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クレイジージャーニーが「過剰演出」ー背景にあるのは「コーディネーターへの無茶な要求」か

鎮目博道テレビプロデューサー・演出・ライター。
(写真:アフロ)

 またもTBSが過剰演出をしてしまった。問題となっているのは8月14日放送の「クレイジージャーニー」の特番と深夜の放送。事前に用意していた動物を、あたかも「爬虫類ハンター」が捕獲していたように放送したのだ。

 なぜこのような事が起きてしまったのか?実は近年、海外ロケ番組がブームとなっているのだが、その制作体制があまりにタイトである事が業界内では指摘されていた。筆者の知り合いの海外コーディネーターにも、「制作サイドからの要求があまりにキツいので、仕事を辞めようと思っている」と漏らしている人物がいるくらいだ。どういうことか説明しよう。

1.海外ロケには日数と予算が必要

 当然といえば至極当然だが、海外ロケを行うにはかなりの日数と予算が必要だ。それも最近のように、アフリカや南米など、大自然がそのまま残っている発展途上国を取材する番組が流行していると、かなり入念な準備が必要になる。

 まず、こうした国へ行くには取材ビザが必要で、その発給に時間がかかる場合が多い。状況によってはなかなかビザは下りない。さらにアフリカや南米などの地域に渡航するには、様々な伝染病の予防接種を済ませた証明書が必要となる場合も多い。これらの準備には普通の人が予想する以上の日数がかかる。場合によっては1ヶ月以上も準備期間がかかることもある。準備に時間がかかるということはそれだけ、予算も必要額が多くなるということだ。

2.野生動物がいるような辺境部は、治安も悪い

 そして、こうした国の中には治安が非常に悪い国も多い。特に野生動物が生息するような地域は、国の中でも辺境部にある場合が多く、そうした地域はかなり治安が悪い。となると、安全にロケを行うためには、事前にその地域の状況を正確に把握し、場合によっては政府や軍の協力を仰いだり、ボディーガードを雇うなどしなければならない。これもまた、準備に時間とお金がかかる1つの要因になるし、その地域へ渡航することの是非も慎重に検討されなければならなくなる。なぜなら、出演者やスタッフの生命に危険が及ぶからだ。

3.海外ロケ番組の増加に伴い、不慣れなスタッフが増えた

 しかし、そんな中先ほども述べたように、海外でロケをする番組は流行していて、その数は増えている。制作にあたるスタッフや制作会社も、日頃から海外ロケに慣れた人たちばかりではなく、比較的不慣れな人が駆り出される事が多くなってきている。

 また、テレビ番組の予算は全体的に減少傾向にある。それは海外ロケがある番組でも同じ事だ。となると、予算やロケ期間をできるだけ安く、短くして制作しようということになる。さらにその番組の制作を、不慣れなスタッフが担当するとどうなるか…そう、海外コーディネーターにしわ寄せがくるのである。

しわ寄せは必ず「海外コーディネーター」にやってくる

 恐らくは今回の「過剰演出」も、そうした事情が複合的に重なり、起きてしまったのではないか。つまり、出演者のスケジュールや治安の状況からして、実際に野生動物が生息するような辺境部に行くのは困難だった。また、準備にもあまり時間はかけられない。しかし、面白い映像は撮らなければならない。きっとそんな状況だったのではないだろうか。

 考えてもみて欲しい。昔から、多くのいわゆる「やらせ」は海外を舞台に行われている場合が多い。最近でも日本テレビの「世界の果てまでイッテQ!」のお祭り捏造問題も、やはり海外が舞台となり、コーディネイト会社の責任が追及された。

 「海外だからわからないのではないか」という、許されない考え方。そして、厳しい条件の下、できるだけ面白い映像を撮影したいというギリギリのせめぎ合い。…過当競争気味の海外番組の制作スタッフたち、特に海外コーディネーターたちが置かれた苦しい立場について、今一度考えてみる事が、こうした海外ロケ番組の「過剰演出」を減らすことに繋がると思う。

テレビプロデューサー・演出・ライター。

92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教を取材した後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島やアメリカ同時多発テロなどを取材。またABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、テレビ・動画制作のみならず、多メディアで活動。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究。近著に『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)

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