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北京大学への推薦入学は「特権階級だから?」 北京五輪フィギュア女子、朱易選手だけなぜ?とSNSで怒り

中島恵ジャーナリスト
朱易選手(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

朱易選手だけがなぜ北京大学に?

今年2月に行われた北京五輪に中国の女子フィギュアスケート代表として出場した朱易(ジュ・イー)選手が、再びSNSで批判にさらされている。

きっかけは4月12日に中国体育総局が発表した優秀スポーツ選手の大学推薦者リスト、873人が公表されたことだ。この中で、中国の最難関大学、北京大学に推薦されたのが朱易選手1人だけだったからである。

リストを見ると、北京五輪や東京五輪など国際大会で活躍した選手のほか、中国国内で名が知られている選手もズラリと並ぶ。

たとえば男子の卓球選手で、世界ランク1位、東京五輪男子個人で銀メダルに輝いた樊(はん)振東選手や、同じく東京五輪に出場した女子飛び込みの張家斉選手などだ。

だが、リストを見ると、樊選手は上海の名門、上海交通大学に推薦されたものの、それ以外、張選手も含め、ほとんどの選手が北京体育大学、上海体育学院など体育系の単科大学への推薦だった。

そのため、朱選手だけ目立つ格好となり、「なぜ五輪で27位だった朱選手だけが、名門の北京大学に入れるの?」「朱選手は強いコネがある特権階級だから入れるのでは?」「これは明らかに不公平だ」といった批判がSNSに多数書き込まれたのだ。

北京五輪の際も猛バッシングの対象に

記憶にある人も多いかもしれないが、朱選手は中国唯一の女子フィギュア選手として北京五輪の代表に選ばれ、フィギュア団体戦と個人戦に出場したが、団体戦で転倒、ミスを連発した。

その際、「なぜ有望な選手が国内にいたのにもかかわらず、アメリカから急に帰化し、実績の少ないこの選手が中国の代表に選ばれたのか?」「父親のコネではないのか?」「中国チームの足を引っ張るな!」といった批判コメントがSNSに殺到、炎上する騒ぎとなった。

朱選手は個人戦でも力を発揮することができず、27位に沈み、その後、批判はようやく鳴りやんだが、今回はそのときに続いて2度目の「父親のコネ疑惑」が浮上した。

朱選手の父親、朱松純氏はコンピュータ、人工知能などの分野で知られる有名な数学者で、若い頃、中国からアメリカのハーバード大学に留学。スタンフォード大学教授、UCLA教授などを経て、2020年に中国に凱旋帰国。清華大学や北京大学教授をつとめている。

その娘である朱選手はアメリカで生まれ、2018年に中国に帰化。中国のフィギュア代表となったが、あまり実績がないのに代表に選ばれたこと、中国名ではあるが、中国語があまり話せないことなどの理由で、批判の対象となってしまった。

同じくアメリカ生まれで境遇が似ているが、金メダル確実といわれ、流暢な中国語を話す谷愛凌(グー・アイリン)選手と比較されたこともあった。

特権階級に対する市民の怒り

ここまで批判される背景にあるのは、特権階級や富裕層に対する一般市民の怒りが高まっていることにある。

現在、ロックダウンが続いている上海などでも、富裕層は値段が何倍にも高騰した野菜や果物、ケーキまで買えているのに対し、最低限の食材さえも購入できずに苦しんでいる人々が大勢いる。

中国の大学入試(高考=ガオカオ)は毎年6月に2日間(地方によっては3日間)、全国で一斉に実施されるもので、この一発勝負で合否が確定する。中国では数少ない「公平な」試験といわれているものだ。

日本でも「中国の大学入試は過酷」だと知られているが、実際には推薦で入学することも可能だ。

人数は非常に少ないが、今回のように五輪などで活躍したスポーツ選手や、数学オリンピックなどの学問分野で飛びぬけた成績を収めた人、外国語高校からの推薦枠などがある。

だが、大半の学生はこの「高考」で好成績を収め、北京大学をはじめとした中国の有名大学に入るために、睡眠時間を削って一生懸命に勉強する。

だからこそ、有名なスポーツ選手とはいえ、目立った実績がない朱選手がなぜ推薦入学できるのか?というバッシングが再燃したのだろう。

参考記事:

中国フィギュア女子、朱易選手はなぜ中国ネット民の怒りに火をつけたのか?

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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