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子どもがいないことを理由に不快な経験をしても「なにもしなかった」が半数以上、実態調査が発表された

小酒部さやか株式会社 natural rights 代表取締役
2020年9月16日の調査結果発表の様子(筆者撮影)

「女性活躍推進」「一億総活躍社会」の掛け声のもと、育児と仕事の両立が叶うようになってきた。私(筆者)も両立を願って、マタハラ(マタニティハラスメント)を社会問題化し、産休・育休の取得、その後の復帰で働き続けられるよう推進してきた。

しかし、それが「ほかの誰か」へのしわ寄せで成り立っているとしたら、それは本当の意味での「一億総活躍社会」ではない。その「誰か」は今、会社組織の中で「子どものいない人」を指すことが多いように思う。そして、「子どものいない人」のなかには、子どもを積極的に望まなかった人もいれば、流産・死産・不妊治療の経験者といった子どもが欲しかったのに得られなかった人も当然いる。

組織がある方向に進もうとするとき、その余波を受ける人の存在は「ないことにされる」、あるいは「(その人が不利益を我慢することは)仕方ない」とされがちだ。さらに、社会規範や先入観によるマイナスイメージがある場合、当事者の思いを表すこと自体が憚られる。

かつては、妊娠・出産・子育てしながら働く女性の声がかき消されていたが、今は子どものいない社員が声を上げづらい状況のように思う。そのような状況は本来あってはならない。結婚していても、していなくても、子どもがいても、いなくても、すべての人にとって働きやすい社会であるべきで、よりよい職場環境にしていくためには、あらゆる立場の声が必要だ。

本日(9月16日)に、「子どもがいないことを理由に職場で不快な経験をされた男性&女性へのアンケート調査」が発表された。会見した市民団体「ダイバーシティ&インクルージョン研究会」は、「調査は決して対立を招くものではなく、真にインクルーシブな組織づくりの一助となることを願って実施した」と述べた。以下に、調査結果とそれを踏まえた企業への要望をまとめた。

(インクルーシブな組織とは、企業内すべての従業員が仕事に参画する機会を持ち、それぞれの経験や能力、考え方が認められ活かされている状態のこと。)

※なお、9月14日〜20日は欧米が中心で展開されている「World Childless Week」です。

●アンケートにあった具体的な声

このアンケートは、不快な経験または不利益な扱いを実際に経験された方を対象に、「1.(不利益とまでは言えないが)不快であったこと」「2.具体的に不利益を被ったこと」「3.妊娠中もしくは子育て中の社員からされた不快であったこと」の3項目について調査している。

以下、それぞれの具体的な内容を取り上げたい。

1.不快であったこと

妊娠している自分(相手)が優れていて、当方(私)は劣っていると言われているように感じる会話がよくあった。

「早く産め」と言われた。

妊娠しているのだから仕事上優遇されて当たり前という態度を取っていた。(それは確かにその通り。しかしモヤモヤした。)

結婚・子どもの素晴らしさに同意し、「自分もそうなりたい」と言わないと解放してくれない。

少しでも違った意見を言うと社会不適合のように言われる。

「子どもが居ないと分からないよね」と言われた。

「子どもがいて一人前」「子どもを育ててこそマネジメントができる」など、子どもがいないと仕事上の成果が劣るといった意味合いのことを聞かされた。

「どうして子どもが要らないの?将来寂しくなるよ」

「そんなだから旦那さんが抱く気にならないんじゃないの?」

「お前には女を感じない」などの暴言

2.具体的に不利益を被ったこと

長期の出張を当たり前のように言いつけられる

子どもがいるという免罪符のもと、しわ寄せ、残業が押し寄せる

まわりがどんどん妊娠し、出産し、子育てし、その過程において仕事のしわ寄せが「子どもがいないんだから大丈夫でしょ」と私に来た。

私は不妊治療をしていて、業務を調整したい旨を上司に伝えたが、「甘い」と言われ配慮してもらえなかった。

自宅から通えない地域への赴任を、「子どものいる社員の代わりに」と明確に言われた。

産休、育休を取得して子どものいる女性の方が、人事評価が高くなり、昇進しやすい。

3.妊娠中もしくは子育て中の社員からされた不快であったこと

子育て中の社員は、土日夜などの勤務が免除されたため、シワ寄せが独身者や子どものいないスタッフに来た。

年に数回でも代わってほしいが、誰からも声かけがない。

産休・育休に入る社員から仕事の引き継ぎ中に「そもそも育休明けに同じ立場に戻って来るか分からないし」と投げやりな感じのことを言われて、(引継ぎする)モチベーションが下がった。

