オンライン上のコミュニケーションが急増。コロナ禍でより注目される「ブランディング」の世界。
新型コロナウイルス感染症拡大により働き方、消費者のライフスタイル・価値観、メディアへの関心など、人々の行動は大きく変化した。その影響で企業やサービス、商品までブランドを再構築、再定義をして時代にあった魅せ方を科学する「リブランディング」をせざるを得ないケースも少なくない。
日常生活だけではなく、ビジネスの世界でも「ブランド指定」という言葉が出てくるように時代の変化とともに「品質・当たり前・いつもの」という価値観が高まったことで「ブランディングの世界」が注目されている。
そこで実際にコロナ禍で多数のブランディング業務に関わっているプロフェッショナルに話を聞いてみた。
コロナ禍で消費者のオンラインによる購買意欲が高まる
コロナ禍でビジネス市場は大きく変化しているが、クリエイティブやブランディングの世界はどのような変化があったのか。写真・映像の制作を主体とするCreative Company「株式会社bird and insect」にて代表を務めるshuntaroさんに話を伺った。
――コロナ禍でクリエイティブやブランディングの世界で変わったことは。
コロナ禍ではD2C(Direct to Consumerの略で、自ら企画、生産した商品を広告代理店や小売店を挟まずに消費者とダイレクトに取引する販売方法)を始めとしたオンラインでの購買が増えました。それに伴い企業側はオンラインでのコミュニケーションをしっかりと行い、且つ、そこで独自性を出す必要性が出てきました。
そんな背景からD2Cブランドの新規立ち上げやこれまでリアルに流通していた商品をオンラインで販売するサービスサイトの立ち上げが増えています。D2Cでは当然のことながらオンラインでのコミュニケーションが主軸になりますので、サイトやSNSで画像や動画をどう扱ってコミュニケートしていくかが重要になるため、今後益々ビジュアルディレクション、サイト制作、SNSマーケティングは注目され、それらを統合するブランディングが求められていくかと思います。
コロナ禍で急増するD2Cブランドに欠かせないブランディングの実例
テレビCMからオンライン広告、そしてYouTube・Instagram広告へ
――商品ブランディングは未だにCMが強いのでは。
確かにまだまだテレビCMは広告・ブランディング施策としては強いです。ただ、コロナ禍だけでなく、テレビ離れをした若者世代をターゲットにこれまでテレビCMを中心にブランディングしていた企業がオンラインでの広告に力を入れ始めています。
さらにこれからはYouTubeやInstagram広告などは確実に伸びると感じており、今後益々重要性が高まってくると考えられます。実際、都市部・若者であれば、マス広告よりもオンライン広告を目にする機会の方が圧倒的に多いこともあり、その方向性がさらにコロナ禍で加速した形です。
――新時代に向けてクリエイティブやブランディングの世界はどうなっていくのか。
新型コロナウイルスの影響が落ち着くことがあれば、オフラインでの様々な取り組みや活動が活発になることは、誰しもが予想されていることかと思います。とはいえ、一度知ってしまったオンラインの味は忘れられないと思いますので、今後はオンラインとオフライン、両方の軸をどうバランシングしていくかが求められていく。そもそも、そのような方向性に向かっていたとは思うのですが、その到達がコロナ禍で加速されたということですね。
採用ブランディングに加えてコーポレートブランディングのニーズ高まる
「人と組織の可能性を極大化するサービス」を提供するコンサルティングファームであり、特に新卒採用領域において強みを持っている株式会社Legaseedにてクリエイティブ領域の責任者をしている高山誠一郎さんは、コロナ禍で企業が採用に対しての意識だけでなくクリエイティブ領域のオーダーにも変化があると言う。
――コロナ禍で企業からのオーダーに変化があるのはどうして。
コロナ禍以前は肌感覚として企業が採用ツールとしてご相談頂くのはオフライン(紙媒体)、オンライン(web)の比率が4:6ぐらいでしたが、今は2:8の割合でオンライン領域のご相談が増えていると思います。これはコロナ禍で都市圏、地方問わずオンラインで自社をどう伝えるかを重視する傾向が加速した表れだと思います。
また、映像を制作したいというご相談も多くなっていて、活字でいくら説明しても頭にインプットできる量には限りがある点と、YouTubeやInstagramなど簡単に映像を配信できるメディアが一般化したからだと考えています。
