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英国ビジネス・点描 (3)国民の新たな敵?=大手ガス・電気会社

小林恭子ジャーナリスト

2008年のリーマンショックと世界的金融危機で、英国民が嫌う業界といえば真っ先に名前が挙がるのは銀行界だった。他人のお金を使って懐を温めるとんでもない奴として、銀行家は「太った猫」とも呼ばれた。

生活費の高騰に悩む国民にとって、新たな「敵」となったのが大手ガス・電気会社だ。光熱費はガスや電気の卸売価格とともに上下するはずだが、卸売価格の上昇率よりも光熱費の伸びがはるかに大きいのだ。

料金比較ウェブサイト「uSwitch.com」の調べによると、2004年から今年10月中旬までに光熱費は年間平均522ポンド(約8万4000円、今年11月20日時点で計算)から1353ポンド(約21万8000円)へと3倍近くに上昇した。「卸売価格以外の要素も光熱費の決定を左右している」と会社側は説明するが、かえって国民に不透明感を抱かせた。

光熱費問題はエド・ミリバンド野党労働党党首が9月末に開催された党大会で、「2015年の総選挙で労働党政権が成立したら、その後20ヶ月、光熱費を凍結させる」と宣言したことで、再燃した。

英国の電気・ガス市場は1990年代に自由化しており、「政治家が凍結を強制することはできない」と指摘される中、ガス、電気会社大手4社が最近になって平均10%の光熱費値上げを発表し、「便乗値上げ」と言われても仕方ない状況だ。

キャメロン首相も光熱費の高騰を問題視するようになったことを受けて、10月29日、エネルギー企業6社の代表が下院委員会に召還され、高騰の背景を問いただされた。各社は「卸売り価格の急騰が原因」と説明したが、国民の理解を得るには程遠かった。

実は、政府の調査によれば、欧州連合の他国と比較すると英国の光熱費はそれほど高くはない。調査に参加した15カ国の中で英国の家庭の電気料金は2番目に低く、ガス料金は4番目に低かった。それでも、「安いとは実感できない」というのが国民の本音で、ガス・電気会社はしばらく非難の的になりそうだ。

(週刊「エコノミスト」の「ワールドウオッチ」の筆者担当分に補足しました。)

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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