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ニューノーマルの第一人者に聞く、適者生存の技術【豊田圭一×倉重公太朗】第1回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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今回のゲストは、3回目のご登場となる、株式会社スパイスアップ・ジャパンの代表取締役

豊田圭一さん。日本企業の社員を海外に連れていって研修させるという「濃厚接触型」の同社は、コロナの影響を受けて、どのように変わったのでしょうか? 豊田さんが2020年6、7、8月と立て続けに本を出版した経緯も伺いました。

<ポイント>

・コロナはVUCAの最大の事象の一つ

・ラテンマインドを持つにはどうすれば良いか?

・先を読むのではなくて、今起こっている変化に集中する

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■ニューノーマルの第一人者

倉重:『倉重公太朗のこれからの働き方を考えよう』の対談コーナー、最多3回目登場となるスター豊田圭一さんにお越しいただいていますので、いかにスターであるかという自己紹介をお願いします。

豊田:倉重先生とあと何人かがスターと言ってくれますが、僕の中ではフェイクスターです。英語で、Fake it till you make itという言葉があります。「事を成すまではそのふりをしろ」「ふりをしていたらいずれできるようになる」という意味で、僕は自分のことをずっとフェイクスターと言っていました。もしかしたら徐々にふりではなくなってくるかもしれません。自分で言うことではありませんが。

倉重:「うそも100回つけば本当になる」と誰かが言っていました。

豊田:最近びっくりしたのですが、あるセミナーの紹介文の中に、「ニューノーマルの第一人者」と書かれていました。Fake it till you make itのひとつの事例みたいなもんじゃないかなっと、、、それが今回出版した『ニューノーマル時代の適者生存』です。

倉重:(笑)一応、何者かというご説明をいただけますか。

豊田:25歳で独立してから、留学のコンサルティング会社を17年ぐらいした上で、現在は法人企業向けの海外研修をメインにした人材育成の会社をしています。それ以外に日本を含めて8カ国に会社があって、いろいろな事業をしています。今年はコロナの影響があり、インドで6年間していた語学学校は廃業するしかありませんでした。今は人材育成を中心にしています。

倉重:豊田さんのメイン事業は、日本企業の海外赴任者のマインドセットの研修を現地で行ものですから、コロナの影響を一番受けた業種だと思います。赴任そのものがなくなるわけですから。もう「根本からやり方を変えていかなければ」という感じですか。

豊田:本当にそう思っています。今年は1月からずっと研修の仕事で海外にいました。その途中でコロナが追い掛けるような形で迫ってきて、3月22日に帰国したときには、世界中でドーンと感染が広がっている最中でした。日本に帰ってきてから、「これはいろいろ発信していかなきゃいけない」と思って筆を取ったのです。

倉重:「まだ日本はのんきだな」という感じでしたか。

豊田:のんきでした。それ自体は別にいいと思うのです。目の前に危機が訪れない限り、のんびりしているのは世界中で当たり前のことですから。オーストラリアにいたときも、みんながビーチで騒いでいました。カナダの人たちにとってもまだ対岸の火事で、ビーチに人がたくさんいました。目の前に危機が迫るまではそういう状況だったのです。でも、各都市でロックダウンが始まると、世界中で「これはやばいぞ」という緊迫感が高まりました。そんな中で日本に帰ってきたので、「あれ、意外と日本はのどかだな」と思ったのです。

倉重:そこで「飲みにに行こう」と誘われたわけですね。

豊田:「あれ?」と思いながら、女の子たちと飲みに行ったら、周囲の人から「何をやっているんだ」と言われました。

倉重:また美女をはべらせていたのですか。。。

豊田:仲間からは「そういうことをするな」と本当に怒られたのです。「海外から帰ってきたあなたがコロナの感染者かもしれない」と言われました。

倉重:確かに、その当時は「海外から来た人が危ない」という認識でしたね。

豊田:そうなのです。自粛に入ると同時に多くの方が「早く戻ってほしいですね、収束してほしいですね」と言っていましたが、いろいろな国を見て回ってきた立場からすると、「これは意外と長くかかるから、思考が止まっていたらまずいぞ」と思っていたのです。

倉重:そうですよね。「誰かなんとかしてくれ」ではいけません。

豊田:そうです。もちろん自分の仕事も大変だけれども、「これはみんなに発信しよう」と思ってセミナーなどで話していました。その後、「もう本を書いてしまおう」と思って一気に書き上げたのです。

倉重:動きが早かったですよね。今回、『ニューノーマル時代の適者生存』という本を書かれて、さらに『アフターコロナを生き抜く33の仕事術』という本を立て続けに2冊出されました。

