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沖縄の現実をメディアは伝えているのかーー映画「高江 森が泣いている2」を観て

篠田博之月刊『創』編集長
沖縄高江現場の機動隊。映画「高江 森が泣いている」より

忙しくて試写会に行けなかったドキュメンタリー映画「高江 森が泣いている2」が、ポレポレ東中野で12月28日まで上映と聞いて観に行った。ほぼ満席で、トークショーがあるので来ていた藤本幸久監督にも挨拶した。館内には、月刊『創』12月号に掲載した藤本監督のロングインタビューが大きなスペースをとって掲示されていた。

上映は近々いったん終わるが、1月に前作「高江 森が泣いている」と併せて再上映するそうなので、多くの人に観てほしい。特にメディア関係者にはぜひ観てほしいと思う。というのも、報道とかメディアのありようについて、この映画は実に多くのことを考えさせてくれるからだ。

「鳥の目、虫の目」という言葉がある。「鳥の目」とは物事を俯瞰して見ることで、「虫の目」とは、現場の細部に分け入って見ることだ。映画の舞台となっている沖縄北部高江のヘリパッド建設工事と反対運動については、我々はマスメディアを通じてある程度は見ている。しかし、それは通信社が空撮した写真に象徴されるような「鳥の目」で見た光景にすぎない。空撮写真は確かに全体を見るにはよい写真なのだが、テレビや新聞でそれを見ていて、その工事現場や反対派との攻防はどうなっているのかなかなか具体的なイメージがわかなかった。しかし、今回の映画を観ると、それがよくわかる。製作した「森の映画社」のスタッフたちは、抗議する住民と一緒に現場に入り、カメラを回しているからだ。映画に映し出される映像は、これまでテレビでは決して見ることのできなかった現場の映像だ。

ここで私は象徴的な意味でその話を書いているのだが、映画の後のトークショーで、藤本監督は、現場に入るかどうか自分たちも悩んだ、という話をした。後述するが、実はその建設現場の森に入るには、肉体的にも苛酷だし、最悪、逮捕も覚悟しなければならないからだ。そして藤本さんはこうも付け加えた。「本当はマスコミも森に入ってくれると我々も入りやすかったのですがね」。

周知のように、沖縄の辺野古や高江の現場を連日取材し報道しているメディアとしては、沖縄の地元紙、琉球新報と沖縄タイムスが有名だ。この2紙は特別な体制を組んで、この秋、毎日、現場を訪れていた。何か大きな動きがある時にしか取材報道を行わない中央メディアに比べて、その2紙はまさに体を張って取材を行っている。しかし、その2紙でさえ、ヘリパッド建設現場にまでは入らなかった。入れば最悪逮捕される事態も予想されたからだろう。

そして実際に現場の森に入ったのは、そうしたマスメディアと異なるインディペンデントのメディアだけだった。というより、継続的・組織的にそれを敢行したのは、藤本さんと共同監督の影山あさ子さんが運営している森の映画社だけ、といってよいかもしれない。

その現場取材した素材をまとめたのが今回の映画「高江 森が泣いている2」だ。前作も高江の反対派住民らの動きを克明に撮ったものだったが、建設現場の森に入っての今回の映像は圧巻だ。小型カメラやスマホを使っての映像は、時には撮影者の手や指が映っていたり、機動隊や工事業者と住民がもみ合いになるシーンでは大きくぶれる。しかし、それを含めて臨場感あふれる、まさにドキュメンタリー映画だ。奥深い森の現場で、しかも何度ももみ合いになりながら撮影されたシーンの連続で、私の隣で観ていた人は「画面が動くので酔ってしまった」と言っていたが、さすがプロというか、そうした苛酷な撮影条件の割には、カメラワークが実にしっかりしている。

そういう映像を、逮捕覚悟で肉体を酷使しながら撮っていくというような撮影は、もうテレビなどのマスメディアには期待できなくなってしまった。戦場や原発事故の現場では、安全優先で、住民より先に避難してしまうのが大手メディアの現実だ。もちろん「虫の目」だけが全てというつもりはない。しかし、歴史的な現場を伝えるというのはどういうことなのか、そういうことをもっとメディアに関わる者は考えたほうがよいと思う。

