イランショックを警戒する原油相場
イラン核開発問題の最終合意の期限を6月30日に控え、原油市場はイラン産原油の動向が注目を集めている。イランは世界第4位の石油埋蔵量を誇っており、石油輸出国機構(OPEC)内ではサウジアラビアに次ぐ産油能力を有している。しかし、核開発問題を巡って欧米諸国からイラン産原油取引について厳しい経済制裁を課せられる中、制裁前は日量370万バレル前後を誇った産油量が、今や280万バレル前後まで落ち込んでいると推計されている。
ただ、このまま順調に包括合意が実現すれば、今後はイラン産原油取引に対する規制解除が想定され、国際原油市場は「イラン産原油の市場復帰」という大きな問題に直面することになる。まだ、実際にイラン産原油の取引規制が緩和されるのかは不透明感が強いが、イランの石油当局者は制裁が解除されれば半年で日量100万バレル規模の増産を行う意向を示している。
日量100万バレルと簡単に言うが、国際エネルギー機関(IEA)の推計している2015年の世界石油需要が前年比+110万バレルの9,360万バレルであり、これはイラン1カ国で1年間の石油需要の伸びを全て吸収できる規模である。裏返せば、イランが本当に100万バレルもの増産を行えば、イラン以外の全ての産油国は今後1年にわたって一切の増産が認められない状況になる程のインパクトがある。
6月5日のOPEC総会では、昨年11月と同様にOPECとしては国際原油需給の緩和状態に対応しない方針が再確認されており、サウジアラビアやイラクなどを中心にOPECのフル生産体制は維持される見通しになっている。OPECが放置する過剰供給分は、原油安に耐えられなくなった高コストのシェールオイルなどの減産によってカバーすることが求められている。すなわち、原油安への我慢比べを演じることで、経済合理性の観点から退場者を待つステージになっている。実際に、5月以降は米国のシェールオイルに若干の減産圧力が報告され始めており、原油相場が下げ渋り始めた一因と言われている。
しかし、イランの市場復帰はこうした議論を全て吹き飛ばしてしまう程のインパクトを発生させる可能性がある。イラン側からは、OPEC内でイランの増産相当分を減産することも求められたが、OPEC総会前の調整ではどの加盟国からも賛同が得られなかった。イランが増幅する国際需給の歪み(=供給超過)を誰が解消するのか、OPECとシェールオイルとの対決はこれから更に激しさを増すことになりそうだ。