お子さんがいるため業務時間が短くなることは何とも思ないが、ご自身の業務が終わっていないのに子どもを理由に帰宅する。

その終わらない業務はこちらでフォローしているが、それを当たり前だと思っていた。

「子どもがいないから好きなだけ仕事ができてうらやましい。私は育児で大変なのに」というようなことを言われた。

そういう時に傷つくということはないが、何だかもやもやします。

※なお、アンケート調査にあった上記フリーコメントは、読者に分かりやすくするため内容は変えずに、言い回しのみ修正しているものがあります。

●不快な経験、不利益な扱いをされても「なにもしなかった」が半数以上

不快な経験の加害者 Copyrightダイバーシティ&インクルージョン研究会2020(2020年9月17日8:40追加)
不快な経験の加害者 Copyrightダイバーシティ&インクルージョン研究会2020(2020年9月17日8:40追加)

アンケート調査では、「1.不快であったこと」「2.具体的に不利益を被ったこと」「3.妊娠中もしくは子育て中の社員からされた不快であったこと」の3つの項目ともに、「なにもしなかった」「誰にも相談できなかった」のいずれかを選んだ人が半数以上あり、声が上がっていない実態が伺えた。

3つの項目ともに「なにもしなかった」理由の最多は「何かしても無駄だと思ったから」だった。

加害者を見ると、「不快な経験」の最多は女性同僚だが、次いで男性上司が多く、また顧客・取引先等もあり、社内にとどまらない。女性同士の問題ではなく、ビジネス界全体の話だと見えてきた。

「不快な経験」の内容は、「子どもがいることが、いかに素晴らしいか聞かされた」「なぜ子どもを作らないのかと子どもがいない原因を追究された」が多かった。

「不利益な経験」の内容は、「子どもがいないので、いつも残業していて当然と残業を強いられた」「産休・育休の制度利用者や妊娠中もしくは子育て中の社員の業務のしわ寄せを受けた」が多かった。

「職場の産休・育休の制度利用者や妊娠中もしくは子育て中の社員に改善してもらいたいと思うことはありますか?」の質問に対して、「改善してもらいたいことがある」と回答したのは107人中90人で8割以上だった。その内容は、「産休・育休の制度の利用や妊娠中もしくは子育て中で業務ができない分、それをカバーしている社員が他にいることに気付いて欲しい」が最も多く、会社組織として産休・育休取得者が増えた分、カバーする社員にも目を向けなければならない現状が伺えた。

「職場にあったらよいのに、と思う制度や仕組みがあれば考えをお聞かせください」の質問に対しては、「産休・育休の制度利用者や妊娠中もしくは子育て中の社員の業務をカバーした分の対価を上げて欲しい」が最多。次いで「妊娠中もしくは子育て中の社員だけでなく、すべての社員がフレックス制度を活用できるようにして欲しい」「産休・育休の制度利用者や子どものいる社員の業務をカバーした分の評価を上げて欲しい」となり、カバー分の対価や評価、すべての社員への制度活用を会社に求めていることが分かった。

2020年9月16日の調査結果発表の様子(筆者撮影)
2020年9月16日の調査結果発表の様子(筆者撮影)

●調査結果を踏まえた企業への要望内容

上記の調査結果を踏まえた研究会の企業への要望は、以下の3点。

1.「パワーハラスメント対策」から「ワークプレイスハラスメント」対策へ

同僚ら、力の強弱関係にない相手からのモラルハラスメントは、現在の日本の法律では対応できない。欧米と同様に「ワークプレイスメント・ハラスメント(職場でのいやがらせ)」