一方採用ブランディングに限らずコーポレートブランディングのご相談も受けるケースが急増しています。例えば採用HPだけ整えても、コーポレートサイトが一昔前のデザインだったりするとオンライン上で企業イメージはバラつきます。その点で採用HPのリニューアルと同時にコーポレートサイトも変えたいというご相談が多くなってきています。
オフラインとオンラインのハイブリッド
――新時代に向けてブランディング領域はどのように変化していきますか。
個人や企業がよりオリジナルで本質的な個性や価値を伝えないと、注目されず差別化もはかりにくい時代になったことで、ブランディングというキーワードが一般化しました。それまでは、広告やマーケティング業界でしか使われていなかった言葉ですが、今はあらゆる「ブランディング」が存在し、どのようなブランディングでも対象物の「個性」「価値」を磨き上げ最大化することが最も大切になって来ています。
今後は基本的にオンライン(web・映像・SNS)を軸としたクリエイティブとブランディングの需要は増えていくと思います。すでにアートの世界でもVRを活用して実際にその場にいるようなバーチャル空間を作り絵画を販売したりなど、実店舗が必要だった業界でもオンライン化が進んでいますし、これからも多くの業態で広がっていくと思います。
一方(比率はオンラインが上まわると思いますが)、オフラインへの反動も確実にあると思います。デジタル技術を生かした施策、実体験やオフライン媒体による施策。予算や効果に応じてどちらも選択できる時代になると思います。さらに変化として大きいのは、クリエイターの役割だと思っていて、如何に企業やサービスの魅力をターゲットに発信するかを、具体案やアイデアを提示できるのは当たり前になっていて、その意味でクリエイターが作ることにこだわれた時代は終わり、今後はコンサルティング能力も求められているのではないでしょうか。
クリエイターの世界にもAIが変化をもたらす
――コロナ禍でクリエイターとして感じる変化は。
時代の変化で企業からのニーズが変わったことでクリエイターに求められるスキルにも変化を感じます。媒体の多様化とともに、技術的なことはこれからも進化し続け近い将来AIがデザインする時代がくるでしょう。アメリカでは数年前からそんな動きがあります。
語弊を恐れずに言うと、作るだけのクリエイターは一部を除き近い未来、仕事がなくなると思います。そういう状況になっても、いかに「仕事を作っていくか」が今後のテーマになると思います。
自分にしかできないやり方に加えて、クリエイター目線を持った経営や採用コンサルティングが今後必要になってくると感じています。
時代の変化や流れに敏感にアップデートさせる
ブランディングの手法というのは、まだまだ開発できる余地はあって大手企業だけでなく中小企業でも使えるような形まで落とし込まれていないのが現状。つまり、まだクリエイター個人の力に頼っている時代ということ。
今後、ブランディングを標榜する人々や会社は篩にかけられていく段階にあり、それを経て、より実力があったり、手法を確立した会社が残っていくことで、真の意味で中小企業におけるブランディングの始まりがやってくるのではないかと思います。
どんな仕事でも共有して、時代の変化や流れに恐れずに新しい価値に敏感になり、自分自身をアップデートさせていくことが大事なのかもしれません。
はたらくを楽しもう。
【取材協力】
shuntaro (bird and insect ltd.)
1985年、東京生まれ。京都工芸繊維大学で建築・テサインを学び、広告系制作会社を経てフリーランスへ。2013年、University for the Creative Artsで写真の修士号を取得。その後、bird and insectを立ち上げ、代表取締役を務める。2017年には、日本のファッション写真史の研究で博士号も取得した。
高山誠一郎(株式会社Legaseed)
1980年大阪府生まれ。広告会社で大手企業の広告、WEB、映像等のデザイン、アートディレクションに関わる。その後ブランディング会社に転職しブランディングディレクター(東京オフィス統括)として、これまで大手から中小企業まで約200社の広告ディレクション・ブランド構築に関わる。2021年1月株式会社Legaseedに入社。人と組織を活性化させるコンサルティング×クリエイティブで、企業の「見せ方・伝え方」構築や、クリエイティブ視点で企業課題の解決に関わる。
【10月28日開催】今回取材をしたshuntaroさん、高山さんが登壇します。