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ただ今、武者修行中。Jリーグ再開後、レンタル先で輝きを放つ7人

河治良幸スポーツジャーナリスト
FC東京から同じJ1の清水エスパルスに期限付き移籍した岡崎慎(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

プロサッカーの世界には期限付き移籍(レンタル移籍)というものが存在します。一定期間、主には1シーズン他クラブに貸し出すことで、プレー機会を増やしたり、場合によっては新天地でアピールして完全移籍を勝ち取ったりと、いろいろな形式が存在します。

今回は主に育成型の期限付き移籍により、”武者修行”先でブレイクが期待される7人をピックアップしました。全て97年年以降の生まれで、来年に延期された東京五輪の候補にもなりうる選手たちです。

J2、J3は6月27日、J1は7月4日に再開が予定されますが、ぜひとも注目してみてください。

(タグマ「KAWAJIうぉっち」記事より編集・加筆)

岡崎慎(FC東京 → 清水エスパルス)

J1の清水エスパルスに期限付き移籍。来年に延期された五輪に向けても成長が期待される岡崎は新しい環境でチャレンジしたい気持ちと、清水側からのラブコールが実る形で実現したと見られ、横浜F・マリノスのコーチとして昨年J1優勝を経験したピーター・クラモフスキー監督からも、大きな期待がかけられているようです。

もともとFC東京でもセンターバックと右サイドバックをこなしていましたが、清水ではボランチがメインのポジションになり、新境地を開拓中。また”リベロ”と呼ばれる3バックの中央もテストされています。岡崎本人がトゥーロンなどの経験を通して、センターバックとして世界で勝負することの難しさを自覚しており、ボランチは伸びしろを考えた時に、非常にやりがいのあるポジションとして捉えているようです。

ボール奪取力が高く、パス能力や状況判断にも優れており、ルヴァン杯の川崎戦で途中から組んだ中村慶太も連携面や的確な声出しなど、一緒にプレーしやすかったことを明かしています。あとはボランチ特有の運動量と中盤のインテンシティーに負けない判断スピードやファーストタッチの正確性、間合などをどこまで高めていけるかが鍵でしょう。

山田康太(横浜F・マリノス → 水戸ホーリーホック)

マリノスのアカデミー出身で、ファンサポーターからは”プリンス”の愛称で親しまれ、同時に期待がかけられているタレント。昨年は風間八宏氏が率いていた名古屋グランパスに成長を求めて移籍しましたが、残留争いを強いられたグランパスはマッシモ・フィッカデンティ監督に代わり、山田は出番がないままシーズンを終えることになりました。そこからマリノス復帰の噂もあったものの、再レンタルでのホーリーホック移籍となりました。

彼の場合は現在のマリノスであっても、十分に戦力になり得る実力を備えているのは確かです。しかしながら主力として計算されない限り、若くしてボランチ、サイドバック、サイドハーフとマルチな役割をこなせる器用さが逆に起用法の幅を広げすぎてしまう向きがあります。Uー20代表でコーチとして山田を見続けてきた秋葉監督が指導する水戸では4ー4ー2のボランチ、3ー1ー4ー2のインサイドハーフと言った中央のポジションでゲームメイクやゲームコントロールを期待される存在です。

そうした役割でフル稼働できれば、マリノスでも便利なマルチロールではなく、中盤で主力を狙えるだけのポテンシャルはあるので、昨年7位から昇格を狙う水戸で経験を積み、プレーの強度をさらに高めて行くことが期待されます。

一美和成(ガンバ大阪 → 横浜FC)

昨年J2の京都サンガで17得点を記録。1つのチームのエースとしてフルシーズンを戦い抜いての結果であり、その結果はガンバの強化部も高く評価しているはずですが、同じJ1のライバルとなる横浜FCに期限付き移籍することになりました。宇佐美貴史はともかく、開幕前のアデミウソンの状態や小野瀬康介をFW起用するなど、試行錯誤している事情を考えれば、個人的には一美を戻しても良かったのではとも思いますが、確実なのは横浜FCの方が主力として出場機会を得られることです。

