ハリウッドもびっくり「鬼滅の刃」大ヒットが見せつけた、“国産映画”の重要性
「劇場版 鬼滅の刃」が、日本で爆発的なヒットをしているようだ。異例の拡大上映をしているとはいえ、売り切れの回も多数で、初日の売り上げは10億円に達したという。IMAXの成績も、おそらく史上最高になる模様とのこと。このニュースは、早速ハリウッドのメディアでも報道された。Deadline.comは、「『アナと雪の女王2』の日本の初日3日の売り上げは1,820万ドルだったのに対し、『鬼滅〜』は3,000万ドル行きそうだ」と伝えている。
普段でも快挙だが、コロナ禍である今はとくに、ハリウッド関係者にしてみたら、羨ましいし、考えられないことだろう。アメリカでは、あいかわらず映画館ビジネスは死んだも同然の状態。地域によって開いている映画館もあるが、この状況で新作を出すことをスタジオが渋り続けているため、観客にとっては行く理由がない。「これでは、店は開いていても野菜も果物も肉も売っていない食料品店と同じ」と、世界で2番目の規模のシネコンチェーン、シネワールドは、再開したばかりだったアメリカとイギリスの劇場をまたもや全部閉めている。
現地時間17日、ようやく、ニューヨークのアンドリュー・クオモ州知事は、今月23日からニューヨーク市以外の州内の映画館に再開を許すと発表したが、その決定が出る前に、11月に予定されていた「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」は来年に、ピクサーの「ソウルフル・ワールド」はDisney+に動いてしまった。次に控えるメジャー作品は、11月25日公開のドリームワークス・アニメーションの「The Croods: A New Age」で、それまでは開けていても閑古鳥が鳴き続けることは間違いない。最大手のAMCなどは、生き延びるための必死の手段として、一般に向けて貸し切り上映を提供し始めている。1グループ20人までで、料金は99ドルから。20人集まれば、ひとり当たり5ドルになるので格安だが、それでも、見たいと思える新作がない中、どれほど需要があるのか疑問だ。
映画館が健闘しているのは、ハリウッドだけに頼らなかった国
AMCは、今の状況が続けば手持ちの現金が年末には尽きると言っている。シネワールドも、スタジオが「1本だけでなく、次々と新作を公開するラインナップを確定してくれるまで」ビジネスを再開しないという。そんな中、日本では、人が行列をなして映画館にやって来ている。それは、ハリウッド映画だけに頼るのでなく、国民にアピールする国産の商品も多数提供されるシステムが確立しているからだ。
もちろんこれは日本だけに限らない。中国では今、自国の映画「八佰」が大ヒット中。今作はすでに全世界興行収入の首位に君臨している。韓国でも、7月に公開された「新感染半島 ファイナル・ステージ」(来年1月日本公開予定)が、今年の公開初週末最高記録を達成した。この映画は、台湾、ベトナム、マレーシア、シンガポールなどでも首位を獲得している。
ハンガリーやポーランドなど東ヨーロッパでも、自国の映画のおかげで映画館ビジネスが生きながらえているという。そのため、シネワールドは、これらの国では映画館を閉めるつもりはない。同社のCEO、ムーキー・グレイディンガーは、Deadline.comへのインタビューで、「かけられる映画があるなら、劇場は開ける。ヨーロッパ中部の強みは、国産の作品があること。ポーランドではポーランド映画が、ハンガリーではハンガリーのヒット映画が、劇場のドアを開け続けることを可能にしている。アメリカとイギリスで、‘自国の映画’はハリウッド映画だ。それがないかぎり、営業しても意味はない」と語っている。
コロナパニックが始まって以来、マスクをはじめ、特定の商品が不足したりして、輸入ばかりに頼ってきたことの弊害が実感されてきた。その頃は誰もそこまで考えが及ばなかったが、それは映画に関しても言えることだったのである。アメリカのコロナ感染状況が改善され、ニューヨーク市とロサンゼルス郡でも映画館が再開し、ハリウッドのスタジオが超大作の公開に踏み切るまで、この状況はしばらく続く。それまで、アメリカ人は映画館から遠ざかり、劇場オーナーは苦しみ続ける。その間も楽しみにできる作品がある国の劇場主と映画ファンは、ラッキーである。