豊田:『ニューノーマル時代の適者生存』は新刊で出しましたが、『会社がつぶれても生き残る! アフターコロナ33の仕事術』は、10年前に出した『いま会社がなくなってもすぐ次が見つかる人になる33の方法』という本が改題・再編して出版されたのです。この本を書いた11年前はリーマンショック後で、経済危機が訪れて就職が厳しくなっていました。そういう状況でも求められる人材でいるためにはどうすればいいかということを書いた本です。今回、「コロナショックにおいて生き残るためにはどうすればいいか」という疑問に答えるため、中身を少し再編してリバイバルしています。

■ラテンマインドを持つにはどうすれば良いのか

豊田:実は今度はラテンマインドの本も出る予定なのです。

倉重:また新刊が出るのですか。

豊田:こちらは、元々5年前に出て絶版になった『毎日がつまらないのは、どうしようもないことにくよくよしないラテンマインドが足りないからだ』という迷著、いや、名著が復刊という形で電子書籍が復活することになりました。おそらくみなさんストレスを感じているので、自己肯定感を高めることが求められているのでしょう。

倉重:不死鳥のようですね。

豊田:タイトルは『そのままでいいという考え方〜ラテン的マインドフルネス』になります。

倉重:ラテン的マインドフルネスですか。

豊田:これは、マインドフルネス業界は怒りますね(笑)。恐らく、「お前はマインドフルネスの専門家でもなければ、ラテン的マインドフルネスというものもないぞ」というお叱りがありそうです(笑)。

倉重:こんな形で復活するなんて、その本を書いたときには全く思わないですよね。それ自体がVUCAな時代を象徴しているようです。

豊田:本当にそうです。最初は「いつだって時代は変化しているし、何を今さらVUCAだ」と思っていたんだけれども、やはり今回のコロナはVUCAの最大の事象の一つでしょう。

倉重:価値観まで含めて変わることはなかなかないですよね。ちなみにVUCAについても改めてご説明いただけますか。

豊田:Volatility(不安定性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という、変化が激しくて、不確かで、複雑で、して曖昧な世界のことを指します。結局コロナのことを、半年前には誰も予測できませんでした。中国で始まったときも、「何か怖いのが来たね」「中国は大変らしいね」という感じだったのです。その時は中国と日本にしかコロナの患者がいなかったので、私が研修でスリランカに行ったとき、地元のバスに乗ったらおじいちゃんが口に手を当てて嫌そうな顔をしていました。

倉重:当時はそういう認識ですね。

豊田:その時はトランプ大統領も、「おいおい、日本は大丈夫か」「中国は大丈夫か」という感じでした。そして、アメリカでは「完全なるコントロール下にあるのでコロナは起こらない」と言われていたんです。その後ドカーンときましたよね。

倉重:第二次大戦より死者が多く出るとは思わないですよね。

豊田:そのころロンドン市長候補が、「東京オリンピックは大丈夫か? 施設があるから、うちでやったらどうだ」と言っていました。その後にロンドンでドカーンと感染が拡大しました。トランプ大統領やロンドンの市長候補がばかだと言いたいわけではありません。彼らの周りには優秀なブレーンがたくさんいるけれども、やはり予測不可能なのです。

倉重:もう予測不可能なことが起こるのは当たり前ということですよね。

豊田:本当にそうだと思います。今回の本だけではなくて、前から「想定外を想定内にしよう」と言っています。想定外が起こることを想定しておくと、いちいちビクビクしないですみます。「あー、また新しいのが来たね」と言っていればいいだけの話ですから。

倉重:その辺が、お書きになっているしなやかな強さだと思います。大震災のときもそうですが、やはりFacebookやTwitterやタイムラインなどを見ていると、「いつ終わるんだ」、「早く収束してくれ」と言って焦ったり、「政治家がきちんとしてくれよ」と怒ったりしている人もいます。自分の奥にあるものがすごくストレートに出てしまっているのです。この不確実な状況自体が嫌だと思う方は結構多いと感じますが、しかし、ウイルスが突然消えてなくなる訳ではありません。そういう時に悲観しすぎないようなラテンマインドを持つにはどうしたらいいのですか。

豊田:もういきなりラテンマインドの話ですか。

倉重:要約したら結局ラテンマインドかなと思いまして。

豊田:大前提として僕は自分のことをすごいと思っていません。自分なんて別に大したことないと思っているので、「部長だからこうあるべき」「もう〇歳なんだからしっかりしなきゃ」「会社をやっているからこうだ」ということは考えていません。僕は基本的に自分のことは、人間というただの動物だと思っています。

