほ銀行の場合は、自律できていない経営態勢の欠陥を正面から指摘されているので、反社会的勢力への融資というような小さな問題に限定された対応では、本来は、全く不十分なのでしょう。ところが、現実には、みずほ銀行は、社会的勢力との取引に限定した対応を早急に行うことで、問題を片づけてしまったのですが、それで、いいのでしょうか。

実は、みずほ銀行の問題はまだ終わっていなくて、経営への報告のあり方について金融庁に対して事実と異なる報告をした事案に関しては、再検査が行われています。故意に事実と異なる報告をしたわけではなく、単なる意思疎通の過ちだということですが、「担当役員止まり」というのは、行政処分の文書にも引用されていることで、これが、実は、取締役会にも報告されていたというのでは、あまりにも差が大きすぎて、簡単な誤りとはいえないのではないでしょうか。

みずほ銀行の金融庁対応の誤りだとしても、取締役会に報告されていたことは事実ですから、これは、取締役会の機能の問題、まさに自律の頂点にある中核機関の機能不全の問題であって、社会的勢力との取引という狭い範囲を完全に超え出ているわけで、経営態勢の欠陥としては、極めて深刻なものだと思われます。

さてさて、再検査結果によっては、追加処分もあるのでしょうか。そして何よりも、この銀行は、行政処分によって変わり得るものでしょうか。また、行政処分によってしか変わり得ない銀行というのは、金融庁の監督の立場からみたとき、そもそも、銀行として成り立ち得るものなのでしょうか。

HCアセットマネジメント株式会社・代表取締役社長

HCアセットマネジメント株式会社・代表取締役社長。三井生命(現大樹生命)のファンドマネジャーを経て、1990 年1 月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。 2002 年11 月、HC アセットマネジメントを設立、全世界の投資機会を発掘し、専門家に運用委託するという、新しいタイプの資産運用事業を始める。東京大学文学部哲学科卒。

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