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高まる日本経済リスク、円安トレンドへの転換は不可避か?

岩崎博充経済ジャーナリスト

シャープ、パナソニックの巨額赤字に見る時代の移り変わり

日本経済全体のリスクが徐々に、そして確実に高まっている。2013年3月期の最終赤字が過去最大の4500億円になると発表した「シャープ」の格付けは、大手格付け会社フィッチ・レーティングスが「BBBマイナス」から、投機的に当たる「Bマイナス」にまで一気に6段階も引き下げられた。

シャープの社債の保険の機能を果たす「CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)」は、いまや4001.30ペーシスポイント(bp、12年11月9日、J-CDS)まで上昇。200bpを超えると危険信号といわれる中で、同社はいまや銀行融資のおかげで延命できている状況といっていい。

その銀行支援も、みずほコーポレイト銀行と三菱東京UFJ銀行が9月末に合計3600億円の融資を決定したが、この2行が投機的格付けの銀行にこれだけの融資をするのは、株主の利益を守るという面で問題ないのか。米国のように政府が裏で債務保証をしているのかどうか、といった報道もまったくなく、いまや日本の銀行は政府の言うことをそのまま受け入れる政府機関の一部に組み入れられているかのようだ。

パナソニック・ショックは、もっと深刻かもしれない。12年3月期に7721億円の経常赤字をだしたのに続いて、13年3月期も7650億円の赤字を計上する業績見通しを発表した。スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、同社の格付けを「Aマイナス」から「BBB」まで格下げし、CDSも366.48bp(同)に上昇している。

31年ぶりに経常収支(季節調整済み)が赤字に

一方、日本経済全体にも暗雲が立ち込めつつある。内閣府が12日に発表した2012年7-9月期の実質国内総生産は前期比マイナス0.9%、年率換算で3.5%の大幅悪化となった。エコカー需要の先取りによる影響、中国の反日デモの影響などが指摘されているが、欧州債務問題などで世界経済全体が景気後退に入っている中で、日本もその影響を受けていると見ていいだろう。

さらに、深刻なのは8日に財務省が発表した4~9月の国際収支状況(速報)では、貿易収支は2兆6191億円の赤字。債券利子などの所得収支の黒字が7兆5024億円あるために、経常収支は2兆7214億円の黒字になっている。ただ、9月の数字だけで見ると、季節調整済みの経常収支が1420億円の赤字となり、第2次石油ショックが原因で輸入が拡大した1981年3月以来、31年ぶりの赤字に転落している。

貿易赤字が常態化し、所得収支が日本経済を支えている状況だが、これまでどおりの日本経済を続けられない可能性が出てきた。実際に、ドル円相場の先行きを占う指標として知られる米国シカゴの通貨先物市場でも、ヘッジファンドなどの投機筋(Non-Commercial)の投資行動が「円売りポジション」に動き始めている。

11月6日現在で、円買いポジションは前週比5080枚のプラス、円売りポジションは同比8164枚のプラス。3084枚の売り越しとなり、投機筋のトレンドは円売りが優勢になっている。ずっと円高トレンドが続いてきた為替市場だが、10月に入って以降、円安トレンドに転換。日本経済を取り巻く潮目が変わったと見ていいのかもしれない。

良いものが必ず売れる時代ではない

「良いものを作れば必ず売れる」とは、近年良く聴く言葉だが、よくできた製品が必ずしも売れるとは限らない。パナソニック製品の素晴らしさは誰もが認めるところだし、シャープの液晶テレビは群を抜いている。しかし、両社の衰退はそんな言葉を否定するいい例と言える。  

考えてみれば、G7の家電メーカーで、いまだにテレビを作っていたり、白物家電を作っているのはあまり例がない。製造業は時代と共に変化すべきものだし、いつまでも過去の栄光に浸っていると時代においていかれる。アップルの子会社が、米国でモノづくりをはじめると言うニュースがあったが、米国がここにいたるまではかなりの痛みと努力があったはずだ。

業種や業態、国境の枠を超えて、次の時代を視野に入れた動きができないのであれば、政府の要望で銀行がどんなに巨額融資を繰り返しても、いずれは破綻する可能性もある。現在の米国が、リーマンショックからいち早く立ち直りつつあるのは、経営危機に陥った企業や銀行などをいたずらに延命措置をとらずに、素早くかつ淡々と破綻処理を繰り返したからだ。

円安リスクを改めて意識すべきとき

いずれにしても、今後はもう少し円安リスクに警戒すべきだろう。市場はしばしばオーバーシュートする。行き過ぎた円高の次は、行過ぎた円安局面があるかもしれない。もっとも、現在の日本の個人投資家はすでに莫大な資金を外貨に投資している。いずれは円安基調となるのは明らかだ。現在の日本のリスクがインフレであることを理解している人は、少なくとも外貨に投資しているはずだ。

むろん、銀行にそのまま円預金している人が圧倒的に多いのだが、円安による輸入インフレなどによって、その資産が目減りしていくことにいずれは気がつくはずだ。そのときから動いたのではすでに遅い。

経済ジャーナリスト

経済ジャーナリスト。雑誌編集者等を経て、1982年より独立。経済、金融などに特化したフリーのライター集団「ライト ルーム」を設立。経済、金融、国際などを中心に雑誌、新聞、単行本などで執筆活動。テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活 動している。近著に「日本人が知らなかったリスクマネー入門」(翔泳社刊)、「老後破綻」(廣済堂新書)、「はじめての海外口座 (学研ムック)」など多数。有料マガジン「岩崎博充の『財政破綻時代の資産防衛法』」(http://www.mag2.com/m/0001673215.html?l=rqv0396796)を発行中。

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