石橋凌『SHOUT of SOUL』同行ライブレポート 〜熱きソウルの共鳴〜
石橋凌『SHOUT of SOUL』同行ライブレポート 〜熱きソウルの共鳴〜
日本を代表するシンガー、石橋凌。2011年末にリリースした初のソロアルバム『表現者』に続き、3月27日、キャリア初のDVD & Blu-ray映像作品『SHOUT of SOUL』をリリースした。
80〜90年代を駆け抜けた伝説のバンドA.R.Bを2006年に脱退した彼が、新たなる共犯者(バンドメンバー:Dr池畑潤二、Ba渡辺圭一、G藤井一彦、Key伊東ミキオ)とともにゼロから作りはじめた音楽表現。ソウルメイト、仲井戸麗市との共演を含め、楽屋風景や独白インタビューなど、見所満載の音楽ドキュメンタリーとして、現在進行形のクオリティの高い映像美を楽しめる作品だ。
なぜ石橋凌は歌い続けるのか? その答えが『SHOUT of SOUL』に存在する。そこで、作品の魅力をナビゲートする目的で、本映像作品を収録したツアーである東京公演と大阪公演を密着同行したレポートを公開したいと思う。
石橋凌『SHOUT of SOUL』トレーラー映像(5分30秒)
●東京編 day:2013/12/16(sun)
赤坂駅、朝11時00分、息を吐けば白くなる冬のはじまり。期待に胸を膨らませながら、メンバーの到着を待つ楽屋前。石橋凌、待望のソロライブ『SHOUT of SOUL』は、東京と大阪で2公演開催された。
思い返せば2011年12月7日、初のソロ・アルバム『表現者』をリリースし、明けて1月には東京キネマ倶楽部にて復活ライブを成功させた石橋凌。その後も、俳優業を両立しながら「一つでも多くのステージで歌い続けていく!」と宣言し、仙台でのロックフェス『ARABAKI ROCK FEST.12』への出演や博多での『one night project』など、多くのイベント出演、ライブ活動を重ねてきた。そんな、石橋凌の音楽表現における集大成といえるステージが『SHOUT of SOUL』だ。
チケットがソールドアウトとなった赤坂BLITZでの東京公演では、ソロ・アルバム『表現者』からの楽曲はもちろん、A.R.B時代のナンバーや、スペシャルなカバー曲などが3時間に渡ってプレイされた。今回のステージでは、池畑潤二(Drums)、渡辺圭一(Bass)、藤井一彦(Guitar)、伊東ミキオ(Keyboards)、梅津和時(Sax)&ホーン隊3名(多田葉子、渡辺隆雄、松本治)というバンドメンバーが集結。さらに、スペシャル・ゲストとして仲井戸麗市が参加。石橋凌曰く「ソウルメイトとの魂の競演」が実現したのだ。
日本屈指のロックンロールを奏でてきたレジェンダリーなメンバーが集結した石橋凌バンドの“いま”。しかし、懐古主義な表現ではなく、2012年を感じさせるバンドアレンジ、Twitterなどソーシャルメディアを効果的に活用したデジタルをアナログ的に活用する活動など、常に新しいことにチャレンジする姿勢が感じられたのが印象深かった。会場では、Twitterを通じて知り合ったファン同士の邂逅など、音楽を通じての新たな出会いに花が咲いていた。
今回、東京と大阪での模様が映像化されることに伴い、カメラマン渡邉俊夫氏が密着同行された。「80年代までは、カメラマンとして松田優作さんをずっと追っかけていたんですけど、亡くなってからは優作さんの魂を受け継がれた凌さんをずっと撮らせてもらってます。あんな熱い表情をする人はいないよ」と語られていた。渡邊氏は、これまで石橋凌が誰にも見せなかったライブ直前の楽屋の風景を今回のツアーでは撮影している。
