「トルコのEU加盟は西暦3000年」英首相、「EU離脱なら再協定に4~7年」FT編集長
欧州連合(EU)残留・離脱を問う国民投票を3週間後に控え、英国のキャメロン首相が2日夜、24時間TVニュース局スカイニュースに出演、有権者から「EU離脱によって経済が悪化すると騒いで怖がらせている」「批判していた労働党のサディク・カーン・ロンドン市長と一緒にEU残留キャンペーンをやるのは偽善」などと予想以上に厳しい突き上げを受けました。
キャメロンは移民の純増を年10万人に抑えると言い続けていますが、昨年、EUからの18万4千人を含め33万3千人に達しました。1993年のEU創設と04年のEU拡大が英国への移民流入の大きな引き金になっています。これについてキャメロンはこう答えました。
キャメロン首相「私たちは英国経済が力強く成長し、200万人分の仕事を創りだすなどものすごい時代を経験しました。私たちは他の欧州の国々と合わせたより多くの仕事を創出したのです。こんな時代は永遠には続きません」
――EU離脱の経済的な影響についてデマを言いふらしている
「EU離脱で英国経済がダメージを受けるというのはデマではありません。私は純粋に英国が単一市場から離脱するのを恐れているだけです」「国際通貨基金(IMF)や経済協力開発機構(OECD)、英国労働組合会議(TUC)、英国産業連盟(CBI)、英中央銀行・イングランド銀行総裁の言うことに一切耳を傾けずに首相としての職責を果たすことはできないでしょう」
――信用できないと言っていたカーン・ロンドン市長とEU残留でキャンペーンを行うとは偽善であり、デマではないか
「カーン市長がそのような(イスラム過激派やテロリストにつながる)人々と公の場で同席した判断が正しかったとは今でも思いません。首相として正しい行いは協力することです。カーン市長と私は多くのことで同意できません。同意できる欧州の問題について協力するよう心がけているのです」
――トルコがEUに加盟すると、英国のEU残留はリスクになるのでは
「トルコが近い将来、EUに加盟することはあり得ません。トルコは1987年に加盟申請しました。この調子だとトルコのEU加盟が実現するのは西暦3000年になるでしょう」
――あなたの「怖がらせ作戦」は経済に留まらず、第三次大戦、世界大恐慌にまで言及しています
「第三次大戦とは言っていません(正確には5月9日の演説で「何の疑いも持たずに私たちの大地の平和と安定が保障されていると確信することができるのでしょうか。EU離脱はリスクを取るに値するのでしょうか」と危機感をにじませています)」
これを受けて、EU離脱を党是に掲げる英国独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージ党首は「私はキャメロン首相の言うことはこれまで以上に信用しません。それは英国の有権者も同じです」とツイートしました。
EU国民投票の世論調査の推移を見ると、EU離脱の経済的影響を次々と指摘して有権者の恐怖心をあおる「Project Fear(プロジェクト・フィア)」が奏功し、残留派がリードしたかと思えば、離脱派が巻き返すという展開が続いています。
今後、テロ勃発や難民の大量流入などの事態が起きるとどうなるか分かりませんが、今のところ残留派が優勢と見て良いでしょう。
英国に事業拠点を置く日本企業の数は約1千社、雇用者数は14万人。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、日本の対外直接投資は下のグラフの通りです。
在英日本商工会議所は今年2月末から4月末にかけ、会員法人330社に英国のEU国民投票についてアンケートを実施しています。それによると127社から回答があり、残留を希望する企業は119社(93.7%)にのぼりました。「いずれでも良い」と答えたのは8社でした。
もし英国がEUから離脱した場合、何が予想されますかという質問(複数回答可)に対しては、30社が「英国への投資が減る」と答え、26社が「英国での雇用が減る」と回答、35社が「コスト増」の不安を訴えました。また69社が状況を見て対応するそうです。これとは別に17社が「欧州の他の国への移転も含め欧州拠点を見直す」「欧州諸国からの雇用が難しくなる」「英国や市場の地位の低下」に懸念を示しました。
元保守党党首でEU離脱派の急先鋒であり、日本人の血を引くイアン・ダンカン・スミス前労働・年金相をスカイニュースのプレスルームで直撃しました。ダンカン・スミスは予算案で障害者手当がカットされたのに抗議して閣僚を辞任しています。
――英国で雇用を生み出し、投資している日本企業は英国のEU離脱を心配しています。日本企業は英国をEUのゲートウェイと見ています。EUからの離脱は、英国とEUを切り離すことになってしまいます
ダンカン・スミス前労働・年金相「日本企業が英国に投資しているのは、英国の労働力が強力だからです。自動車メーカーは非常に大きな市場が英国に入り、欧州にも手を広げています。英国がEUを離脱しても同じように日本企業は続けるでしょう。なぜなら英国はビジネスをする最高の場所だからです。私は今と同じ状況が続くと考えています」
「もちろんEU国民投票がもたらす結果を日本企業は懸念しています。しかし、いったん事態が収拾されると、日本の自動車メーカーや電機メーカーを助けるため、英国はEUの外から良い条件で貿易協定を結ぶでしょう。私は非常に前向きにとらえています。ところで私には日本人の血が流れています」
――EUから離脱すると、これまでのように英国で製造した自動車をEUに輸出できなくなります
「それは間違っています。欧州への自動車輸出は続けられます。私たちが欧州から閉め出されることはありません。EUは英国が輸出している以上に、英国に輸出しています。もちろんEUは新しい貿易協定を求めるでしょう。しかし英国がEUを離脱しても貿易を継続しないと、BMWなどを英国に輸出できず、彼らも自分で自分の首を絞めることになります」
――EUとの新しい貿易協定が結ばれるまで、どれぐらいかかると考えていますか
「新しい貿易協定が結ばれるまで、そんなに時間はかかりません。早く新しい協定を結び、英国と良好な関係を保つことが彼らの利益にもなるからです」
英国のEU離脱問題について、英紙フィナンシャル・タイムズのライオネル・バーバー編集長にも直撃してみました。
――英国がEUを離脱した場合、英国に進出している日本企業にどんな影響がありますか
バーバー編集長「日本企業はEUとの新しい貿易協定がどんなものになるのか見極めるまで待たなければならないでしょう。なぜなら英国はEUの単一市場にアクセスできるよう再交渉しなければならないからです。トヨタはFT紙に英国に留まると言っています。しかし多くの不確実さが数年の間、つきまといます」
――どれぐらいの間、日本企業は状況を見る必要があると思いますか
「私は長くて4~7年間はかかると思います。これは私が持っている一番良い情報です」
――日本企業にとっては長過ぎますね
「もしかしたら私は楽観的なのかもしれません。容易な交渉ではありません。新しい協定がどんな形になるべきか誰にも分かりません。もし英国が単一市場にアクセスするのなら、移動の自由を受け入れなければなりません」
EU離脱を唱えるとみられていたのに、EU残留派についたニッキー・モーガン教育相には、EU残留・離脱をめぐりキャメロンの倒閣運動に発展してしまった与党・保守党内の政局について質問しました。
――保守党は分裂するのでしょうか
モーガン教育相「欧州問題について保守党の議員は長い間、情熱を持って議論してきました。しかし力強い経済、強い防衛力を保つことなど他の問題では昨年の総選挙で選ばれた通り、全員が一致しています。欧州問題は保守党内だけでなく、党派を超えて激しい議論が行われています」
(おわり)