Yahoo!ニュース

北陸に巨大三セク地帯が誕生へ 並行在来線が「ハピラインふくい」になる理由は?

小林拓矢フリーライター
JR西日本の521系。三セク化後も使用される予定だ(写真:イメージマート)

 整備新幹線の開業が近づき、並行在来線が第三セクター化されることになると、どのような会社名になるのか、たびたび気になる。

 最初に三セク化された信越本線は、「しなの鉄道」というありそうな名前になったが、その後「IGRいわて銀河鉄道」「青い森鉄道」「肥薩おれんじ鉄道」「道南いさりび鉄道」とユニークな名前のものが増えていった。2015年の北陸新幹線開業の際には、「えちごトキめき鉄道」「あいの風とやま鉄道」「IRいしかわ鉄道」と旧来の鉄道会社からは考えにくいような名前も登場した。

 そして2024年春に北陸新幹線の敦賀延伸開業により、福井県の並行在来線を運営する新会社が「ハピラインふくい」と名乗ることになった。「鉄道」という言葉が使用されず、「ライン」にそれらしさを感じる程度である。

https://twitter.com/fukui_heizai/status/1508356770556952576

なぜ「ハピラインふくい」?

 福井県並行在来線準備株式会社の発表によると、「ハピネス」(しあわせ)は福井県の「福」を表し、県民に親しまれている言葉とのこと。また、「ひと」と「まち」を、鉄道が「線」(line)になって「つなぐ」ことで、「しあわせ」な福井の未来を示していきたいという姿勢を表しているとのことだ。

 16,709件の応募の中から、外部有識者が最終候補5案を選考し、取締役会で「ハピラインふくい」を内定した。採用者は福井県福井市在住の60代男性。7月ころに会社名を改名するという。

 福井県はさまざまな幸福度でランキング1位となっており、幸せな県としてアピールしている。

 いっぽう、県内には福井鉄道やえちぜん鉄道もあり、それらの名前との重複も避けなければならないという問題もある。

 3月29日付の『福井新聞』によると、福井県並行在来線準備株式会社の会長の杉本達治知事は、社名に現れていた福井らしさを評価していた。また小川俊昭社長は、既存の価値観にとらわれないことをアピールできると考えているとのことだ。

 確かに、鉄道会社なのに「鉄道」とつかないのは珍しい(千葉県の山万のような例もあるが)。しかし、「幸せ」を重視する福井県で、それをアピールする社名が登場するのは、ふしぎではない。

 これにより、ユニークな名前の第三セクター鉄道が多く北陸地方にあるということになる。

北陸・信越に巨大三セク地帯誕生

 北陸地方では、もともとは北陸本線という日本海縦貫線の一部をなす路線にさまざまな列車が行きかっていた。大阪方面への特急、名古屋方面への特急、長距離貨物列車、そしてローカル列車である。以前は新潟方面、さらには青森まで行く列車もあった。

 北陸新幹線の開業により、新潟県・富山県・石川県ではローカル輸送と貨物輸送が中心になった。「えちごトキめき鉄道」「あいの風とやま鉄道」「IRいしかわ鉄道」が旅客列車を走らせる。貨物はJR貨物による。

 2024年春の北陸新幹線敦賀開業により、大聖寺を境に石川県側は現在の北陸本線が「IRいしかわ鉄道」、福井県側が「ハピラインふくい」となる。以前からのもあわせると、4県にまたがる並行在来線区間が、それぞれの県の第三セクター事業者が運営する鉄道となり、巨大な三セク地帯が誕生する。もと信越本線の、長野県の「しなの鉄道」もあわせると5県となる

 並行在来線の第三セクターがこれほどまでに大規模に存在する、ということは例を見ないことではないか。

北信越地域は第三セクターが地域の鉄道事業を主に担うことになる
北信越地域は第三セクターが地域の鉄道事業を主に担うことになる提供:イメージマート

 もちろん、いいことばかりではない。運賃は上がるだろう。定期券も高くなる。ただ、JR西日本はこれまで並行在来線のために同一規格の車両を作ったり、すでにICOCAも導入していたりと、事前の整備はすでに行われている。

 もちろん、同じJRとしての一体感は失われるものの、地域にあわせた鉄道事業の運営が可能になる。

 北陸本線はこれまで、「特急街道」と言われていた。特急列車が多く走り、その間を縫うように普通列車が走っていた。「あいの風とやま鉄道」「IRいしかわ鉄道」ができる前の北陸本線はそうだった。第三セクターになって地域内の普通列車を増やすことができた。新しく第三セクターになる区間も、長距離輸送は新幹線にまかせ、地域内輸送を第三セクターが担うという関係となってほしい。そうすることにより、地元の人たちが車での移動から鉄道での移動にシフトし、利便性が向上した地域鉄道の利用者が増え、第三セクター鉄道が地域内の公共交通の主役となるようになってほしい。

 巨大三セク地帯は、公共交通が充実した地域となり、特に福井県の場合は、人々の幸せと結びつくことを願うばかりである。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

小林拓矢の最近の記事