ライブでは、1曲目から代表曲「魂こがして」が歌われるなど、まさに最初からクライマックスを迎えたかのような迫力に圧倒された。昨年の東京キネマ倶楽部でのオープニングでは、自らを俳優の道へと導いてくれた松田優作との誓いを予感させる、映画『ア・ホーマンス』での衣装を着られていたが、今回は真っ白いコートに白いハットという、ここから新たな一歩がはじまる心意気を感じさせるステージングだった。なお、今回の衣装はメンバー全員BLACK SIGNというブランドのもの。渡辺圭一のTwitter発言によれば1920〜1930年代のアメリカ禁酒法時代をイメージしたらしい。
そしてバンドメンバーを呼び入れ繰り出される、ジャジーかつメロウな大人風味にアレンジされた「乾いた花」。さらにロックンロール・チューン「HIP,SHAKE,HIP」、敬愛するビートルズ「A HARD DAYS NIGHT」が石橋流に折り込まれた「HEAVY DAYS」が奏でられた。俳優の時の石橋凌も魅力的だが、シャウトしてるときの貫禄たるや、やはり素直にカッコ良いなと痛感させられる。
石橋凌は、バンド時代の曲をライブ演目に加えているが、自身の作詞・作曲作品に限定している。それは、自身の表現をより突き詰めていきたいという想いがあるのだろう。昨今、音楽市場が大人向けになりつつあることから、バンドの懐かしのリユニオン(再結成)が流行しつつある。しかし、あくまでも自らの表現を現在進行形でチャレンジし続けたいというアーティストとしての願いの強さが、懐古主義ではないステージから熱く伝わってくるのだ。
今回のツアーでは、豊かな音空間を生み出すために、こだわりの音を聴かせる数々の工夫が試みられていた。それは、バンドメンバーと1年の交流をかけて磨きあげた阿吽の呼吸を感じさせるスタイルであり、ロックやジャズ、ファンク、ブルース、スカがおり混ざった、ソロならではの自由度の高いライヴ・パフォーマンスが印象的だった。
繊細な表現で届けられる人と人が交わる舞台を描いた「待合室にて」、まさかの選曲に会場も驚きを隠せないバンド時代の人気ナンバー「JUST a 16」、イントロの静寂を奏でる美しくも哀しいピアノがたまらない「淋しい街から」、そして格差問題をペシミスティックになりすぎずに問いかけてくる熱きナンバー「最果て」へと続いていく。
そして中盤の目玉は「俺のソウルメイト、俺のソウルブラザー!」の紹介とともに、スペシャル・ゲスト仲井戸麗市の登場だ。もともとはRCサクセションとA.R.Bという、80年代を代表するロックバンドとしてライバルにも近い関係性だったこともあり、当時はロックバンドらしく、口もきいたことも無いような間柄だったが、一昨年、福岡での石橋凌主催のイベント『風音』で共演してから交流が深まり、その後お互いのステージにゲストとして呼び合う仲となっての今日という晴れの日。
「Mustang Sally」で登場した仲井戸麗市は、絶妙な間を切り刻むギター・カッティングがたまらないロックンロール・ナンバー「MOJO WORKING」、RC時代の人気チューン「いい事ばかりはありゃしない」では、RCにギタリストとして大きな影響を受けていたという藤井一彦、「最終電車で赤坂に着いた…」のフレーズがたまらなかった伊東ミキオと共にボーカルをとり、今回のツアーの主題歌のようでもあるソウルメイトへ向けたアップリフトな楽曲「Dear My Soulmate」を熱演した。
MCでは、ファンからの声に答え、復興祈願で訪れた東日本大震災の被災地である宮城県亘理郡山元町について「今年の7月に訪れて、唄を歌わせてもらいました。しかし、まだ3日前に電気がつながったばかりという現状に驚かされました。地元の方は、震災が時間の経過とともに風化して忘れられるのが怖いと話されていましたが、その通りだと感じました。今日は、地元のボランティアの方々がチャリティーでTシャツとミサンガを持ってきてくれています。」とリアルな現状を語られていた。
