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惜敗? 惨敗? "謎の"ブラジル戦 韓国では意外なほめ言葉「カウンターの日本がより高いポゼッション」

(写真:つのだよしお/アフロ)

あの日以降の東京の天気のようにすっきりしない。

沸いていいものか。

はたまた渋い結果だったのか。

日本が0-1で敗れた6日のブラジル戦のことだ。

試合の終盤まで「事故を起こせそう」な状況までは作れた。その点は確かだ。18本のシュートを浴びながら77分までは0-0の状況を作ることに成功した。

その結果――。

"終盤まで結論が分からないスリルを楽しめたのか"

はたまた

"「枠内シュート0」で終わった虚しさを感じるのか"

Yahoo! ニュース「みんなの意見」で実施中の「日本代表監督支持率調査」にも多様な意見が寄せられている。

「バカなマスコミは惜敗と言う。完全な敗北。全力を出してないブラジルにもて遊ばれてた」

「王国相手に1-0ですから、上出来ではないのでしょうか? 代表監督は戦術やシステム云々よりも結果が全てですから。特にタレント揃いのブラジルのFW連中のシュート20本に対する守備陣の動きは大変良かったと思います」

「善戦? 完敗です。開始早々ゴールされそうになったが入らず助かった。あれが入っていたら5、6点取られていたでしょう」

「韓国は得点ゲットで日本防戦一方。残念無念」

「ワールドカップでの格上の相手の戦い抜く戦い方は合っている。韓国みたいに1-5だと得失点差でグループリーグ敗退はある」

写真:ロイター/アフロ

ブラジル側「日本のほうがテクニカルで守備が整っている」

確かに先に1-5で大敗した韓国との比較という見方はある。日韓比較をやってきた筆者自身は、試合中は「ブラジル相手に韓国よりもはるかにやれている」という高揚感があったが、試合が終わって「枠内シュート0」というデータを目にして"ドン引き"してしまった。

そこに加えて、2日の韓国―ブラジル戦の韓国での反応はわかりやすいものだっただけに妙なひっかかりがある。おおよそこういったところだ。

「5ゴール取られて負けたけど、世界の凄さを知れて楽しかった」

「韓国のゴールも見られたし」

日本、どっちでもなかったなと。

6日の日本―ブラジル戦後の会見では、ブラジル代表チッチ監督ともに登壇したセザール・サンパイオコーチが日韓の比較を口にしている。記者団から質問内容に韓国の話はなく、コーチ自ら今回のアジアツアーを総括したのだ。

「韓国も日本も似通ったモデルのゲームをやってきた。韓国のほうが日本よりも運動量が多く、フィジカルを使う。日本のほうがテクニカルな印象。そして最終ラインが4(DFライン)+1(中央のMF1人)、4+2の固い守備を敷いてきた。日本の守備はとても整っていると感じた」

写真:つのだよしお/アフロ

確かに日本は「守った」。試合前日、森保監督は会見でこう話していた。

「良い守備からいい攻撃に移る。相手のハイプレッシャーをかいくぐって速攻に繋げられるか、我々のボール保持に繋げられるか」

「当日の状況になってみないとどういう試合内容になるかは分からない」としながらも、実際のピッチでは「守備から速攻」が実践された。試合後「勝ち点を取る」という言葉を口にしていたから、W杯の本番を相当強く意識した戦いだった点は明らかだ。

いっぽうの韓国はパウロ・ベント監督が志向する「ポゼッション」を実践して、1ゴールの代償として5ゴールを奪われた。

これを韓国メディアがどうみているのか。

"ガチガチ守備"も「韓国より優れていた点」

日本ーブラジル戦後の評論が意外と"面白かった"。従来の「韓国記者が見た日本サッカー」ははっきり言ってつまらないものが多かったのだが。日本のネット情報の丸写し。時に「日本メディアが言っていることを韓国側が報じ、それを"韓国メディアの目"として日本で報じる」といった笑えない事態も起きていた。

しかし6日の試合は韓国でもサブスクサービス「Coupang Player」でライブ中継されたこともあってか、しっかりと試合を見ての記者評が読めた。彼らの目に映った内容が記されている。

「『死の国日本』 ”ガチガチ守備”実験成功? ブラジルに1失点」(エクスポーツ)

