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懲りずにやっている債券先物の見せ玉

久保田博幸金融アナリスト
(写真:西村尚己/アフロ)

 日本国債の先物取引で相場操縦をしたとして、証券取引等監視委員会が25日、野村証券に2176万円の課徴金納付を命じるよう金融庁に勧告した。実際に取引を成立させる意思がないのに大量に売買注文を出す「見せ玉」と呼ばれる手口で不正に価格を操り、148万円の利益を得ていた(25日付日本経済新聞)。

 この記事を見て思ったのが、また懲りずにやっているのかというものであった。

 私が債券ディーラー時代(かなり昔)は、このような見せ玉は日常茶飯事となっていた。特にリミットを掛けていないか、規模の大きな取引の出来る大手は、大口の売り買いを入れたり消したりすることで、誘導できると信じていたようである。

 実際には慣れてしまうと、またか、となっていただけだったのだが。しかし、いまはこういった見せ玉は違反行為であり、課徴金納付を命じられて当然となる。

 記事には自己勘定を取引の対象にする野村証券のトレーダーが2021年3月9日の取引時間中に大阪取引所の長期国債の先物取引で相場操縦を行っていたとあった。

 1987年の野村のチーフディーラーによる「公定歩合が高すぎる発言」による国債急落を受けて、野村證券は自己売買を撤退していたはずである。日銀の異次元緩和や長期金利コントロールによって円債の値動きが限られ、高速高頻度取引も加わって、自己売買のディーラーはほぼ衰退したと思っていた。

 しかしこの「見せ玉」が行われていたあたりから、円債が動きを見せ始めていたこともたしかであった。

「野村證券株式会社による長期国債先物に係る相場操縦に対する課徴金納付命令の勧告について」

https://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2024/2024/20240925-1.html

 これによると、見せ玉が行われたのは、令和3年3月9日午前8時45分49秒頃から同日午後2時16分59秒頃までの間。

 当時、市場は±0.25%の長期金利コントロールの幅拡大があるのかないのか。かなり神経質な展開となっていた。8日の雨宮副総裁(当時)の講演を受けて、あらためて長期金利のレンジ拡大の可能性が意識されて、9日の債券先物が乱高下した。

 これに乗じて野村證券のディーラーが、売り板を厚く見せて、売りポジションを形成し、売りが一巡したところをみはからって買い板を厚くみせて買い戻したようである。

 もしかするとこのディーラーは相場が大きく動きはじめたことで、それに乗じて「見せ玉」をくり返していた可能性もありそうである。

 最初にも指摘したが「見せ玉」は「見せ玉」でしかなく、ある程度の相場経験者であれば、それが「見せ玉」であることはわかる。結果として課徴金2176万円を支払うこととなるようだが、何をしているんだかという印象でしかない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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