残り15秒からの逆転勝利でトヨタ自動車が掴んだ確かな手応え
【残り15秒からの逆転劇を演じたトヨタ自動車】
勝利を確定させるため、クボタのゲラート・ファンデンヒーファー選手が狙ったペナルティゴールが失敗に終わると、トヨタ自動車がマイボールの資格を得た。
前日に同じ花園ラグビー場で、神戸製鋼がNTTドコモ相手に後半ロスタイムで逆転勝ちしていたばかりだったが、この日はすでに時計は後半の79分45秒を回り、クボタとの得点差も6。まさにトヨタ自動車は、絶体絶命の状態に追い込まれていた。
起死回生を目指し、トヨタ自動車がプレーを再開するのと同時に、後半40分の終了を告げるホーンが会場内に響き渡る。もう反則はできないし、キックも使えない。プレーが限られる中で、グラウンド上の15人はクボタのディフェンスに耐えながら、懸命にボールを繋ぎ続けた。
約90秒間の小康状態が続いた後、右に展開したトヨタ自動車は、ボールを受けたロブ・トンプソン選手がランで突破を図ると、クボタのラインが乱れ始めた。それを見逃さなかったチャーリー・ローレンス選手が一気に抜け出すと、2人のディフェンスを引きつけたところで、ノーマークになった高橋汰地選手にパスを出した。
ボールをもらった高橋選手は快足を飛ばしゴールラインまで走り切り、逆転に望みを繋ぐトライを奪った。この時点で、時計は81分38秒を指していた。約2分間で奇跡を起こしたトヨタ自動車が集中攻撃だった。
そしてライオネル・クロニエ選手がゴールを沈めた瞬間、トヨタ自動車の逆転劇が完成。選手たちはまるで優勝を決めたかのように歓喜に沸いた。
その反対にクボタにとっては受け入れがたい敗北となった。トヨタ自動車の選手が勝利に沸く側で、ヒザをついて落胆するクボタの選手たちが印象的だった。
【カンファレンス2位の座を懸けた大事な1戦】
この日は、レッドカンファレンス2位の座を懸けた1敗同士の対戦だった。その結果がプレーオフトーナメントの行方を大きく左右することになるため、両チームとも絶対に負けられない1戦だった。
カンファレンス2位に入れば、カンファレンス1位通過のサントリーとは別のブロックに入るだけでなく、ホワイトカンファレンス1位のパナソニックとも準決勝まで対戦せずに済むためだ。
そんな試合を劇的逆転勝利で飾ったトヨタ自動車のサイモン・クロン・ヘッドコーチ(HC)は、以下のように選手たちを称えた。
「試合が始まる前に選手たちに伝えたのですが、84分、85分、最後まで試合を戦いきること。成長を重ねて我慢を続けること。その点を繰り返し伝えていたので、それが勝利というかたちで実ったと思います」
キャプテンの茂野海人選手もクロンHCの言葉に賛同しながら、以下のように話している。
「最後のところでしっかり我慢して1人1人が責任を持って自分の役割をやり切ったことが勝利に繋がったと思います」
2人の言葉通り、選手たちが最後まで勝利を諦めずに集中力を切らさずに戦ったことで、貴重な1勝をもぎ取ることに成功したのだ。
【苦しみながらも成長に繋げたリーグ戦7試合】
前節の三菱重工戦では、実力差があるチーム相手に後半攻めあぐねるなどし、クロンHCから「平均で満足してしまっている選手がいる」という厳しい言葉が飛び出していた。
茂野選手によれば、「チームとしてプレッシャーを与えられた状況で、それを乗り越えた時に自分たちは成長できると話し合ってきました」という中で、クボタ戦に臨んでいたという。
改めてクロンHCはリーグ戦7試合を、以下のように振り返ってくれた。
「(リーグ戦の)7試合はチームとして成長できるいい機会だったと思っています。自分たちのプロセスを確立し、また自信をつけることもできたと思います。
また確固たるチームカルチャーを築き上げることに重点を置いてきました。このチームには素晴らしいリーダーと選手が揃っています、その中でチームとしての団結力を築き上げてこられたと思います。
その集大成が、今日84分まで戦いきったというかたちに表れていると思います」
クロンHCが説明するように、リーグ戦は決して順風満帆ではなかったが、苦難を迎えそれを乗り越える度に、チームとして成長を続けていった。その集大成ともいえるのが、クボタ戦の勝利だったというわけだ。
準備を整えたトヨタ自動車は、4月25日にプレーオフトーナメント初戦に臨み、日野対清水建設の勝者と対戦する。果たしてトヨタ自動車は、どこまでトーナメントを勝ち上がっていくことになるのだろうか。