そういう思いから、ぜひこの映画を多くの人に観てほしいと思うし、その考えるべき材料として、ここで『創』12月号に掲載した藤本監督のインタビューのエッセンスを紹介したいと思う。映画館内に貼ってあったという『創』の記事の一部である。インタビューを行ったのは10月だ。

大手マスコミが伝えない現実

藤本 通常、ドキュメンタリー映画というのは、撮影して編集をし、完成してから公開するまでに短くても3カ月かかると言われていますが、そんなペースでは、公開する頃には高江で起きていることは終わっているかもしれない。それではいけないので、とにかく早くしなければということで、撮影から1カ月で映画を完成させて公開しました。

沖縄の現実がどうなっているかについては、中央のマスコミがほとんど伝えないので、とにかく一人でも多くの市民に見てもらうために、映画完成と同時に、自主上映も始めました。ともかく早急に伝えるということを第一にした上映の仕方をしています。

いま住民の抗議行動がどうなっているかというと、工事を止めるには米軍への提供区域、刑事特別法の網がかかっている、入れば逮捕されますよという区域に入らないといけないということで、9月下旬から森の中に入るようになったんですね。20人から30人が毎日森に入って、実際に伐採している現場まで、遠いところは1~2時間歩いて行って、座り込んだりチェーンソーの前に立って止めてくださいと訴えたり、斜面の上の木を切れば、下に大木が落ちてきますから、その一番下のところに2時間でも3時間でも座りこんで動かない。そのようにして工事に反対する闘いをやっています。

住民たちの、ある意味逮捕されることもありうると覚悟した抗議行動が行われているわけで、立入禁止とされた場所の中でのその闘いを可視化しなくてはならない。同時に、やんばるの森が今どうなろうとしているのかも多くの人に知ってもらわなければならない。そのために私たちもカメラを持って森に入っています。

――実際、どんなふうにしてそこへ入っているのですか?

藤本 沖縄はいたるところに米軍基地がありますが、大体はフェンスがあって、鉄条網で覆われ、「中に入ると日本の法律で処罰されます」と書いてあります。それが米軍提供区域、基地の中ということですね。

本来北部訓練場も米軍に提供された区域で、そこに入ると刑事特別法で処罰され、逮捕され裁判にかけられるのですが、ここは特異な場所で、森なんです。要するにフェンスに囲まれていないんですね。つまり誰でも入ろうと思えば入れる状態です。

刑事特別法では、米軍が管理している場所は、警察権がMP(米軍の軍警)にあるとされています。でも北部訓練場はフェンスがないし、MPも常駐していない。警察権を事実上行使できないような状態にあるんですね。その状態で政府の方も今すぐ刑事特別法を適用するのは難しいということで、入る人たちも恐らく適用できないだろうということで入っているわけです。

ただ、毎日そういう抗議行動が続く中で、日本政府とアメリカ政府が協議をして、本来米軍側しか持っていない警察権、つまり逮捕する権限を日本の警察にも特別に与えるという合意を10月にしたんです。フェンスが無いことから刑事特別法の適用は難しいので、座り込んだりして工事を妨害しているということで威力業務妨害で逮捕する。その権限を日本の警察に与えるということになったと、沖縄の新聞が報道しています。

抗議する側の人物を次々と逮捕

藤本 実際には、警察はいろいろな形で警察権を行使して抗議行動を潰そうとしているのですね。例えば10月17日の月曜日に、抗議行動の責任者の山城博治さんがゲート前で逮捕されました。

どうも博治さんを逮捕するのは前から準備されていたようで、17日に逮捕されて、19日に10日間の勾留延長になったのですが、器物損壊の勾留は1日で解けたんです。だから保釈されるかと思いきや、別の容疑で再逮捕ということになりました。それに基づいて、家宅捜索が2カ所で行われ、もう一人逮捕されて名護署に入れられました。これは県外からの参加者だという情報です。

さらに、森の奥深くの工事現場にまで行く人たち、「高江ウッズ」と呼んでいますが、その中の一人が森の中で防衛局の職員を押して倒してケガをさせたということで逮捕されました。これも東京の人で、那覇空港で逮捕されたのですが、勾留を二度延長されています。

両方の事件とも、被害者が防衛局の職員で、被害届を出してそれに基づいて暴行傷害で逮捕ということで全く同じなんですね。だから、いま高江の運動の中心を担う人たちを逮捕して運動を潰していこうということが計画的に行われていると考えられます。逮捕された本人は、暴行などやっていないと否認しているのですが、こういう弾圧がどこまで広がるか予測がつかない状況です。

