1台のトラックが「セブン」「ファミマ」「ローソン」へ 共同配送の試みは何がすごいのか
8月1日より、セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソンの3社が参加する「共同配送」の実験がスタートした。通常、配送トラックは自チェーンの店舗のみを回って商品を納入するが、この実験では1台のトラックで3チェーンの店舗に配送を行う。一見わかりにくい、この実験のすごさについて解説してみたい。
◆世界に誇るコンビニの物流システム
共同配送の拠点となっているのは、東京都江東区南砂にある佐川急便の倉庫である。各チェーン・各店舗別に仕分けされた商品が台車に乗せられ、配送トラックに順次積まれていく。
実験の対象となるのは、江東区を中心とするエリアにある各チェーンの店舗計40店。実験期間は8月1日から7日まで。配送されるのは、飲料、菓子、加工食品、雑貨の常温カテゴリーに位置する商品だ。セブン、ファミマ、ローソンはそれぞれ千葉県市川市に物流センターを有しており、まず、そこから商品を先述の佐川の物流倉庫へ移送。そこから同じトラックで、各チェーンの店舗に商品を運ぶ取り組みとなる。
車両を減らす共同配送は、もともと東京オリンピック期間中の混雑緩和の観点から必要とされていた。そこへ昨今のドライバー不足やCO2排出量の削減といった社会課題の解決も目的に加わり、今回の実証実験は実現した。経済産業省が音頭をとったとはいえ、シノギを削ってきた3社が、呉越同舟で実験に参加する姿は感慨深いものがある。倉庫は佐川急便だが、配送運用を担うのは日本通運。これも国を挙げた実験ならではの協力体制といえるだろう。
日本のコンビニの物流システムは、世界最高峰の頻度・精度を誇る小売物流網と言われている。各チェーンや店舗によって異なるものの、発注の締め切りから各店舗へ納品される時間は、最短4時間、最長でも16時間以内という早さ。今回の実験でも、このスケジュールは順守されるというから驚きだ。とはいえ、共同配送の場合は、通常にはない共同配送センターへ荷物を「集約」する時間が発生する。よって、スケジュールはよりタイトになり、平時の納品時間が維持されるかが課題になる。費用負担や分担のシミュレーションも検証項目となるだろう。
ちなみにコンビニ物流は、99.9%は誤配無く納品されると言われる。店舗によっては、接客に人手を割くため、納入された商品をいちいち検品しないケースもあるほどだ。いかにコンビニの物流システムが優れているかが分かるが、裏を返せばそれが当たり前の状態でコンビニ業界は維持されている。そこへさらなる効率化を求める共同実験が、いかにすごい挑戦かお分かり頂けるだろうか。
◆課題は店舗の負担
ただし課題もある。店舗への負担だ。新規開店や閉店を受けた配送ルート修正に対応するため、各チェーンとも年に一度程度のペースで、配送(納品)時間の変更が行われている。が、コンビニ本部と加盟店オーナーとの間で行われるこの調整は、なかなか難しい。というのも、店舗としてみれば、商品が納品される時間に合わせ、商品を棚に並べるアルバイトや従業員の数を確保しておかなければならない。納品後の空いたダンボールの片付けにだって人手は必要だ。配送時間が変わってしまうと、それに合わせて従業員のシフトも組み直す必要がある。
私もこの調整作業の仕事に4年ほど携わっていた。大抵は、全体の効率の件をお話しすると、納得して頂いていた。が、一部ご理解頂けず「現状の納品時間を維持してほしい」という店舗があると、かなりいびつな配送ルートになってしまう事もあった。今回、改めて各チェーンの複数のオーナーに確認したところ、昔も今も事情は同じようだ。
単一チェーンですらこの状態なのだ。共同配送で3つのチェーンが参加するとなると、調整はかなり難しくなることが想定される。だから共同配送システムを運用するためには、納品時間に合わせて店舗を巡回する「品出し人員」を確保するなど、店舗に負担がかからない施策が必要だと思う。
今回は首都圏での実証実験だったが、地方の過疎地や遠隔地への共同配送には可能性を感じる。店舗がまばらなこうしたエリアは配送距離が長くなりがちで、トラックの積載効率も悪くなる。必然的に物流コストが高くなるが、次のステップではこうしたエリアでの実証実験を期待したい。
今回の実証実験は2億円規模の予算で運営されている。国の主導が無ければ3社共同での実現は不可能だっただろう。共同したからこそ分かる事もあり、大きな一歩が踏み出されたのは間違いない。コンビニ各社の高効率な配送網を更に進化させる国主導のシステム構築や、次に繋がる実験の成果の発表を期待したい。