ただ、人間がここまで発展したのは、やはり他の動物にはない二つがあったからだと思います。欲望と、それをかなえるための知能です。だけど、「私の天職は何だろう」「天命は何だろう」などいろいろなことを考え過ぎてしまうと、うまくいかないときに「本来私はこうあるべきなのに、こんな状況に追いやられてしまっている」などと思ってしまいます。

倉重:「こうあるべき」というのが強い人が多いですね。

豊田:「だって人間だもの」「だって動物だもの」というように、しなやかに考えればいいのではないかと思います。

倉重:予測ができないという話が冒頭にありました。「5年後、10年後にこうあるべきだ」と考えたとしても、会社が存続しているかどうかも分かりませんよね。

豊田:何も分かりませんし、私たちは1人で生きているわけではありません。何かあったら僕はすぐに公太朗に助けてもらう気満々です。

倉重:(笑)助けてもらう気満々ですか。

豊田:その代わり、公太朗に何かあったら助ける気満々です。そう考えると、「何でも自分でやらなきゃ」「自分はこうあるべき」「こういう失敗したら恥ずかしい」ということなど、全然ありません。失敗したらコンコンってどこかの会社の扉を叩いて、「お願いします」と頭を下げます。

倉重:そういう意味では、先を読むことはそもそも必要ありませんか?

豊田:それに関連してすごく面白いなと思ったのが、今回の本にも少し書きましたが、僕が2年前に卒業したスペインの大学院の話です。「ポジティブ・リーダーシップ&ストラテジー」というプログラムの名前が変わりました。それまでは、ポジティブなリーダーシップでみんなをまとめ、会社としてゴールを達成するための戦略を生かすというプログラムでしたが、今年『ポジティブ・リーダーシップ&トランスフォーメーション』に名称変更したのです。

倉重:「戦略」から「変革」に変わったのですね。

豊田:それを行ったのが新しいアカデミックディレクターで、元マッキンゼーの教育のトップ。グローバル・チーフ・ラーニング・オフィサーであり、リーダーシップの大家です。人材開発業界の世界のトップのような人がIEにやってきて、プログラムの名前を変えました。なぜなら、もはや「ストラテジー」は意味を成さないからです。ストラテジーを立てるためには、「こうなる」というゴールが必要です。これからの時代は、ゴールが見えません。

倉重:先のことは見えない前提で、どのように今に対応して変えていくかという話ですね。

豊田:どう適応して、どう組織と個人を変革させるかを考えます。ポジティブリーダーは「よし、みんなでこうしよう」という空気をつくると同時に戦略を考えていました。ですが「戦略はもう古い。どんどんトランスフォームしていくんだ」ということで、名称が変わったのです。

倉重:先を読むのではなくて、今起こっている変化に集中するという感じでしょうね。

豊田:そうです。

倉重:そういう意味では、今回の本にも書いてありましたが、「今はフルタイムで出社しているので元通りです」という会社であっても、基本的な価値観が大きくパラダイムシフトしているという捉え方ですか。

豊田:完全にそうだと思います。もちろん自分の仕事的には「売り上げが立たないので元に戻ってもらいたい」という気持ちはあるけれども、簡単には戻らないだろうと考えています。ワクチンが出れば、多少は移動できるようになります。しかし、リモートワークやリモートカンファレンスが世界中でスタンダードになりつつありますから、やはり元には戻りませんよね。

倉重:私自身も、事務所に週1日行くか行かないかという働き方になりました。もう元には戻れません。

豊田:いい意味で元に戻らないこともあると思います。やはりパラダイムシフトで価値観が変わっているのです。

(つづく)

対談協力:豊田圭一(とよだ けいいち)

1969年埼玉県生まれ。幼少時の5年間をアルゼンチンで過ごす。92年、上智大学経済学部を卒業後、清水建設に入社。海外事業部での約3年間の勤務を経て、留学コンサルティング事業で起業。約17年間、留学コンサルタントとして留学・海外インターンシップ事業に従事する他、SNS開発事業や国際通信事業でも起業。2011年にスパイスアップ・ジャパンを立ち上げ、主にアジア新興国で日系企業向けのグローバル人材育成(海外研修)を行なっている。その他、グループ会社を通じて、7ヶ国(インド、シンガポール、ベトナム、カンボジア、スリランカ、タイ、スペイン)でも様々な事業を運営。18年、スペインの大学院 IEで世界最先端と呼ばれる “リーダーシップ” のエグゼクティブ修士号を取得した。最新作「人生を変える単純なスキル」、「ニューノーマル時代の適者生存」、「会社がつぶれても生き残る!アフターコロナ33の仕事術」など著作多数。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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