安倍政権はいったい何をやろうとしているのか

藤本 高江だけ見ているとわかりにくいのですが、辺野古と高江は基地の機能も連動していますが、抗議行動を行っているメンバーもほとんど重なるんですね。だからそういう中で辺野古と高江の抵抗運動の中心部分を一気に潰していくという動きに見えるんです。

なぜそうするかというと、まだこれで新基地建設は終わりでなくて、宮古島のミサイル基地、石垣島のミサイル基地、与那国のレーダーから奄美の基地、辺野古も当初は米軍と自衛隊の共用ですが最終的には自衛隊基地になると言われています。そういう一連の南西諸島、沖縄、奄美、宮古、八重山の中国包囲網の最前線基地化をやるという意思がそこにあるんだろうと思われます。

だからいま高江で起こっていることは、南西諸島全体の中国包囲網の最前線基地化と合わせて、日本は中国包囲網の弱い環にならない、強化していくんだと、これは安倍首相がアメリカの保守系シンクタンクで講演したと言われる内容ですが、そういう背景があるのだと思います。

森の中で起きていることをどう伝えるのか

藤本 抗議する人たちは30人くらいずつが3つぐらいのチームに分かれて行動しています。森の中の工事現場だと、業者と防衛局の職員だけだと抑える力はないので、抗議する人たちが現れると工事をいったんストップするんです。そしてすぐに防衛局が機動隊を呼んで、機動隊が100人単位でやってきます。そうなると、多勢に無勢だし、直接ぶつかると排除されるので、抗議行動をしている人たちは山の中に逃げ込む。機動隊は山の中までは追ってこないので、歩いていって今度は別の場所で抗議行動を行う。説得や座り込みを繰り返すというようなことをやっているのです。

――その抗議側と機動隊がぶつかりあっている現場で、森の映画社はどういう体制で撮影を行っているのですか?

藤本 いまは森の中で起きている出来事を中心に撮影しています。ただ、森の映画社として、業務命令で、カメラマンに提供区域に入れという指示はしていません。入りたいと思う人、入りたくないと思う人がいるので、入りたい人は入ってもいい。僕や共同監督の影山あさ子さんは、入るのは別に問題ないと思っています。というよりも、中に入ってそれを知らせるのがドキュメンタリストのやるべき仕事だと思っています。

そのほか、ゴープロというマリンスポーツに使う小型カメラ、1時間位は映るものを、森に入るようになってから2人につけてもらっています。だから森の奥の伐採現場で、やんばるの森がどのように破壊されているのか、それに住民たちがどう抵抗しているかは、かなり詳細に記録されています。それをもとに編集して映画を作っています。

――小型カメラは、辺野古を撮った映画でカヌーに乗った人たちが使ったものですね。

藤本 ゴープロという、もともとアメリカでサーフィンをやる人が額につけて、自分の視線で海の様子や波を映すというものです。辺野古でのカヌーのときは頭につけたのですが、高江の森では胸につけてもらって、現場に行って業者や防衛局の職員、機動隊と対面したときに撮影してもらっています。それを1カ月あまり、複数の人につけてもらって、毎日記録を続けています。

そのほか、スマホでも映像を撮っている人がいます。森の中は、カメラを持っていくのが大変なんです。朝7時には森に入って、夕方6時くらいまで、一日中起伏の多いところを上ったり下ったり、沢を歩いて機動隊のいない斜面から登って現場に行ったり、そんなことを繰り返しているので、重いものを持っていくのはしんどいのです。

抗議で入った人が撮影した映像も提供していただいています。そういうものを使って、とにかく外からは見えない森の中の出来事、それを目に見える作品にしようとやっています。

――抗議行動にも東京から人が駆けつけているようですが、全員が森に入るわけではないですよね。どのメンバーがどういう行動をするかはどうやって決めているのでしょうか。

藤本 自分が何をするかは、その人の意思に任されています。森に入る人もいますが、それほど多くない。森に入る人はやはり逮捕される可能性があるという覚悟がいりますから。