日本にとってのブラジル戦はW杯本番をかなり意識した戦いだった、としてこう綴っている。

大韓民国との試合で5得点をあげたブラジルが日本相手に若干苦戦した理由は何か。

いくつかの理由がありうるが、韓国と日本ではワールドカップ本選で追求しなければならない方向性が違うからだ。

韓国はポルトガル、ウルグアイ、ガーナと同じ組に入った。簡単な相手と見ることはできないが、十分に競争しうる相手だ。パウロ・ベント監督は就任後からW杯アジア最終予選までビルドアップの戦術を強調している。W杯本選でもこのベースを維持する予定であるゆえ世界最強のブラジルを相手に点検する必要があったのだ。

ビルドアップサッカーにこだわり攻撃にも比重を置いた韓国と、「(MFとDFの)2ライン守備」で臨んだ日本とでは戦術の違いがある。

日本のスポーツ媒体「中日スポーツ」によると日本の守備の核である吉田麻也は「守備ブロックを組んだ後にカウンターを狙った」と話した。

問題はこの「2ライン守備後カウンター」の戦略を採った日本がビルドアップに集中した韓国より高いポゼッションを記録した点だ。

スポーツメディアESPNによると日本はブラジルを相手に48%のボールポゼッションを見せた。

韓国の(2日のブラジル戦での)ポゼッションは41%だった。

韓国は特に前半30分まで韓国はビルドアップを行う過程において、低い位置で最低7度はボールを奪われた。

「日本のほうが韓国より、ブラジル相手にやれている」という風にも見えたが、じつは「枠内シュート0」で「攻めきれていない」。この背景を説明する内容だった。カウンター志向だったのに、ポゼッション率が日本のほうが高かったのだ。

ただし、「エクスポーツ」のこの記事では「得た結果は半々」とした。善戦はしたものの負けではW杯本大会では意味がない、と。

写真:YUTAKA/アフロスポーツ

「状況認知力」日本の中盤がボールを奪われなかった理由

国内最大の通信社「聯合ニュース」は日本のある点を高く評価しつつ、「カウンター志向の日本の高ポゼッション率」の背景を説明した。

ブラジルを苦戦させた日本の戦術「2ライン守備+ビルドアップ」

日本はブラジルの前線からの強力なプレスにもボールを失わなかった。プレスに押され、ゴールラインまで押される姿もほとんど見せなかった。

吉田を含め遠藤航などビルトアップの作業を任された選手たちはブラジルのプレスの速度に慣れたかのような攻撃を展開した。

ボールを受ける前に味方のポジションを確認し、プレスに出てくるブラジルアタッカー陣の動きを逆利用するなど、高い状況認知力を見せた。

パスを受けてもボールを失わなかった。

ワンタッチ、ツータッチのパスを続け、南野拓実、伊東純也などに安定したボールを供給した。

写真:YUTAKA/アフロスポーツ

この話には前段がある。韓国は4-1-4-1のアンカーに入ったチョン・ウヨンが「危険な位置で数回ボールを奪われた」というものだ。特に8分と25分、DFラインからのボールを受けターンする際にブラジルのプレスをかわせず。「韓国の陣地深くでボールを奪ったブラジルに簡単に攻撃を許した」としたのだ。

ただしこの媒体もまた日本の「得点力不足」を指摘したのだが。両媒体ともに「いい点をめちゃくちゃほめた」が「課題(ゴール決定力)は相変わらず」という評価だった。

6日のブラジル戦後、日本のTwitterタイムラインでは「枠内シュート0」がトレンド入りした。試合後、現場で森保一監督の会見を聞く限り、その「解決策」はこの下りにあった。

「ボールを保持しながら相手のブロックに入っていけるように攻撃力を上げないといけない。我々がボールを持っているとき、相手は守備でプレッシャーをかけてくるが、相手の圧力よりも早く良いポジションを取って、ボールをつなげるところを上げていかないといけない」

カウンターの状況になった時、「走りすぎてゴール前で疲れるのではなく、ボールをできるだけ高いところでもつなぎ、いい体勢でシュートを打てるようにする」といったところか。

W杯本番までに修正可能なポイントだろうか。

どう思われます? 

(了)

ブラジル戦での「森保監督支持率調査」実施中。16日まで投票・投稿を受け付けています。

筆者作成
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吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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