危険!「なる早」「後ほど」「多めに」等、あいまい語はトラブルを招く
「自分の言ったことが、相手に上手く伝わっていない」ということがあります。理由は様々ありますが、その中の一つに「あいまいな言葉」を使っているために、相手に伝わらない場合があります。
私は日頃、企業研修の講師を務めていますが、リーダー研修の場でしばしばお伝えするのが、「あいまいな言葉はやめましょう」ということです。上司が「こうしてください」と言ったことに部下が従ったつもりが、実は解釈が違っていて、問題に発展した…ということが起こるのです。
仕事の場では、相手に伝わるように言葉を選んで話すことが大切です。自分の言いたいことが、誤解なく正しく伝わるような、伝え方をご紹介します。
「多めに用意」とは何枚のことか
上司の伝え方があいまいだったために、部下に意図が伝わらなかったケースをご紹介します。
上司 「セミナー参加費の領収書は、予備を多めに用意しておくように」
部下 「承知いたしました」
~懇親会当日~
部下 「領収書の予備は、3枚用意してあります!」
上司 「えっ、多めにって言ったのに…」
上司のイメージする「多め」とは、「10枚」でした。しかし、部下は「多め=3枚」と解釈しました。「多め」という「あいまいな言葉」が招いたトラブルといえます。
このように、出した指示と相手の解釈が食い違うケースは、仕事上でしばしば見られます。
具体的な数字で、トラブルを回避
上記と同じようなトラブルは、「数字を使って伝える」ことで回避できます。
×「先週日曜はかなりの来場があり、長い列ができていました」
〇「先週日曜は500名の来場があり、2時間待ちの列ができていました」
×「提案書をなるべく早く作成してもらえますか」
〇「提案書を3月9日(水)18時までに作成してもらえますか」
×「少しだけ到着が遅れます」
〇「5分程度到着が遅れます」
このように、あいまいな言葉を避け、数字を使うことで、具体的に物事を伝えることができます。
ついつい使ってしまいがちな「あいまいな言葉」には、ここに挙げられている以外にも多くの言葉があります。
たとえば、「大きい」「小さい」「安い」「高い」「広い」「狭い」「すごい」「たくさん」「すぐに」「まあまあ」「しばらく」「ときどき」「非常に」「数日後」「しっかり」「ちゃんと」「できる範囲で」…などなど、当たり前のように普段使ってはいないでしょうか。相手は「大きいってどれくらい?」と困っているかもしれません。
私自身にも覚えがあります。
独立したばかりの頃、お問い合わせがあったお客様に「後日、見積書をメールいたします」とお伝えしました。3日後に見積書をお送りしたところ、「遅い」とお叱りを受けたのです。
そのお客様にとっての「後日」は、「翌日」の意味だったのでしょう。幸いなことに、そのお客様とは今でもお取引が続いていますが、場合によっては、「あいまいな言葉」によって、お客様を失ってしまうことにもつながりかねません。
仕事の依頼はビジュアルで伝える
仕事の依頼においても、「あいまいな言葉」はトラブルの原因になります。たとえば、以下のようなケースを耳にしたことがあります。
営業「今度の新聞の折り込みチラシは、爽やかなイメージでいきましょう」
お客様「春ですし、爽やかなイメージ、いいですね!」
~チラシの完成~
営業「爽やかなイメージで制作しました。いかがでしょう」
お客様「えっ、これは…爽やかじゃないですよね?」
このトラブルは、営業とお客様の「爽やかな」のイメージに、認識のズレがあったことが原因です。結果として、チラシのデザインは納得のいくものではなかったのですが、新聞折り込みの日時が迫っていたため、修正する時間がなく、そのまま完成となりました。その後、お客様との関係はギクシャクし、仕事の依頼はなくなったそうです。
このようなトラブルを回避するには、どうすればよかったのでしょうか。
解決の方法は、言葉だけでなく、「言葉+視覚」で伝えることです。
この営業の場合、「爽やか」という言葉のみで伝えるのではなく、イメージを共有できるデザインや写真もプラスして、提案すれば良かったのです。
人は、図や写真、動画など、目で見える情報を付け加えられると、より理解が進み、
認識のズレを減らすことができます。
以下のような依頼の仕方でも、認識のズレによるトラブルを防止できます。
×「棚のファイルを、キレイに直してください」
〇言葉+キレイな状態の別の棚を見てもらう
×「開店のお祝いに、華やかな花を手配してほしいのですが」
〇言葉+「華やかな花」のイメージ写真を見せる
×「古民家を探しています。見つけてくれませんか」
〇言葉+「古民家」のイメージ写真を見せる
その他、「かわいい」「美しい」「深い」「新しい」「明るい」「面白い」など、形容詞は仕事の依頼に使われがちです。しかしあいまいで相手に伝わらない、クセ者な言葉です。依頼時には、目で見てわかる情報を共有し、イメージのすり合わせをおこないイメージのズレをなくしましょう。
イメージが伝わらないと、せっかく行った仕事も評価されず、やり直しとなって余計な手間と時間が必要となります。しかも、上司は「指示した通りではない・・・」、部下は「指示された通りにしたのに・・・」と、双方がモヤモヤしてしまいます。人間関係を円滑にするためにも、気をつけたいですね。
まとめ
仕事の場で、相手に言いたいことを伝えるためには、以下の2点が重要です。
・具体的な数字で伝える
・言葉に視覚をプラスして伝える
「言っただけでは伝わらない」という前提に立った上で、「どうすれば伝わるか」と相手の視点に立って、工夫して言葉を選ぶことが大切です。その意識が認識のズレを減らしてくれるのです。
仕事の生産性を上げるためにも、相手からの信頼を勝ち取るためにも、「あいまいな言葉」を避けるようにしましょう。
研修トレーナー太田 章代
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太田章代の『ビジネスコミュニケーション術』