神戸との開幕戦は得点こそあげることができませんでしたが、前からのディフェンスと柔らかい身のこなしを生かしたポストプレーなど、チーム力に勝る相手にアウェーで1ー1の引き分けという結果をもたらす原動力になりました。ガンバのFWでは他にいないタイプでもあるので、J1で目に見える結果を出せれば延期になった東京五輪の候補としても注目されそうです。

遠野大弥(川崎フロンターレ → アビスパ福岡)

昨年の天皇杯で躍進した”JFLの雄”HONDA FCから川崎フロンターレに加入後、即レンタルされたアビスパ福岡で早くも前線の主力に名乗りをあげました。J2開幕戦で2トップのスタメンに抜擢されるとデビュー戦でゴールを記録。鋭い動き出しや迷いない判断と言った機敏性が魅力で、プレー精度も高いものがあります。

研ぎ澄まされたビジョンを備えるタレントであり、抜け目ない集中力もストロングポイント。ジョーカー的な役回りなら、今フロンターレに戻っても試合に出られる能力はあると評価できますが、戦術的な要求が明確な長谷部監督のもと、アビスパ福岡でスキルや戦術眼に磨きをかけて来季のフロンターレに合流できれば、重要な戦力になっていく可能性を秘めています。

杉森考起(名古屋グランパス → 徳島ヴォルティス)

グランパスのアカデミーからクラブ史上最年少でプロ契約を果たした逸材も23歳になりました。昨年の入れ替え戦で惜しくもJ1昇格を逃した徳島に加入。東京ヴェルディとの開幕戦で徳島は3−0と快調スタートを切りましたが、その試合で大車輪の存在感を示したのが杉森でした。

鋭いドリブルで先制点の起点となり、2点目は杉森が相手のミスからボールを奪い、そのまま迷いなく仕掛けたところから生まれました。ブラジルW杯のトレーニングパートナーとして参加していたこともあり、個人的にも思い入れの強い選手ですが、ようやく”ひ弱さ”が取れてきた印象です。

2018年には町田にレンタルされた杉森にとって二度目の期限付き移籍となりますが、97生まれで大卒ルーキーと同じ年齢です。まだまだ伸びしろはありますし、ポテンシャルは高いですが、現在のグランパスで言えば阿部浩之のポジションなので、昨年は入れ替え戦で惜しくも昇格を逃したヴォルティスをJ1に引き上げる原動力になるぐらいの活躍が期待されます。

名古屋グランパスはFWの深堀隼平が同じくJ2の水戸ホーリーホックに期限付き移籍、開幕戦にスタメン起用されており、彼らの成長が来年の編成にも大きく関わるかもしれません。

川井歩(サンフレッチェ広島 → レノファ山口)

プロ入り3年目の昨シーズンに地元のレノファ山口に期限付き移籍すると、主に左サイドバックでレギュラーに定着し、3バック採用時は右ウィングバックを担当。高い機動力と攻撃センスを発揮して、東京五輪に向けたUー22代表のメンバーにも選ばれました。広島復帰もあるかと思っていましたが、レンタル期間を延長。霜田正浩監督のもとレノファでさらなる成長を目指す選択をしました。

キャンプでは怪我で出遅れたこともあり、リーグ開幕戦はベンチ入りもできませんでしたが、中断期間のトレーニングでは溌剌とした姿を見せていたので、左サイドでは安在和樹、右サイドでは武岡優斗という経験豊富なライバルもいますが、さらなるブレイクに期待したいところです。

小島亨介(大分トリニータ → アルビレックス新潟)

各区年代の代表に選ばれてきた選手だけに、大分でも早期の台頭が期待されましたが、小島も尊敬する守護神の高木駿をはじめ競争レベルが非常に高く、なかなか出番を得られない状況が続きました。そうした中で、東京五輪世代を大量に招集したEAFF E-1のメンバーに選ばれ、さらにAFC U-23選手権ではチームキャプテンを務めました。

そうした経験を経て、アルビレックスに期限付き移籍した今シーズン。開幕戦でスタメンを任されると、安定したカバーリングや配球など、群馬戦で3−0の勝利に大きく貢献しました。再開に向けても非常に楽しみだった矢先、左脛骨(けいこつ)疲労骨折で全治3ヶ月と発表。それでも小島はクラブのツイッターで明るい表情を見せており、焦らず治して再び良いパフォーマンスを期待したいと思います。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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