そして歌われたのが、アルバム『表現者』で最初に完成したリードチューン「我がプレッジ」だった。自らに誓いを立て、鼓舞し、前に進む男の気持ちを歌いあげた魂の楽曲は、被災地の石橋凌ファンはもちろん、毎日を一生懸命に生きるファンへの応援歌として、多くのオーディエンスに必ずや勇気と希望を与えたことだろう。一音一音、魂が込められたサウンドが伝わってくる優しさのなかに厳しさも合わせ持つ石橋凌の音楽表現。そのまっすぐにポジティヴなエネルギーは、2013年への、積極的な音楽活動を期待させるに充分な夜だった。仲井戸麗市の言葉「今、日本のロックシンガーに石橋凌は絶対に必要だと思わねーかい?!」がライブの感動とともにリフレインする。
●大阪編 day:2013/12/18(tue)
東京駅の新幹線ホームで集合となった大阪行き。大阪でのリハーサルは、ソロでは初めての関西公演ということもあって、東京より緊張感があったように感じた。しかし、じっくり時間をかけて音づくりに向き合った結果が、ライブ本番の熱狂を確かなものにする。石橋凌バンドは、リハーサルでも決して手を抜かない。真剣勝負な意気込みが表情から伝わってくるのだ。
大阪公演は、客電が落ちた瞬間から東京公演を越える声援の大きさに驚かされた。前半は、じっくり歌を聴いてほしいという石橋凌の気持ちがあり、椅子に座って楽しめる選曲となっているのだが、スローなナンバーにもビートが聞こえてくるのか、立ち上がりたいファンの気持ちが後方から観ているとひしひしと伝わってきた。
そんな“心のシートベルト”が外される瞬間が「形見のフォト」。サイン入りエッグシェーカーがメンバーより会場中に投げこまれ、受けとったファンはドラムの池畑“先生” に習ってリズムを刻むことに。メンバー皆、楽器を持ち替えてスタンディングでセッションが始まる中盤では、オーディエンスも椅子を飛び越え前方に集まるなど衝動を抑えきれなくなってきたようだ。そこに、新作アルバムから感情をアップリフトするキラーチューン「Tokyo Shuffle」が繰り出され、熱狂が広がっていくソールドアウトな心斎橋BIGCAT!!!
さらに、今回のツアーでは、アコースティック・ナンバーだった「抵抗の詩」がアップテンポなスカアレンジをされ会場の熱量を高めていたり、ライブではお馴染みの扇状ナンバー「Daddy’s shoes」では、ステージに最前列にいた子供を招き入れた。後からわかった話だが、南相馬からお父さんとお揃いのシューズで観に来てくれたとのこと。縁を感じた瞬間である。続いては、まさかのバンド時代の人気チューン「Do it! Boy」、そして「時代的に必要なければ捨てたい曲」と語り、30年以上前から解決する兆しのみえない自殺問題に触れたメッセージと共に「喝!」が熱狂の渦とともにプレイされたことは忘れられないワンシーンだ。
アンコールでは、ソロ・アルバムの中でも評価の高い「縁のブルース」が奏でられた。藤井一彦のギターソロで、男性に支えられながら涙を拭う女性は、まさにブルースに身を委ねていたようだった。そして原爆について歌われた「ピカドンの詩」、クリスマスシーズンならではの「white christmas」、とどめとして熱く疾走感溢れる「R&R AIR MAIL」によって石橋凌のシャウトがぶちかまされた。さらに、アンコールは止まず「SOUL TO SOUL」、カバーソング「STAND BY ME」、「Rout66」へと会場をさらなる熱狂の次元へと盛り上げていく。
鳴り止むことを知らないオーディエンスからの3度目のアンコールに応え、歌われたのはアルバム『表現者』のなかで唯一東日本震災後にレコーディングされ、一部歌詞も変えられた「AFTER’45」。第二次大戦後の世代を歌ったナンバーでは、この未曾有の震災からも時間はかかっても必ず復興できるという「大丈夫だよ」というメッセージが込められている。そして1979年に発表された「パブでの出来事」によって3時間の宴は終わりを告げた……。
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