として対応してください。

Copyrightダイバーシティ&インクルージョン研究会2020
Copyrightダイバーシティ&インクルージョン研究会2020

2.安心して相談できる風土、仕組み作りを

不快、不利益なことがあってもそれを相談できない、誰にも言えない根本的な原因は、それぞれが持つ「無意識の偏見」です。マイクロアグレッションや、相談者への二次ハラスメントが起こらないための啓蒙・教育活動や防止施策に取り組んでください。

Copyrightダイバーシティ&インクルージョン研究会2020
Copyrightダイバーシティ&インクルージョン研究会2020

3.「ケア」偏重の制度を「フェア」の観点で見直す

女性については、両立支援・就業継続のための「ケア」施策充実の陰で後回しにされてきた男女格差解消の「フェア」施策の整備に、早急に取り組んでください。

(ケア施策:法定を上回る育児休業、ベビーシッター代給付、育児期の在宅勤務、学校行事参加のための有給施策)

(フェア施策:長時間労働の是正、女性管理職登用、女性採用作拡大)

Copyrightダイバーシティ&インクルージョン研究会2020
Copyrightダイバーシティ&インクルージョン研究会2020

以上、

子どもがいる・いないに関わらず、すべての人にとっても働きやすい職場となる“ダイバーシティ&インクルージョン”が進むよう願っております。

■調査の概要

【調査期間】 2019年12月10日~1月31日(53日間)

【有効回答数】107件(回答数110件)

【対象】現在15~60歳の方で、子どもがいないことについて、たとえば早く子どもを作るよう急かされたり(不快な経験)、残業を強いられたり(不利益な扱い)といった、不快な経験または不利益な扱いを実際に経験し、以下の3つの条件を満たしている方。

<条件>

(1)不快な経験または不利益な扱いをされた当時に

(2)会社員や団体職員など組織と雇用関係にあった方

(3)結婚している/いないに関わらず、お子さんのいない(いなかった)男性・女性の方

上記3つの条件は「不快な経験または不利益な扱いをされた当時」で、現在は会社員ではない方、現在はお子さんのいらっしゃる方でも、実際に経験された当時に上記3つの条件を満たしていればアンケートの対象となる。

【内容】子どもがいないことを理由に職場で体験した不快な出来事について、大きく以下の3種類の経験の有無や具体的内容について調査

【1】不利益とまでは言えないが、不快であったこと(例:子どもがいないことで人より劣った者として扱われた、なぜ子どもを作らないのか原因を追究された、など)

【2】具体的に不利益を被ったこと(例:残業を強いられる、評価や昇進で差別を受けた、など)

【3】妊娠中もしくは子育て中の社員からされた、不快であったこと(例:業務のしわ寄せを受けた、きちんとした業務の引継ぎをしてもらえなかった、など)

■調査の結果

注目すべきデータと企業への要望

全件データ

2020年9月16日の調査結果発表の様子(筆者撮影)
2020年9月16日の調査結果発表の様子(筆者撮影)

~ダイバーシティ&インクルージョン研究会について~

ダイバーシティ&インクルージョン研究会とは、子どもがいるいないに関わらず、このアンケート調査に関心のある有志で成り立っている市民団体です。

<アンケートの発起人>

朝生容子

オフィス・キャリーノ代表/「子どものいない人生を考える会」主宰

小酒部さやか

株式会社 natural rights 代表取締役/NPO法人 マタハラNet 創設者

松本亜樹子

NPO法人Fine理事長/Coach A.M.代表 

一般社団法人 日本支援対話学会理事

<協力>

常見陽平

千葉商科大学国際教養学部専任講師/働き方評論家

株式会社 natural rights 代表取締役

2014年7月自身の経験から被害者支援団体であるNPO法人マタハラNetを設立し、マタハラ防止の義務化を牽引。2015年3月女性の地位向上への貢献をたたえるアメリカ国務省「国際勇気ある女性賞」を日本人で初受賞。2015年6月「ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」にて安倍首相・ケネディ大使とともに登壇。2016年1月筑摩書房より「マタハラ問題」、11月花伝社より「ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~」を出版。現在、株式会社natural rights代表取締役。仕事と生活の両立がnatural rightsとなるよう講演や企業研修、執筆など活動を行っている。

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