そのほか多くの人は、毎朝、N1と言われるゲート前に砂利をダンプで何十台も運んでくるのですが、それを止めたり遅らせたりという行動をやっています。それに参加するのが基本ですが、自分が座り込んで何かあったら嫌だなという場合は、道路の反対側で何が起きているか見ている。それぞれどう行動するかは個人の判断です。

N1ゲートから博治さんが逮捕された砂利置き場に行って、砂利の移動を止めるような行動もしていますから、それに参加することもできます。ただし、これも米軍基地の中、提供区域ですから、森の奥深くに行くよりも少ないとはいえ、博治さんのように逮捕される可能性もあります。ゲートから10分も歩けば行けるような砂利が置いてある場所に、どこからでも入れるようにたくさん道が作ってあるんですよ。博治さんはそれを伝っていこうとしたところを逮捕されました。

ただ砂利置き場は、100人とかそういう単位で動きますから、全員が逮捕されることはまずないのではないかと今の段階では認識されています。

地元2紙を始めマスコミの取り組みは

――新聞やテレビなどマスコミはどこまで入っているのですか?

藤本 マスコミは提供区域には入りません。入っているのは、インディペンデントの人たちだけですね。インターネット中継をやる人たちや、僕たちのようにインディペンデントの映画制作者、フリーで写真を撮る人たちです。

地元紙の琉球新報と沖縄タイムスは、毎日現場へ来て取材はしていますが、森の中に入らないようにしているようです。ゲートの入り口の、抗議する人たちが行動しているその場で取材しています。森に行った人たちが夕方テントに戻ってきますから、そこで話を聞いています。

その取材の結果が大きく報道されたのは、抗議の人たちが斜面の下に座り込んでいたら、トラックで荷物を固定するのに使う黄色と黒のロープで、その人たちをぐるぐる巻きに縛って、斜面の上から引っ張って引きずり上げるというのをやったんですね。そのときに一人左足を骨折したし、縛られた20歳くらいの若い女性が、報道陣に背中を見せていました。ぐるぐる巻きにされてロープで縛られた跡が体中にありました。その縛られているところとかの写真を提供してもらって、琉球新報、沖縄タイムスは、1面で大きく伝えていました。だから彼らは、森の中には入らないけれど、中の様子も報道しています。

ただ本当に、森の中に入るのは大変です。彼らの言い方で言うとゲリラ戦ですが、一日中森の中を歩いたり走ったりするのでものすごく体力がいる。機動隊がいなければ工事現場に出て、来たら引っ込む、そして別のところにまた出る。そういう行動を1日中繰り返しています。

――地元のメディアも琉球新報と沖縄タイムス以外は、例えばテレビ局も高江の現場にあまり来ていないのですか。

藤本 そうですね。僕は2004年から辺野古を中心にずっと沖縄を撮影しているのですが、以前は沖縄のテレビも毎日のように現場に来ていました。それが辺野古の新しい工事が始まった2014年7月以後は何かあるときにしか見かけなくなりました。メディアの会社としての考え方が変わったのでしょうね。      

インタビューは以上だ。沖縄の2紙が辺野古や高江の取材にどう取り組んでいるかについても、『創』は何度か取り上げている。

その一方で、中央メディアでは、沖縄の現場取材をしてもなかなか番組に反映できないといったことが言われるようになりつつある。テレビ局を中心にした政権に対する萎縮の空気は、報道現場にいま、大きく影を落としつつあると言われる。

なお、藤本さんも語っているように、森の映画社では、とにかく多くの人に沖縄の現実を見てほしいと、劇場公開にあわせて自主上映にも積極的だ。そうした情報については、森の映画社のホームページから入手できる。

http://america-banzai.blogspot.jp/

[追補」この記事をアップしてから、高江で抗議行動を行っていたという方から2~3指摘をいただいた。参考までに書いておこう。ひとつは藤本さんの説明では山城さんの逮捕の後に「高江ウッズ」メンバーの逮捕があったように読めるが順序は逆だとのことだった。よく読むと藤本さんの説明も逮捕の順に言ってないようにも読めるが、念のため指摘を紹介しておこう。もうひとつは、インタビューに住民という表現が出て来るが、抗議を行っていた市民と現地の住民とでは考え方に温度差があり、森に入ることについては必ずしも住民は賛成でなかったという指摘だ。これはすごく重要な問題を指摘しているのだが、ここで仔細に論じるのは無理があるので、指摘があったことだけ書いておくことにしよう。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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